上 下
9 / 36
恋する雪だるま ⛄

しおりを挟む
 離れでのふたりの生活も三ヶ月が過ぎて、最初はどうなることかと思えた夏希の態度も少しずつだけど軟化してきていた。必要以上に怯えたりはしなくなったし、簡単な会話なら普通にしてくれるようになった。
 だけど完全に心を許してくれたわけではない。時々だけど僕のことを睨んでいることがあるからだ。僕はそれに気づかないフリをしている。

 せっかくうまくいきかけている関係を壊したくなかった。
 備品の補充にβのお手伝いさんがくると、逃げるようにして隠れてしまうから、現状でも僕に対する態度はマシ・・なのだ。

 もっと沢山のことを夏希に見せたい。もっともっと色々なことを体験して欲しい。
 そしてまだ見ぬ夏希の心からの笑顔が見たいのだ。

 今のぬるま湯のような関係を心地いいと感じていた。そしてこの関係がずっと続くことを願っていた。
 いつの間にか夏希の為というよりも、僕自身の為に――。


*****

 夏希が興味を持てるものを探す中、最初に夏希が興味を示したのは勉強だった。Ωにしては――と言うと失礼だけど、一般的なΩは勉強を好まない傾向にある。Ωの持つ基本能力が低いのと、せっかく苦労して知識を得てもそれを活用する場がないと知っているからだ。

 だから、僕がリビングに出しっぱなしにしていた参考書をひとりで見て勉強しようとしていたのを見つけた時は驚いた。驚いたけど、否定したりはしなかった。
 僕に見つかって怒られると思ったのか慌てて参考書を閉じた夏希に、「勉強したいの?」って訊いてみた。夏希は少しだけ躊躇う様子を見せたけど、こくりと頷いた。
 僕は安心させるように微笑んで、とりあえず僕の中学時代の参考書を引っ張り出してきて復習するところから始めることにした。

 夏希は地頭がいいのか分からないところは一度教えれば理解するし、応用力もあった。
 会話はしてくれるようになったもののずっとつまらなそうにしていた夏希が楽しそうに勉強する姿に僕も嬉しくなった。

 やっとひとつ、それでも大きな一歩だと思った。
 この先本当に夏希と一緒に学校に通う日がくるかもしれない、と胸が躍った。

 同時にそんなことが嬉しいと思ってしまう自分に驚く。今までこんなにも誰かのことを考え、関わりを持ちたいと思った相手なんていなかった、から。

 ――夏希と一緒にいると勘違いしそうになる。
 僕が好きなのはあの子ではなく夏希ではないのか――って。
 なんでそんなことを思ってしまうのか……。僕が好きなのは生涯あの子だけ、なのに。
 それなのに思い出の中のあの子と夏希がいつの間にか入れ替わっていることすらある。
 抱きしめて好きだと言ってくれたのは『夏希』だと――。

 間違ってはいけない。ふたりへの想いは別のもののはずなんだ。
 夏希に対する想いは『友人』あるいは『家族』に対するものでなくてはいけないのだ。

 だけど最近の僕は学校にいてもなにをしていても夏希のことばかり考えてしまう。

 どうやったら夏希ともっと仲良くなれるだろうか。
 どうやったら笑ってくれるだろうか。
 どうやったら護らせてくれるだろうか。

 どうやったら僕を好きになってくれるだろうか――――。


 こんな気持ち――――間違い、なのに。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【完結】闇オークションの女神の白く甘い蜜に群がる男達と女神が一途に愛した男

葉月
BL
闇のオークションの女神の話。 嶺塚《みねづか》雅成、21歳。 彼は闇のオークション『mysterious goddess 』(神秘の女神)での特殊な力を持った女神。 美貌や妖艶さだけでも人を虜にするのに、能力に関わった者は雅成の信者となり、最終的には僕《しもべ》となっていった。 その能力は雅成の蜜にある。 射精した時、真珠のように輝き、蜜は桜のはちみつでできたような濃厚な甘さと、嚥下した時、体の隅々まで力をみなぎらせる。  精というより、女神の蜜。 雅成の蜜に群がる男達の欲望と、雅成が一途に愛した男、拓海との純愛。 雅成が要求されるプレイとは? 二人は様々な試練を乗り越えられるのか? 拘束、複数攻め、尿道プラグ、媚薬……こんなにアブノーマルエロいのに、純愛です。 私の性癖、全てぶち込みました! よろしくお願いします

優しい嘘の見分け方

ハリネズミ
BL
理由も知らされないまま長い間大きな箱(屋敷)の小さな箱(部屋)の中で育った名もなき少年。 無為に過ぎていく時間。ある日少年はメイドによって外へと連れ出されるが、それは少年にとって解放ではなく――。 少年は何もない小さな箱の中で『愛』を求めていた。 少年の危機を救ったとある男もまた『愛』を求めていた。 ふたりは出逢い、そして男は打算と得体の知れない感情から少年に嘘をついた。 嘘から始まったふたりの関係はどうなっていくのか。 ※暴力、無理矢理な性描写、虐待等の表現があるので苦手な方は自衛をお願いしますm(__)m

Candle

音和うみ
BL
虐待を受け人に頼って来れなかった子と、それに寄り添おうとする子のお話

明日、君は僕を愛さない

山田太郎
BL
昨日自分を振ったはずの男が帰ってきた。ちょうど一年分の記憶を失って。 山野純平と高遠英介は大学時代からのパートナーだが、大学卒業とともに二人の関係はぎこちなくすれ違っていくばかりだった。そんなある日、高遠に新しい恋人がいることを聞かされてーー。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

バイバイ、セフレ。

月岡夜宵
BL
『さよなら、君との関係性。今日でお別れセックスフレンド』 尚紀は、好きな人である紫に散々な嘘までついて抱かれ、お金を払ってでもセフレ関係を繋ぎ止めていた。だが彼に本命がいると知ってしまい、円満に別れようとする。ところが、決意を新たにした矢先、とんでもない事態に発展してしまい――なんと自分から突き放すことに!? 素直になれない尚紀を置きざりに事態はどんどん劇化し、最高潮に達する時、やがて一つの結実となる。 前知らせ) ・舞台は現代日本っぽい架空の国。 ・人気者攻め(非童貞)×日陰者受け(処女)。

ずっと、ずっと甘い口唇

犬飼春野
BL
「別れましょう、わたしたち」 中堅として活躍し始めた片桐啓介は、絵にかいたような九州男児。 彼は結婚を目前に控えていた。 しかし、婚約者の口から出てきたのはなんと婚約破棄。 その後、同僚たちに酒の肴にされヤケ酒の果てに目覚めたのは、後輩の中村の部屋だった。 どうみても事後。 パニックに陥った片桐と、いたって冷静な中村。 周囲を巻き込んだ恋愛争奪戦が始まる。 『恋の呪文』で脇役だった、片桐啓介と新人の中村春彦の恋。  同じくわき役だった定番メンバーに加え新規も参入し、男女入り交じりの大混戦。  コメディでもあり、シリアスもあり、楽しんでいただけたら幸いです。    題名に※マークを入れている話はR指定な描写がありますのでご注意ください。 ※ 2021/10/7- 完結済みをいったん取り下げて連載中に戻します。   2021/10/10 全て上げ終えたため完結へ変更。  『恋の呪文』と『ずっと、ずっと甘い口唇』に関係するスピンオフやSSが多くあったため  一気に上げました。  なるべく時間軸に沿った順番で掲載しています。  (『女王様と俺』は別枠)    『恋の呪文』の主人公・江口×池山の番外編も、登場人物と時間軸の関係上こちらに載せます。

処理中です...