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飼い主じゃなくて
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俺の恋愛対象は自分と同じ男だ。
だから弟源三郎の相手が男である事が分かったのだ。
実兄の俺から見ても源三郎はかわいくて性格も人懐っこく、地味で不愛想な俺と違って誰にでも好かれた。
俺がいいなぁって思った相手はいつも源三郎を見て頬を染めていた。
十歳違いの弟を憎いと思ったことは一度もない。
俺が恋愛的な意味で好かれないのは源三郎のせいでもないし、俺自身の問題だったから。
こんな貧相で不愛想な男を好きになるやつなんていないよな。
霧島琉斗は俺は五つ下で入社時からものすごいイケメンが入ってきたという噂でもちきりだった。
俺も初めて社内で見かけた時にはイケメンだなーさぞやもてるんだろうなー。俺とは住む世界が違うな。とただそう思った。
次に見かけたのはそれから半年後くらいで、霧島はただぽつんとデスクに座っていた。電話が鳴っても他の人がさっととってしまうし、手のすいたやつーと声がかかって手を挙げても他の人がすっとその仕事をとって霧島に笑顔を向けるのだ。
最初俺はこれがどういう状況なのかわからなかった。
え? いじめ……?
じゃないよな。
霧島がやろうとした事をとったやつはみんながみんな霧島に向かって笑顔をむけている。好意の笑顔だ。
みんな霧島に好かれたくて親切アピールをしている……?!
それからさらに一か月が過ぎ、聞こえてくる噂は「無能王子」「残念王子」と霧島を中傷するものも増えてきていた。
偶然みかけた霧島の表情は無になっていて、誰ともしゃべらず何にも関心を持たずただデスクに座っているだけの人形のようだった。
周りはそれでも眼福とばかりに熱い視線を向けていたが。
それはとても異様な光景だった。
俺は一つ溜息をつくと霧島の部の部長の元へ向かった。
そして、うちの部に霧島をひっぱった。
多少無理な交渉ではあったが霧島の現状について部長も思うところはあったようで俺からの提案にみるからにほっとした表情をしていた。
話が付くとすぐに霧島の元へずんずん歩いて行った。
俺は無表情の霧島の顔の前でパンっと大きく手を打った。
思いもよらない突然の大きな音にわずかにびっくりして霧島は俺を見た。
見てはいたが感情の乗らない瞳だった。
「俺がお前を拾ってやる! こき使ってやるから俺についてこい!」
俺はそう言うと不適に笑って見せた。
霧島の瞳は段々光を取り戻しうっすらと膜が張ったように光っていた。
「――は……はい! よろしくおねがいします!」
それはそれは見事な九十度のお辞儀だった。
「ぷっ。こき使われるっていうのに嬉しそうにして。お前はサドか」
思わず吹き出して笑ったら霧島も嬉しそうに目を細めて俺を見ていた。
それから俺は一から霧島を鍛えた。これまでの遅れを取り戻すように朝早くから夜遅くまで。
霧島は砂漠の砂が水を吸うようにどんどん知識や技術を吸収していった。
慣れないことにかなり疲れるだろうに疲労の色は一切ださずただただ仕事ができて嬉しい! と全身で俺に語り掛けていた。
俺がつきっきりで仕事を教えて、毎日厳しく叱咤激励をとばしイケメンをこき使う様子を見ていた同じ部署の人たちも最初は戸惑っていたが今ではちょうどいい距離感を保つことができ、いい関係が築けているようだった。
いつも笑顔でしっぽを振りつつ俺に懐いてくる様に俺の心に温かい何かがこみあげてきて、思わずふわふわのちょっと薄い茶色の霧島の髪の毛に触れてみたくなった。
撫でようと手を伸ばしてはっと我に返り自分の手をひっこめた。
「先輩? どうしました?」
「なんでも……ない。頭にゴミが……ついてると思ったけど見間違いだった」
俺はすっと視線をずらした。
何してるんだ俺!
あぁいけない。霧島に触れたくなってしまう。
俺とこいつは住む世界が違うのに……。
俺はうつ向いていて霧島が俺をどういう表情で見ていたか気がつかなかった。
だから弟源三郎の相手が男である事が分かったのだ。
実兄の俺から見ても源三郎はかわいくて性格も人懐っこく、地味で不愛想な俺と違って誰にでも好かれた。
俺がいいなぁって思った相手はいつも源三郎を見て頬を染めていた。
十歳違いの弟を憎いと思ったことは一度もない。
俺が恋愛的な意味で好かれないのは源三郎のせいでもないし、俺自身の問題だったから。
こんな貧相で不愛想な男を好きになるやつなんていないよな。
霧島琉斗は俺は五つ下で入社時からものすごいイケメンが入ってきたという噂でもちきりだった。
俺も初めて社内で見かけた時にはイケメンだなーさぞやもてるんだろうなー。俺とは住む世界が違うな。とただそう思った。
次に見かけたのはそれから半年後くらいで、霧島はただぽつんとデスクに座っていた。電話が鳴っても他の人がさっととってしまうし、手のすいたやつーと声がかかって手を挙げても他の人がすっとその仕事をとって霧島に笑顔を向けるのだ。
最初俺はこれがどういう状況なのかわからなかった。
え? いじめ……?
じゃないよな。
霧島がやろうとした事をとったやつはみんながみんな霧島に向かって笑顔をむけている。好意の笑顔だ。
みんな霧島に好かれたくて親切アピールをしている……?!
それからさらに一か月が過ぎ、聞こえてくる噂は「無能王子」「残念王子」と霧島を中傷するものも増えてきていた。
偶然みかけた霧島の表情は無になっていて、誰ともしゃべらず何にも関心を持たずただデスクに座っているだけの人形のようだった。
周りはそれでも眼福とばかりに熱い視線を向けていたが。
それはとても異様な光景だった。
俺は一つ溜息をつくと霧島の部の部長の元へ向かった。
そして、うちの部に霧島をひっぱった。
多少無理な交渉ではあったが霧島の現状について部長も思うところはあったようで俺からの提案にみるからにほっとした表情をしていた。
話が付くとすぐに霧島の元へずんずん歩いて行った。
俺は無表情の霧島の顔の前でパンっと大きく手を打った。
思いもよらない突然の大きな音にわずかにびっくりして霧島は俺を見た。
見てはいたが感情の乗らない瞳だった。
「俺がお前を拾ってやる! こき使ってやるから俺についてこい!」
俺はそう言うと不適に笑って見せた。
霧島の瞳は段々光を取り戻しうっすらと膜が張ったように光っていた。
「――は……はい! よろしくおねがいします!」
それはそれは見事な九十度のお辞儀だった。
「ぷっ。こき使われるっていうのに嬉しそうにして。お前はサドか」
思わず吹き出して笑ったら霧島も嬉しそうに目を細めて俺を見ていた。
それから俺は一から霧島を鍛えた。これまでの遅れを取り戻すように朝早くから夜遅くまで。
霧島は砂漠の砂が水を吸うようにどんどん知識や技術を吸収していった。
慣れないことにかなり疲れるだろうに疲労の色は一切ださずただただ仕事ができて嬉しい! と全身で俺に語り掛けていた。
俺がつきっきりで仕事を教えて、毎日厳しく叱咤激励をとばしイケメンをこき使う様子を見ていた同じ部署の人たちも最初は戸惑っていたが今ではちょうどいい距離感を保つことができ、いい関係が築けているようだった。
いつも笑顔でしっぽを振りつつ俺に懐いてくる様に俺の心に温かい何かがこみあげてきて、思わずふわふわのちょっと薄い茶色の霧島の髪の毛に触れてみたくなった。
撫でようと手を伸ばしてはっと我に返り自分の手をひっこめた。
「先輩? どうしました?」
「なんでも……ない。頭にゴミが……ついてると思ったけど見間違いだった」
俺はすっと視線をずらした。
何してるんだ俺!
あぁいけない。霧島に触れたくなってしまう。
俺とこいつは住む世界が違うのに……。
俺はうつ向いていて霧島が俺をどういう表情で見ていたか気がつかなかった。
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