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第二章 青年 (青年視点)
三話 ② ※人死に
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私たちは数名ずつ屋敷内と領民の住む街とに別れてレント伯爵が死亡したこととこの領はそのまま王家に返還され、保護されることを大声で知らせて回った。不安や恐怖から抵抗することで、領民であっただけの関係ない者たちに無駄な血を流して欲しくなかったからだ。
私はまだ余力はあるものの傷に障るとして、馬で広範囲を駆けて回らずにすむ屋敷内を回ることにした。どうしてもということでズイも伴っている。
その途中、屋敷の隅にひっそりと存在する倉庫のような部屋を見つけた。近づいてみると、中から男たちの下卑た笑い声が外にまで聞こえてきて、眉間に皺が寄る。中で行われているであろうことが想像できて、怒りを覚えた。慎重に扉を開けて中を窺ってみると想像通り、大柄な男が小さな子どもを襲おうとしていた──。その光景に鼓動がバクバクと煩く、押し寄せる思考がまとまらない。アレハ……ナニヲシテイル。アレハ、アレハ──? オレハ──?
次の瞬間私は、外に出てきた男の首を音もなく刎ねていた。そうして更にひとり、ふたり──気がつくと私は血濡れの剣を手に倒れた男たちを見下ろしていた。後ろを振り向くと、部屋の入り口にもひとり、さっきの首なしの男が転がっている。そして目の前には少年にのしかかるようにしてふたりの男たちが息絶えていた。
どうやら私が殺したようだ。レント伯爵以外はできるだけ殺したくはなかったが、こうゆう輩が私は虫唾が走るほど嫌いだった。だから後悔はない。私は男たちの死体の下敷きになっていた少年を救い出し、改めて近くで見た少年の姿に思わず息を呑んだ。生きているのが不思議なほどあちこち傷だらけでボロボロの少年だったのだ。少年は視線を彷徨わせていた為私が怖いのかと思ったが、私の全身を見ているようだった。そして安心したように息を吐き、微笑んだのだ。「え……」思わず呟く。
──もしや私に怪我がないか確認を……?
あぁ……神様──っ!
胸がいっぱいになり、なにか声をかけたいのにかけられずにいると、少年はそのまま気を失って私の腕の中へと倒れ込んだ。そんなギリギリな状態で人のことを気遣える少年に庇護欲が芽生える。なんとしても私の手で幸せにしたい──。それとは別に、なぜか私は腕の中の少年の温もりに既視感を覚えた。初めて会ったはずなのに少年の温もりが懐かしいような、なぜかしっくりくる気がしたのだ。私は少年を自分の上着で包むと、守るように腕の中に抱き抱えた。
「──ノイア様?」
「──連れ帰る」
「……」
ズイもその子に思うところがあるのだろうがなにも言わず、頭を下げて了承の意を示した。頭を下げたことでズイがそのときどんな表情をしていたか、私は気づくことはなかった。
私はまだ余力はあるものの傷に障るとして、馬で広範囲を駆けて回らずにすむ屋敷内を回ることにした。どうしてもということでズイも伴っている。
その途中、屋敷の隅にひっそりと存在する倉庫のような部屋を見つけた。近づいてみると、中から男たちの下卑た笑い声が外にまで聞こえてきて、眉間に皺が寄る。中で行われているであろうことが想像できて、怒りを覚えた。慎重に扉を開けて中を窺ってみると想像通り、大柄な男が小さな子どもを襲おうとしていた──。その光景に鼓動がバクバクと煩く、押し寄せる思考がまとまらない。アレハ……ナニヲシテイル。アレハ、アレハ──? オレハ──?
次の瞬間私は、外に出てきた男の首を音もなく刎ねていた。そうして更にひとり、ふたり──気がつくと私は血濡れの剣を手に倒れた男たちを見下ろしていた。後ろを振り向くと、部屋の入り口にもひとり、さっきの首なしの男が転がっている。そして目の前には少年にのしかかるようにしてふたりの男たちが息絶えていた。
どうやら私が殺したようだ。レント伯爵以外はできるだけ殺したくはなかったが、こうゆう輩が私は虫唾が走るほど嫌いだった。だから後悔はない。私は男たちの死体の下敷きになっていた少年を救い出し、改めて近くで見た少年の姿に思わず息を呑んだ。生きているのが不思議なほどあちこち傷だらけでボロボロの少年だったのだ。少年は視線を彷徨わせていた為私が怖いのかと思ったが、私の全身を見ているようだった。そして安心したように息を吐き、微笑んだのだ。「え……」思わず呟く。
──もしや私に怪我がないか確認を……?
あぁ……神様──っ!
胸がいっぱいになり、なにか声をかけたいのにかけられずにいると、少年はそのまま気を失って私の腕の中へと倒れ込んだ。そんなギリギリな状態で人のことを気遣える少年に庇護欲が芽生える。なんとしても私の手で幸せにしたい──。それとは別に、なぜか私は腕の中の少年の温もりに既視感を覚えた。初めて会ったはずなのに少年の温もりが懐かしいような、なぜかしっくりくる気がしたのだ。私は少年を自分の上着で包むと、守るように腕の中に抱き抱えた。
「──ノイア様?」
「──連れ帰る」
「……」
ズイもその子に思うところがあるのだろうがなにも言わず、頭を下げて了承の意を示した。頭を下げたことでズイがそのときどんな表情をしていたか、私は気づくことはなかった。
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