お前の好きは軽すぎる

ハリネズミ

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お前の好きは重すぎる

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 俺は必死に相模を追いかけた。

 しばらく走ってやっと相模を見つける。
 空を見上げる相模の横顔が悲しげで、心臓がギュッとなる。

「相模」

 呼びかけると相模の肩が見てわかるくらいびくりと震えた。
 振り向かない事が寂しくて、もう一度呼んでみる。

「相模」

 やっと振り向いた相模の瞳はまるで迷子の幼子のように不安に揺れていた。

「ごめん」

「それは何に対してですか? 約束を破った事ですか? それとも他になにか?」

「俺、俺はお前が峰さんの事が好きで、峰さんもお前の事が好きだって聞いちゃって、だから」

「だから俺との約束を破って峰さんを寄越したんですか? でも俺は、本当はあなたの事が好きなんですよ? あなたひとりの好きが欲しいだけなんです。他の好きはいらないんです」

「さが……み」

 さっきのキスは相模の好きの気持ち?

 いや、相模がどうとかよりも、今度こそ勇気を出して自分の気持ちを伝えなきゃ。

「俺、俺……。いや、俺相模の事が好きだ。誰にも渡したくない」

 お前の告白に便乗する形じゃなくて、ちゃんと伝えたい。

 見開かれる相模の瞳。

「本当……です、か?」

 震える声で問われ、こくりと力強く頷いて応える。

「俺、本当は重いやつなんです……。それでもいい、ですか?」

 震える手が躊躇いがちに伸ばされる。
 今度こそ間違わない。

 俺は相模の伸ばされた手を取り、その手に頬を寄せ笑いかけた。

「俺の方が重いさ。お前の方こそこんな俺でもいいのか?」

「先輩!」

 相模は俺を抱き締めて泣いているようだった。
 相模の身体が僅かに震えていた。

「俺、昔初めて付き合った相手に重いってフラれて、それで次は軽いやつに見られるようにしたんです。本当は先輩以外もうずっと好きになった人なんていませんし、告白だって先輩以外なんてした事ありません。先輩に言ってた告白の数々は全部嘘です」

「お前……」

 俺がどれだけ悩んだと……。
 文句を言いそうになったが、違うなと首を振る。

 俺の事が好きで、好かれようと軽い男のフリをしてたとか、普段のお前の態度や俺を見つめる優しい瞳を見れば分かったはずなのに、俺はお前の事をちゃんと見ていなかったんだな。
 お前も自分を偽ってつらかったよな。

「相模、どんなお前でも好きだ。だから俺のものになれよ。よそ見なんか許さない。俺だけを見て俺だけに好きだって言えよ」

「熱烈な告白ですね」

 相模の瞳がいつもみたいに優しく三日月を描く。

「俺は重いからな。覚悟しろよ? 返事は?」

「勿論喜んで。先輩好きです。愛してます」

 大好きな相模の笑顔。この笑顔が全部俺のものだなんて、と頬が緩む。
 絶対他のやつになんかにやるもんか。

 ほら、俺ってお前に負けないくらい重いだろ?
 そんな事を思ってニヤつく俺に「何ですか?」って怪訝そうな顔のお前の頬にキスをおくったりして。
 「わわ」って言いながら「自分も」って相模が口にキスしてきたり。

 俺たち本当バカで重くて、最高おにあいだよな?





 そうして俺たちは俺の家に戻り、すぐさま押し倒されるわけだが、のし掛かって愛を囁いてきてキスをされて、これからそれ以上の事をするんだと思えば妙に照れくさくて、のし掛かった相模の重みが物理的にも重くて、

「お前の好きは重すぎる」

 なんて言ったけど、すぐにお前の頭を引き寄せて、


「それでも――――お前の好きは俺にはちょうどいいんだから、しょうがないよな」

 耳元でそう囁いた。

 お前は涙を浮かべ俺の一番大好きな笑顔で嬉しそうに笑ったんだ。





-終-
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