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第二章 青年 (青年視点)

三話 ① ※人死に

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 なんとか自領との境界付近にまで辿り着くと、ズイと無事合流できた。探し続けてくれていたのか、私の姿を見つけた途端必死の形相で駆け寄ってきて、泣きながら抱きしめられた。ズイには心配ばかりかけてしまい申し訳なく思う。ズイは私の乳姉妹ということもあり、私の両親や兄のことを本当の家族のように思ってくれていたはずだ。そんな家族の死にショックを受けないはずがない。おまけにあの凶行を防げたかもしれない者として責任を感じているはずだ。そして今回の私の行方不明事件もあり、心労はいかばかりだろうか。本当に申し訳ないと思うと同時にズイがいてくれてよかったと身勝手にも思ってしまうのだ。立派な領主になる為には強くあらねばならない。甘えは捨てると誓ったはずが、そう思えば思うほどどんどんズイに甘え、依存してしまう。私はあまりにも未熟で色々なことを知る前に領主になってしまった。そんな私を支え導いてくれるズイは私にとってなくてはならない存在になっていた。
 私を抱きしめるズイの背に自らの腕も回し、抱きしめ返した。ホッとするはずがどこかこの温もりに違和感を感じていたが、気づかないフリをした──。


 再会を果たし屋敷に帰ると、期待通り調査は終わっており結果を報告してくれた。突然行方不明になった私のことも探してくれていたのに、レント伯爵についても調べ上げてくれていた。自領付近ですぐに合流できたこともそうだが、本当にズイは優秀でズイがいなかったらと思うとゾッとする。

 ──調査結果は、やはり予想通りレント伯爵がすべての黒幕だった。
 私はすぐに王に敵討ちの許可を書状で求めた。この行為は色々な手続きを飛ばしたもので無礼であり、王を軽んじていると受け取られかねない行為だったが、私が直接王城へいくわけにはいかなかった為そうするしかなかったのだ。王都とここは離れている為、腹に治りきらない傷を抱えたままの王都への長旅は自殺行為だったのだ。それでは時間もかかる上に許可が下りたとしても敵を討つことはできないだろう。その旨もしっかりと書状に記し、非礼も詫びた。ズイが調べた情報もなにひとつ隠すことなく、いかにレント伯爵があくであるかを訴えた。その上で、レント伯爵を討ち、主が不在になった領はうちに吸収合併することなく王家に返還するとした。敵討ちとしながら要は領と領との戦争になるのだから本来勝った方が負けた方の領土を貰うのは当然の権利だった。だがそれを放棄することにしたのは、その方が許可を得られやすいというズイの意見に従ったからだ。そしてズイの予想通り、すぐに王より敵討ちを許可する書状が届けられた。さすがはズイだ。私ひとりであればもっと時間がかかっていたはずだ。それどころか許可も下りなかったかもしれない。

「ノイア様、いよいよでございます」

 そう言って軽鎧に身を包んだズイが力強く頷き、私もそれに頷いて答えた。今回はスピード勝負の為あえて軽鎧にしているが、これもズイの提案によるものだ。
 正直不安はある。私はまだ本調子ではない。長旅でなくても激しく動くと傷口が開いてしまいそうだった。だが、だからこその『今』なのだ。私の暗殺に失敗したとはいえ深傷を負わせたのだ。すぐに襲撃されるとは思っていないだろう。油断し、私のことをみくびっている今がチャンスなのだ。なんとしてでも生き残り、私がこの領を守らなくては──!


*****

 レント伯爵との戦いは結果だけ言うと、こちらの圧勝で終わった。少数精鋭、少人数の私兵とズイを伴いレント伯爵領へと侵入した。闇に紛れ、誰にも気づかれることなく、油断して寝酒を楽しんでいたレント伯爵を討ったのだ。あっさり、なんの手応えもなく、こんなものか……と思った。

「……」

 憎き敵を討ったのだ。もっと喜べるはずだった。だが私の心の中は空虚で、ズイだけが「ご立派でございます!」と興奮した様子で叫んだ。だから私は「うむ。ズイがいてくれたおかげだ。感謝している」と答えた。

 大将を失ったレント伯爵領の者たちは最後の悪あがきのように抵抗を見せる者もいたが、大抵は大人しくしていた。途中レント伯爵の妻と娘も見つけたがその場に放置することにした。彼女たちがこれまで使用人や領民たちに対してどう接してきたかによって彼女たちの今後が決まるのも一興。なんせ領民たちは上の人間が変わるだけで、そう変わりはないのだ。むしろ楽になることもあるかもしれない。普段から領民に対して優しく接していたなら助けてもらえるはずだ。そうでないのならそれは自業自得というものだ。
 彼女たちから離れてすぐに後ろの方で女たちの叫び声が聞こえてきたが、私は一度目を瞑り小さく息を吐いただけで振り向くことはなかった──。






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