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第三章 小さな願い (少年視点)
四話 ①
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ノイア様は僕をお屋敷に連れて帰るとすぐにお医者様を呼んでくださった。無理に声を出したことで帰りの馬車の中で少しだけ吐血してしまったのだ。そのこともあってノイア様は僕をほんの僅かな時間も離してくださらない。僕の定位置はノイア様の腕の中か膝の上という感じになっていた。口にはなさらないけれど、目を離すとまたいなくなってしまうんじゃないかって怖いんだと思う。僕もそうだから……。
お医者様のお話では、いただいたお薬をきちんと飲んで安静にしていれば段々元のように声を出せるようになるらしい。そうしたら僕はノイア様と沢山たくさんおしゃべりするんだ。いいことも悪いことも、沢山たくさん。もう僕はそんな幸せなふたりの未来を信じることができるから。
*****
そうして数日が過ぎ、僕の声が問題なく出せるようになってもノイア様と僕との距離は変わらず、むしろ近づいたようにも思う。ノイア様の不安が完全になくなったというわけではないようだったけれど、ただ好きでそうしたいと思ってくださっているのならそのままでもいいと思った。そういう僕も最近の近い距離もおしゃべりも嬉しくて、僕たちは少し浮かれてしまっていて周りが見えていなかったのかもしれない。
「はずか、しぃ……で、す」
「んー? それは私のことが好きということか? それとも愛してるってことか?」
そう揶揄うように問うノイア様の表情は柔らかく、そういうこと言ってないですよね? だなんて野暮なことは言えなかった。それにどちらも間違いではなかったから余計に。だから僕はノイア様の胸に顔を埋めることで答えることにした。頭上から笑い声が降ってくる。ふふ。ノイア様、愛しています。
「私も愛しているよ。リヒト」
口に出していないのに、ノイア様には聞こえていたみたいで僕は驚いてしまった。顔を上げたところで顎を掬われ、優しい瞳が問う。僕はそれに答えるようにそっと瞳を閉じた。
「ふ……っ、んぅ。ん、ん」
長いキスの後、自身の唇の端に流れるどちらのものとも分からない唾液をぺろりと舐めると「──リヒトの唾液は甘いな」と言って笑った。
あのとき、やっぱり薬草汁の口直しとして僕の口の中を舐め回したり舌を吸ったりしたんだ。やっとできた答え合わせのようで、くすりと笑った。
「ん?」
「いいえ、ノイア様はお可愛いなって……ふふ」
「可愛い? 俺が?」
「俺?」
「あぁ……気をつけていたんだが、リヒトが突拍子もないことを言うから素が出てしまった」
「素、ですか? そうなら嬉しい、です」
「嬉しい、か。リヒトがそう言うならリヒトと話すときは『俺』でいくことにするか」
「はい!」
ノイア様は嬉しそうに笑う僕を抱きしめた腕をそっと解き、ベッドから降りて僕の前に跪くと真剣な顔をして言った。
「俺はリヒトを愛している。離れてみて分かったんだ。もう一分一秒すらリヒトが傍にいない人生なんて考えられない。どうか俺の夫になってはくれないか?」
こんな短期間にふたりからプロポーズされて驚くが、心踊るのはノイア様からの言葉だけ。僕は微笑み、「はい」と答えた。
ふたりの唇が再び重ねられ、深いキスへと変わる。このまま──というところで突然の侵入者の気配に身構える。
「私は……こんなにも強くあなた様のことを想っておりましたのに。あなた様の為に恩ある旦那様を裏切り、ソーマ様や奥様も──」
「──ズ……イ……?」
ズイ様の様子はおかしかった。無断で主人であるノイア様の寝室に入ってきたこともそうだけど、明らかに睦言の最中だというのに部屋から出ていかないこともおかしかった。それに言ってることも……。
ノイア様もズイ様の様子がおかしいことに気付かれたのか、僕を背中に庇うようにしてくださっている。
お医者様のお話では、いただいたお薬をきちんと飲んで安静にしていれば段々元のように声を出せるようになるらしい。そうしたら僕はノイア様と沢山たくさんおしゃべりするんだ。いいことも悪いことも、沢山たくさん。もう僕はそんな幸せなふたりの未来を信じることができるから。
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そうして数日が過ぎ、僕の声が問題なく出せるようになってもノイア様と僕との距離は変わらず、むしろ近づいたようにも思う。ノイア様の不安が完全になくなったというわけではないようだったけれど、ただ好きでそうしたいと思ってくださっているのならそのままでもいいと思った。そういう僕も最近の近い距離もおしゃべりも嬉しくて、僕たちは少し浮かれてしまっていて周りが見えていなかったのかもしれない。
「はずか、しぃ……で、す」
「んー? それは私のことが好きということか? それとも愛してるってことか?」
そう揶揄うように問うノイア様の表情は柔らかく、そういうこと言ってないですよね? だなんて野暮なことは言えなかった。それにどちらも間違いではなかったから余計に。だから僕はノイア様の胸に顔を埋めることで答えることにした。頭上から笑い声が降ってくる。ふふ。ノイア様、愛しています。
「私も愛しているよ。リヒト」
口に出していないのに、ノイア様には聞こえていたみたいで僕は驚いてしまった。顔を上げたところで顎を掬われ、優しい瞳が問う。僕はそれに答えるようにそっと瞳を閉じた。
「ふ……っ、んぅ。ん、ん」
長いキスの後、自身の唇の端に流れるどちらのものとも分からない唾液をぺろりと舐めると「──リヒトの唾液は甘いな」と言って笑った。
あのとき、やっぱり薬草汁の口直しとして僕の口の中を舐め回したり舌を吸ったりしたんだ。やっとできた答え合わせのようで、くすりと笑った。
「ん?」
「いいえ、ノイア様はお可愛いなって……ふふ」
「可愛い? 俺が?」
「俺?」
「あぁ……気をつけていたんだが、リヒトが突拍子もないことを言うから素が出てしまった」
「素、ですか? そうなら嬉しい、です」
「嬉しい、か。リヒトがそう言うならリヒトと話すときは『俺』でいくことにするか」
「はい!」
ノイア様は嬉しそうに笑う僕を抱きしめた腕をそっと解き、ベッドから降りて僕の前に跪くと真剣な顔をして言った。
「俺はリヒトを愛している。離れてみて分かったんだ。もう一分一秒すらリヒトが傍にいない人生なんて考えられない。どうか俺の夫になってはくれないか?」
こんな短期間にふたりからプロポーズされて驚くが、心踊るのはノイア様からの言葉だけ。僕は微笑み、「はい」と答えた。
ふたりの唇が再び重ねられ、深いキスへと変わる。このまま──というところで突然の侵入者の気配に身構える。
「私は……こんなにも強くあなた様のことを想っておりましたのに。あなた様の為に恩ある旦那様を裏切り、ソーマ様や奥様も──」
「──ズ……イ……?」
ズイ様の様子はおかしかった。無断で主人であるノイア様の寝室に入ってきたこともそうだけど、明らかに睦言の最中だというのに部屋から出ていかないこともおかしかった。それに言ってることも……。
ノイア様もズイ様の様子がおかしいことに気付かれたのか、僕を背中に庇うようにしてくださっている。
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