7 / 9
7 俺とあいつの🎵たんたかたん🎵
しおりを挟む
あのけんか別れのようなデートの後、和からは一切連絡はなかった。
葉介から話を聞く前の俺だったらきっと自分から連絡を取る事はしなかったと思う。だけど、もう俺は和の気持ちを聞いてしまったから、もう諦めなくていいって分かってしまったから。
俺は和をいつもの居酒屋に呼び出し、個室で待った。今日は俺の気持ちをきちんと和に伝えるつもりだ。
もしかしたらもう来てくれないかもしれない。
折角両想いだったのに8年もの間無駄に失恋を繰り返していた俺は、本当にバカだ。
カタリと音がして障子が開けられた。
和はムッとした顔をしていたけど、来てくれただけで嬉しかった。
何も言わず俺の向かい側に座りじーっと俺の事を見ている。
「――あの、さ。こないだはごめん。俺本当はずっと和の事好きだったんだ。だからあんな形であっても和と付き合えて本当に嬉しかった。だけど、和の……今までの恋人たちの事が気になっちゃって、嫉妬したんだ。あんな慣れた様子の和に、今までどれだけデートしたり……その――触れ合ったり……したのかなって」
「――――っ」
「うん。ごめん。葉介から聞いたよ。全部嘘だったって。俺のもさ、最初の一人は本当だけど、あとは全部嘘。俺、最初和は葉介の事が好きだと思ってたから、だから二人が俺に遠慮する事なく付き合えるようにって彼女作ったんだ。形ばかりの彼女だったけど――逃げてごめん。和の事ずーっと傷つけてきたよな。俺は自分ばかりが傷ついた気でいて、和の本当の気持ちを分かろうともせずに……。もう遅い……かもしれない。だけど、俺は和の事が昔から……和の事だけが好きだ。俺と――――」
ポケットから取り出した指輪の入った小さなビロードの箱を開けた。
緊張で震える手で和の左手の薬指に指輪をはめる。
涙で瞳を潤ませてはいるものの表情の抜けきった顔で、和はその様子を黙って見ていた。
「俺は和の事を愛してます。どうか結婚してください」
指輪をはめてプロポーズもしたけど、和からの返事はない。
他人が見たら、和は不機嫌そうに見えるかもしれない。
プロポーズに返事をなかなかしないのだって、俺に対して「身の程知らずが」と高飛車な態度を取っているように見えるかもしれない。
だけど、違う。
今、和の頭の中はフル回転中でこの状況についていけていないだけなのだ。
だから俺は、俺にできる事は和への気持ちを伝える事だけ。
「――和……愛してる」
他のごちゃごちゃした事なんてどうでもいいんだ。俺が和の事を愛してるって事だけ分かって?
俺は和の手を握り決して急かすのではなく、見守るように見つめ返事を待った。
そうして数分の後、和は涙声で小さく「俺も」と答えた。
それだけで充分だ。和の答えに小さくガッツポーズをとる。
一世一代のプロポーズは受け入れられた。
俺たちの追いかけっこはやっと終わりを告げ、和を捕まえる事ができた。もう離すもんか。
そして店内に鳴り響くウェディングマーチ。
たたたたーん。たたたたーん。たたたたんたたたたんたたたたんたたたたん♪
驚いたように瞳を見開き辺りをきょろきょろと見まわす和。
ああまた混乱させてしまったかな。
居酒屋でいきなりプロポーズされて、ウエディングマーチが流れるなんて思ってもいなかったよな。
それでも和は今度は自分の中だけで考えず、俺の事を問うように見つめた。
俺はその事が嬉しくて、もうすれ違う事なんか絶対にないと思った。
俺たちの間違いは勝手な思い込みと自分の気持ちを伝える勇気を持てなかった事なのだから。
言いたい事は言えばいい。分からなければ訊けばいい。
俺たちにはもうそれができるはず。
「大丈夫」
ガラリと障子が開き、見知った店員が笑顔でブーケを和に持たせ、頭からふわりとベールをかぶせた。
「さぁ……和」
俺は和に手を差し出し安心させるように微笑みかけた。
今度はすぐに俺の手の上にそっと自らの手を乗せた。
その手をぎゅっと握り二人で座敷から出る。
店内にあったはずのテーブルや椅子は片づけられ、さながらバージンロードのように赤い絨毯が敷かれていてその奥には祭壇のような物が置かれ、牧師に扮した葉介の姿があった。
これは俺が和の為に用意した『よっぽどの事』だ。
今まで傷つけてしまっていた分を取り戻せるとは思っていないけど、俺の覚悟と愛情を和に知って欲しかったから、常連すぎて昔からの友だちかってくらい仲良くなっていた店長にお願いして協力してもらったのだ。
「ふはっ」
「へ?……和?……」
突然の笑い声に驚き和の方を見ると、涙をぽろぽろ零しながら嬉しそうに笑っていた。
『笑い』が少し遅れてやってきたってとこか。そんなズレが可愛くてくすりと笑う。
こんな穏やかな笑顔はあの夏の日に見て以来初めてだった。結局はあの笑顔も俺の事を想ってのものだったんだから、俺はずっとずっと和に愛されてた。
熱い物が胸に込み上げてきて苦しいけど嬉しい。
ああ本当に……本当に和の事が好きだ。
たたたたーん、たたたたーん♪ともう一度ウエディングマーチが流れ始める。
俺は和の涙をハンカチで拭うと和の腕を取り自分の腕に絡ませた。
「幸せにする」
和はすぐに涙声で小さく「うん」と答えた。
俺たちは顔を上げ、しっかりとした足取りで葉介の元へと歩き出した。
場所は居酒屋だったけど、俺たちにとってこれはちゃんと『結婚式』だった。
俺たちを祝福する沢山の笑顔と拍手。
そして、俺たちはずっと笑顔のまま。
長い長いすれ違いの末、他とは違うけど温かい笑顔に見守られながら最高の結婚式を挙げた。
俺とあいつのたんたかたん♪俺たちのウエディングマーチ。
-おわり-
葉介から話を聞く前の俺だったらきっと自分から連絡を取る事はしなかったと思う。だけど、もう俺は和の気持ちを聞いてしまったから、もう諦めなくていいって分かってしまったから。
俺は和をいつもの居酒屋に呼び出し、個室で待った。今日は俺の気持ちをきちんと和に伝えるつもりだ。
もしかしたらもう来てくれないかもしれない。
折角両想いだったのに8年もの間無駄に失恋を繰り返していた俺は、本当にバカだ。
カタリと音がして障子が開けられた。
和はムッとした顔をしていたけど、来てくれただけで嬉しかった。
何も言わず俺の向かい側に座りじーっと俺の事を見ている。
「――あの、さ。こないだはごめん。俺本当はずっと和の事好きだったんだ。だからあんな形であっても和と付き合えて本当に嬉しかった。だけど、和の……今までの恋人たちの事が気になっちゃって、嫉妬したんだ。あんな慣れた様子の和に、今までどれだけデートしたり……その――触れ合ったり……したのかなって」
「――――っ」
「うん。ごめん。葉介から聞いたよ。全部嘘だったって。俺のもさ、最初の一人は本当だけど、あとは全部嘘。俺、最初和は葉介の事が好きだと思ってたから、だから二人が俺に遠慮する事なく付き合えるようにって彼女作ったんだ。形ばかりの彼女だったけど――逃げてごめん。和の事ずーっと傷つけてきたよな。俺は自分ばかりが傷ついた気でいて、和の本当の気持ちを分かろうともせずに……。もう遅い……かもしれない。だけど、俺は和の事が昔から……和の事だけが好きだ。俺と――――」
ポケットから取り出した指輪の入った小さなビロードの箱を開けた。
緊張で震える手で和の左手の薬指に指輪をはめる。
涙で瞳を潤ませてはいるものの表情の抜けきった顔で、和はその様子を黙って見ていた。
「俺は和の事を愛してます。どうか結婚してください」
指輪をはめてプロポーズもしたけど、和からの返事はない。
他人が見たら、和は不機嫌そうに見えるかもしれない。
プロポーズに返事をなかなかしないのだって、俺に対して「身の程知らずが」と高飛車な態度を取っているように見えるかもしれない。
だけど、違う。
今、和の頭の中はフル回転中でこの状況についていけていないだけなのだ。
だから俺は、俺にできる事は和への気持ちを伝える事だけ。
「――和……愛してる」
他のごちゃごちゃした事なんてどうでもいいんだ。俺が和の事を愛してるって事だけ分かって?
俺は和の手を握り決して急かすのではなく、見守るように見つめ返事を待った。
そうして数分の後、和は涙声で小さく「俺も」と答えた。
それだけで充分だ。和の答えに小さくガッツポーズをとる。
一世一代のプロポーズは受け入れられた。
俺たちの追いかけっこはやっと終わりを告げ、和を捕まえる事ができた。もう離すもんか。
そして店内に鳴り響くウェディングマーチ。
たたたたーん。たたたたーん。たたたたんたたたたんたたたたんたたたたん♪
驚いたように瞳を見開き辺りをきょろきょろと見まわす和。
ああまた混乱させてしまったかな。
居酒屋でいきなりプロポーズされて、ウエディングマーチが流れるなんて思ってもいなかったよな。
それでも和は今度は自分の中だけで考えず、俺の事を問うように見つめた。
俺はその事が嬉しくて、もうすれ違う事なんか絶対にないと思った。
俺たちの間違いは勝手な思い込みと自分の気持ちを伝える勇気を持てなかった事なのだから。
言いたい事は言えばいい。分からなければ訊けばいい。
俺たちにはもうそれができるはず。
「大丈夫」
ガラリと障子が開き、見知った店員が笑顔でブーケを和に持たせ、頭からふわりとベールをかぶせた。
「さぁ……和」
俺は和に手を差し出し安心させるように微笑みかけた。
今度はすぐに俺の手の上にそっと自らの手を乗せた。
その手をぎゅっと握り二人で座敷から出る。
店内にあったはずのテーブルや椅子は片づけられ、さながらバージンロードのように赤い絨毯が敷かれていてその奥には祭壇のような物が置かれ、牧師に扮した葉介の姿があった。
これは俺が和の為に用意した『よっぽどの事』だ。
今まで傷つけてしまっていた分を取り戻せるとは思っていないけど、俺の覚悟と愛情を和に知って欲しかったから、常連すぎて昔からの友だちかってくらい仲良くなっていた店長にお願いして協力してもらったのだ。
「ふはっ」
「へ?……和?……」
突然の笑い声に驚き和の方を見ると、涙をぽろぽろ零しながら嬉しそうに笑っていた。
『笑い』が少し遅れてやってきたってとこか。そんなズレが可愛くてくすりと笑う。
こんな穏やかな笑顔はあの夏の日に見て以来初めてだった。結局はあの笑顔も俺の事を想ってのものだったんだから、俺はずっとずっと和に愛されてた。
熱い物が胸に込み上げてきて苦しいけど嬉しい。
ああ本当に……本当に和の事が好きだ。
たたたたーん、たたたたーん♪ともう一度ウエディングマーチが流れ始める。
俺は和の涙をハンカチで拭うと和の腕を取り自分の腕に絡ませた。
「幸せにする」
和はすぐに涙声で小さく「うん」と答えた。
俺たちは顔を上げ、しっかりとした足取りで葉介の元へと歩き出した。
場所は居酒屋だったけど、俺たちにとってこれはちゃんと『結婚式』だった。
俺たちを祝福する沢山の笑顔と拍手。
そして、俺たちはずっと笑顔のまま。
長い長いすれ違いの末、他とは違うけど温かい笑顔に見守られながら最高の結婚式を挙げた。
俺とあいつのたんたかたん♪俺たちのウエディングマーチ。
-おわり-
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
青い炎
瑞原唯子
BL
今日、僕は同時にふたつの失恋をした——。
もともと叶うことのない想いだった。
にもかかわらず、胸の内で静かな激情の炎を燃やし続けてきた。
これからもこの想いを燻らせていくのだろう。
仲睦まじい二人を誰よりも近くで見守りながら。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

視線の先
茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。
「セーラー服着た写真撮らせて?」
……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる