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第一章 少年 (全知視点)
五話 ※暴力表現
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表面上は少年の待遇は改善され、もう気にする必要もないはずなのに、ルイスは少年のことが気になって仕方がなかった。見かけない日は探し出してまで「こんにちは。つらいことはないかい?」と声をかけ、持ち込んだお菓子を手渡したりした。そしてジェニファーには義務のように挨拶をするのみだった。元々政略結婚のつもりだったルイスの気持ちは完全にジェニファーから離れてしまっていた。どんどんジェニファーの表情が怖いものへと変わっていっていることに気づこうともせずに、ルイスの頭の中は少年のことだけだった。その想いは少しずつふっくらとして美しくなってきた、いや本来の美しさを取り戻しつつある少年を見る度に、どんどんどんどん膨らんでいった。頬に残る火傷の痕も気にならないほど少年の美しさに惹かれてしまっていた。自分は気にはならないが少年が気にするのなら今は無理でもお金を貯めて火傷痕を消すことができる薬を買ってやろうと思うほどに、どっぷりと少年にハマってしまっていた。
愛しさを込めそっと火傷痕に指先で触れて、少年の肩がびくりと震える。自分に向けられた怯えた仔鹿のような透き通るように青いつぶらな瞳にルイスはぞくりとした快感を覚えた。最初はただの正義感や善意によるものだった。だが今は完全に少年に恋してしまったが故の愚行。少年の主人の娘の婚約者であるのなら決して抱いてはいけない感情だった。少年に罪はない。もしも罪があるのだとすれば、ただ美しかったこと。その美しさがルイスを魅了したことだ。だがそれが問題だった。自ら誘惑したわけでなくても少年は罰を受ける──。
「──っ!!」
「このっ! 恩知らずっ! 私の婚約者に色目を使って! 卑しい奴隷以下の分際でっ!!!」
「バシッ」「バシッ」と少年を打つムチの音が部屋中に響き、裂けた肌から赤い血が飛び散る。あれからルイスはジェニファーを無視して少年に会う為だけに屋敷に通い始めた。気持ちを隠すつもりもないらしく、少年には不釣り合いな高価な贈り物まで毎日持ち込み甘い言葉を囁いた。そして挙げ句の果てには少年のことを引き取りたいと言い出したのだ。奴隷ということでいくら払えばよいか、と。少年はひとことも買って欲しいともここから連れ出して欲しいとも言ってはいない。少年は青年からの愛の囁きに、いつも困ったように首を横に振るだけだった。
少年の扱いについて言及したはずの者が、少年の意思を無視して金で買うというのだからルイスも悪い意味で貴族だったということなのだろう。自分が信じるものはすべてが正しいという考え方だ。もちろんそんな申し出にジェニファーが応じるはずもなく、ジェニファーの扱いに怒ったレント伯爵によってふたりの婚約は解消され、少年は今までよりももっと酷い扱いを受けることになった。
だが少年は、ムチでひどく打たれているにもかかわらず微笑んでいた。つらければつらいほど青年に想いを馳せた結果だった。そんな少年を気味悪く思ったジェニファーはムチで打つよりももっとひどい暴力を思いつき、口元を愉快そうに歪めた。最初はそういう目的の奴隷だったと聞いている。頬の火傷の痕でそれが叶わなくなったというが、下男相手であればそう問題はないだろうとジェニファーは考えた。その手の仕事をする、慣れた者であっても体格差はきついと聞く。少年と下男では体格差はありすぎるほどある。しかも乱暴にするとなれば怪我もするだろうし肉体的にも精神的にも苦痛を与えられるはずだ。あの人を見下したような微笑みを止めさせ、ルイスが愛した美しい顔が苦痛に歪むならきっとスッキリするだろう。
「──ふふふ……。ふふふふふ、あはははは……!」
薄れゆく意識の中、そのことを想像していつまでも笑い続けるジェニファーの声を少年の耳は意味もなく聞いていた。
愛しさを込めそっと火傷痕に指先で触れて、少年の肩がびくりと震える。自分に向けられた怯えた仔鹿のような透き通るように青いつぶらな瞳にルイスはぞくりとした快感を覚えた。最初はただの正義感や善意によるものだった。だが今は完全に少年に恋してしまったが故の愚行。少年の主人の娘の婚約者であるのなら決して抱いてはいけない感情だった。少年に罪はない。もしも罪があるのだとすれば、ただ美しかったこと。その美しさがルイスを魅了したことだ。だがそれが問題だった。自ら誘惑したわけでなくても少年は罰を受ける──。
「──っ!!」
「このっ! 恩知らずっ! 私の婚約者に色目を使って! 卑しい奴隷以下の分際でっ!!!」
「バシッ」「バシッ」と少年を打つムチの音が部屋中に響き、裂けた肌から赤い血が飛び散る。あれからルイスはジェニファーを無視して少年に会う為だけに屋敷に通い始めた。気持ちを隠すつもりもないらしく、少年には不釣り合いな高価な贈り物まで毎日持ち込み甘い言葉を囁いた。そして挙げ句の果てには少年のことを引き取りたいと言い出したのだ。奴隷ということでいくら払えばよいか、と。少年はひとことも買って欲しいともここから連れ出して欲しいとも言ってはいない。少年は青年からの愛の囁きに、いつも困ったように首を横に振るだけだった。
少年の扱いについて言及したはずの者が、少年の意思を無視して金で買うというのだからルイスも悪い意味で貴族だったということなのだろう。自分が信じるものはすべてが正しいという考え方だ。もちろんそんな申し出にジェニファーが応じるはずもなく、ジェニファーの扱いに怒ったレント伯爵によってふたりの婚約は解消され、少年は今までよりももっと酷い扱いを受けることになった。
だが少年は、ムチでひどく打たれているにもかかわらず微笑んでいた。つらければつらいほど青年に想いを馳せた結果だった。そんな少年を気味悪く思ったジェニファーはムチで打つよりももっとひどい暴力を思いつき、口元を愉快そうに歪めた。最初はそういう目的の奴隷だったと聞いている。頬の火傷の痕でそれが叶わなくなったというが、下男相手であればそう問題はないだろうとジェニファーは考えた。その手の仕事をする、慣れた者であっても体格差はきついと聞く。少年と下男では体格差はありすぎるほどある。しかも乱暴にするとなれば怪我もするだろうし肉体的にも精神的にも苦痛を与えられるはずだ。あの人を見下したような微笑みを止めさせ、ルイスが愛した美しい顔が苦痛に歪むならきっとスッキリするだろう。
「──ふふふ……。ふふふふふ、あはははは……!」
薄れゆく意識の中、そのことを想像していつまでも笑い続けるジェニファーの声を少年の耳は意味もなく聞いていた。
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