お前の好きは軽すぎる

ハリネズミ

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軽すぎる男(2)

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「先輩」

「へ?」

 振り返ると帰ったはずの相模がコンビニ袋を提げて立っていた。

「お前帰ったんじゃ……」

「これ、差し入れです。俺も手伝います。ふたりでやれば早く終わりますよ」


 正直ひとりではどうにもならないくらいハマっていて、相模の申し出はありがたかった。

 袋から取り出される沢山のおにぎりと一本のペットボトル。

「――すまん。助かった。あれ、飲み物……一本か?」

「え? あ、本当だ。すみません……買い忘れたみたいです」

 そう言って眉毛をへにょりと下げた。
 きゅん。

「じゃ、じゃあ俺はいいからお前飲めよ」

 胸の小さな高鳴りを悟られないように、俺の前に置かれたペットボトルをずいっと相模につき返す。

「いえ、水分大事です。先輩さえよかったら――一緒に飲みましょう?」

 え、それって……。

 おにぎりを選ぶフリでチラリと相模を伺えば、普通に「俺、鮭好きなんですよね」とモグモグと鮭おにぎりを頬張っていた。

 なぁーんだ。全然意識してねーじゃん……。
 男同士で回し飲みしたからって、普通は何も思わねーよな。
 俺だけ意識してバカみたいだ。

 胸のあたりがちくりと痛んだが、今は仕事の事だけ考えないと。
 俺も適当に相模が買ってきてくれたおにぎりをパクついて、躊躇する事なく飲み物を相模と共有した。


*****

 相模のお陰で何とか日を跨ぐ前に仕事を終える事ができた。
 ひとりだったらどうなっていたのか、考えるだけで身震いがする。

「終わったー。お疲れー! マジ助かった! 今日ダメになった埋め合わせもあるし、今日のお礼に今度めし奢らせてくれ」

 凝り固まった身体を伸ばしながら言う俺。

 相模は疲れた様子も見せず、嬉しそうに笑って応えた。

「楽しみにしてますね」

「あんまり高すぎない店でお願いします」

 俺は相模との軽口を楽しみたくて、わざとお願いしますなんて言ってみる。

「どうしようかなー? 『花風』とかー『紅葉』とかー」

 相模も俺との軽口に乗ってくれて、あり得ない高級店の名前を出してきた。
 『花風』も『紅葉』も上得意を接待するような、俺らのような平のサラリーマンではおいそれとは手の出せないような高級店だ。

「そこは……! ぐぬぬ。給料日の後なら……」

「冗談ですよ。先輩と食事ができるならどこでも俺は――――」

 ほぅ――っと大げさに安堵の溜め息をつけば、どちらともなくくすくすと笑い合った。

 ひとしきり笑い合って生理的に出た涙を拭った。
 そろそろ帰らないと終電を逃してしまう。
 名残惜しいが会話を〆る事にする。

「どこかいいとこ考えとく」

「約束ですよ?」

 そう言ってスッと差し出される小指。
 一瞬躊躇ったが相模によって強引に絡ませられた小指と小指。

 『ゆびきりげんまん』
 子どもが行うようなただの約束の儀式。

 すぐに絡められていた小指は離れ、鞄を持って、「早く帰りましょう」と促される。

 相模の何気ない行動に俺は惑わされっぱなしだ。
 ゆびきりげんまんくらいで俺の心臓はドキドキと煩いけど、お前は……?

 なぁ相模、もう一度……好きって言ってくれたなら――――俺は……。
 前を歩く相模の背中にそっと呟いてみた。


 会社を出て駅で相模と別れても、いつまでも熱を持った頬が冷める事はなかった。
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