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恋する雪だるま ⛄
3 ふたり、離れにて ①
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父さんたちとの話し合いの結果、名目上ではあるけど婚約者である僕も彼と一緒に離れに住むことになった。
とは言え僕たちの婚約関係はあくまでも見せかけだけで実体を伴う必要はないのだから、僕たちの間に間違いがあってはならない。なのでヒートのときは申し訳ないけど彼には避難部屋に籠ってもらい、僕は母屋に帰って彼の身の回りの世話はβで年配女性の家政婦さんに頼むことになっている。
とりあえず決めたのはこれだけ。慣れないうちはあまり彼をひとりにするべきではないと彼の処遇についてはまた明日話し合う事にして離れに行くと、彼はソファーの横の床に直に座っていた。
え? どういうこと?
焦って僕も彼の前にぺたりと座り込んで視線を合わせた。
と言っても彼の目は長い前髪に邪魔されてはっきりとは見えないけれど――。
「えっと……ソファー嫌だった?」
彼は何も言わず僅かに首を横に振った。
「嫌じゃないならソファーに座るといいよ。この家の物は好きなように使ってくれていいし、他になにか必要なものがあったら言ってくれれば用意するからさ」
そう言っても彼は俯いたまま何も言わなかった。
とりあえず彼を立たせようと手を彼の方に伸ばしたところで、バシッと音がするほど強く手を払いのけられてしまった。
え? 今叩かれた??
痛いわけではなかったけど雪だるまだと揶揄われていたときもこんな風にされたことはなく、勿論父さんや兄さんからも誰からも叩かれたことはなかったから驚いてしまった。
叩いた彼の方も驚いているようで、僕は彼を見つめどうしたものかと溜め息が出た。その溜め息に彼は大袈裟に反応して、
「――ごめ……なさ……ぃ」
震える声でそう言うと自分の身体を抱きしめ身を護るように蹲った。
何をそんなに怯えているのか――。
そこまで考えてハッとした。彼は家族からも大事にされてはいなくて、ここには売られてきたのだ。そのことは彼も分かっているはずで、Ωの彼からしたら僕のようなαでも恐怖の対象でしかないのだろう。
ソファーを使わず床に座っているのだってもしかしたら実家ではそう言い付けられていたのかもしれない。
――なんてことだ。
僕は少し簡単に考えてしまっていたのかもしれない。彼をうちで預かりさえすればいいのだと。
自分の考えの甘さに反吐が出た。
父さんや兄さんだって僕を信じて彼を託してくれたのにこんなんじゃダメだ。
「コホン」と咳払いをひとつして仕切り直す。
「えっと、その……ここにきみにひどいことをする人間はひとりもいないから安心して? あとうちはαばかりだし母屋でα三人に囲まれて暮らすのはきみにはつらいと思ったんだ。だから離れで暮らす方がいいと思ったんだけど、ひとりは寂しいでしょう? だから僕もここで暮らすことにしたんだけど、誓ってきみにひどいことはしないよ。僕には好きな人がいるから、そこは信じてもらうしかないんだけど。売られた買われた……なんていうのも考えないで欲しい。婚約者だというのも。そういうの全部抜きにして、きみは嫌かもしれないけど僕はきみと仲良くなりたいんだ。勿論父さんも兄さんもね。あと、もしも――その……ヒ……、ヒート、がきたらあそこの部屋を使うといいよ。ヒート中は僕は母屋に行ってここには近寄らないし、中から鍵がかけられるから安心して?」
彼に安心してもらえるようにできるだけ穏やかに話したけれど、顔を上げ長い前髪の隙間から覗く彼の目は、怒ってるようにも悲しんでいるようにも見えた。
それはきっと実の親に売られてしまったショックと、知らない場所に連れてこられ僕の言葉を簡単に信じることができず不安なのだと思った。
だけど、なぜかボタンを掛け違えてしまったかのような小さな違和感があり、それはいつまでも消えることはなかった。
そして犬歯に感じるわずかなむず痒さはなんなのか――。
理由も分からず僕たちは少しの間無言で見つめ合って、――いや彼が無言で僕を睨み、僕はただそれを見ていることしかできなかった。
とは言え僕たちの婚約関係はあくまでも見せかけだけで実体を伴う必要はないのだから、僕たちの間に間違いがあってはならない。なのでヒートのときは申し訳ないけど彼には避難部屋に籠ってもらい、僕は母屋に帰って彼の身の回りの世話はβで年配女性の家政婦さんに頼むことになっている。
とりあえず決めたのはこれだけ。慣れないうちはあまり彼をひとりにするべきではないと彼の処遇についてはまた明日話し合う事にして離れに行くと、彼はソファーの横の床に直に座っていた。
え? どういうこと?
焦って僕も彼の前にぺたりと座り込んで視線を合わせた。
と言っても彼の目は長い前髪に邪魔されてはっきりとは見えないけれど――。
「えっと……ソファー嫌だった?」
彼は何も言わず僅かに首を横に振った。
「嫌じゃないならソファーに座るといいよ。この家の物は好きなように使ってくれていいし、他になにか必要なものがあったら言ってくれれば用意するからさ」
そう言っても彼は俯いたまま何も言わなかった。
とりあえず彼を立たせようと手を彼の方に伸ばしたところで、バシッと音がするほど強く手を払いのけられてしまった。
え? 今叩かれた??
痛いわけではなかったけど雪だるまだと揶揄われていたときもこんな風にされたことはなく、勿論父さんや兄さんからも誰からも叩かれたことはなかったから驚いてしまった。
叩いた彼の方も驚いているようで、僕は彼を見つめどうしたものかと溜め息が出た。その溜め息に彼は大袈裟に反応して、
「――ごめ……なさ……ぃ」
震える声でそう言うと自分の身体を抱きしめ身を護るように蹲った。
何をそんなに怯えているのか――。
そこまで考えてハッとした。彼は家族からも大事にされてはいなくて、ここには売られてきたのだ。そのことは彼も分かっているはずで、Ωの彼からしたら僕のようなαでも恐怖の対象でしかないのだろう。
ソファーを使わず床に座っているのだってもしかしたら実家ではそう言い付けられていたのかもしれない。
――なんてことだ。
僕は少し簡単に考えてしまっていたのかもしれない。彼をうちで預かりさえすればいいのだと。
自分の考えの甘さに反吐が出た。
父さんや兄さんだって僕を信じて彼を託してくれたのにこんなんじゃダメだ。
「コホン」と咳払いをひとつして仕切り直す。
「えっと、その……ここにきみにひどいことをする人間はひとりもいないから安心して? あとうちはαばかりだし母屋でα三人に囲まれて暮らすのはきみにはつらいと思ったんだ。だから離れで暮らす方がいいと思ったんだけど、ひとりは寂しいでしょう? だから僕もここで暮らすことにしたんだけど、誓ってきみにひどいことはしないよ。僕には好きな人がいるから、そこは信じてもらうしかないんだけど。売られた買われた……なんていうのも考えないで欲しい。婚約者だというのも。そういうの全部抜きにして、きみは嫌かもしれないけど僕はきみと仲良くなりたいんだ。勿論父さんも兄さんもね。あと、もしも――その……ヒ……、ヒート、がきたらあそこの部屋を使うといいよ。ヒート中は僕は母屋に行ってここには近寄らないし、中から鍵がかけられるから安心して?」
彼に安心してもらえるようにできるだけ穏やかに話したけれど、顔を上げ長い前髪の隙間から覗く彼の目は、怒ってるようにも悲しんでいるようにも見えた。
それはきっと実の親に売られてしまったショックと、知らない場所に連れてこられ僕の言葉を簡単に信じることができず不安なのだと思った。
だけど、なぜかボタンを掛け違えてしまったかのような小さな違和感があり、それはいつまでも消えることはなかった。
そして犬歯に感じるわずかなむず痒さはなんなのか――。
理由も分からず僕たちは少しの間無言で見つめ合って、――いや彼が無言で僕を睨み、僕はただそれを見ていることしかできなかった。
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