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恋する金平糖

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 俺は施設で育ち、両親の顔も名前も知らない。それはなにも俺が特別というわけではなく、施設で育つ子どもたちの殆どが似たようなものだった。
 それでも後にαだと分かれば状況は変わるのだけど、大抵はβかΩで、αだなんて夢のまた夢だった。

 孤児たちを集めたこういう施設はそんなに数もなく、国からの補助金はあるものの大抵施設の経済状態はよくない。だから自分たちでなんとかするしかなかった。
 とは言え子どもの労力なんてたかが知れているし、好き好んで雇ってくれるところもなかった。だから一部の――Ωと判定された子が成長し、施設を出ていく年齢になるとΩ性を売ることで命を繋いできた。これからの自分の為に、施設に残る血の繋がらない弟妹たちの為に――。
 誰も喜んでそれをやっているわけじゃないし、強制でもない。だけど、俺たちの前に道は沢山あるように見えて実際は進む道は決まっている。なにをしてでも稼がないと生きてはいけないし、施設で育つみんなは家族のように思っている。だからそうすることが当然のことだと思うほどみんな諦めていたし、心は麻痺していた。
 他で育つやつらのことは知らないが、少なくとも俺たちはそうやって生きてきたのだ。生かされてきたのだ。

 本当はその時・・・がくるまで知ることはないのだけど、俺はそのことを随分早い段階で知っていた。性のなんたるかも分からないような子どもには強烈な『未来』だった。未分化にもかかわらず、自分もいずれ辿る道なのだと直感的に分かっていた俺は不安で不安で堪らなかった。だけど誰にも相談することなんてできなくて、そして気づくのだ。どう足掻いても変わることのない未来なのだと。それでも到底受け入れることなんかできなくて、なにか・・・に対して俺はずっと怒っていた。そして心の片隅で誰かが助けてくれることを必死に願っていた。
 そんな時、ふと隣りを見ればまるまるふくふくと、なんの不安もなく生きている雪夜ゆきやが目に入った。なんの不満があるのか雪夜はいつもなにかを諦めたような顔をしていた。それが無性に腹が立ってしょうがなかった。
 なんでも持ってるくせにそんな顔するなっ!

 俺は雪夜にあたることで自分の心の平静を保とうとした。今ならそんなのはただの子どもの八つ当たりでなんの解決にもならないし、してはいけないことだったと分かるけど、当時の俺はまともに物事を考えることができなくなっていたように思う。なんでも持っている雪夜ならなにも持たない俺がいじめてもいい、本気でそう思っていた。ただ、暴言や暴力はされるのもするのも嫌だったから揶揄うに留めていたけれど、そんなのは手前勝手な言い訳でしかない。雪夜にとってアレは『いじめ』だったに違いないのだ。
 色々なことから目を背け、めなきゃって頭の片隅で思いながらも雪夜を何年もいじめ続けた。あのとき突然現れた能天気なおかしなやつに遠回しに言われた嫌味に少しだけ胸が痛んだけど、俺はいじめを止めることはなかった。

 十四歳で受けた二次性判定で俺はやっぱりΩで、落ち込みながらももしも雪夜もΩだったら今までのことを謝ろうと思っていたのに、まさかのαだと知りため込んでいた不満や不安が一気に爆発してしまった。
 ふざけるなっ! 雪夜がα? は?? なんであいつだけが俺の欲しいものを全部持っている? 全部持っていく?
 目の前が真っ赤に染まり、俺は雪夜を身体的にも傷つけようとして、静夜さんに止められた。それが俺と静夜さんの初めての出会いだった。
 そのときは突然現れた雪夜の兄、静夜さんに胡散臭さを感じながらもなんとか踏みとどまることができた。だけど、施設に暮らす弟妹のことを持ち出されたことは脅しとも取れて、ひと目でαだと分かる静夜さんのことを本能的に『敵』だと認識していた。

 それから俺は雪夜に近づくことなく、隠れるようにして大人しく過ごした。これ以上雪夜に関われば、今度こそただでは済まないだろう。静夜さんはαだ。もしも制裁の対象が弟妹たちに向いてしまったら――と思うと、自分が抱える不安や不満よりも大切な弟妹を傷つけられることへの恐怖の方が勝った。


 そしてなにごともなく三年が過ぎ、俺のばんがきた。施設を出ていくばん。俺のΩ性を売るばん、だ。






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