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7 俺とあいつの🎵たんたかたん🎵

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あのけんか別れのようなデートの後、和からは一切連絡はなかった。
葉介から話を聞く前の俺だったらきっと自分から連絡を取る事はしなかったと思う。だけど、もう俺は和の気持ちを聞いてしまったから、もう諦めなくていいって分かってしまったから。
俺は和をいつもの居酒屋に呼び出し、個室で待った。今日は俺の気持ちをきちんと和に伝えるつもりだ。
もしかしたらもう来てくれないかもしれない。
折角両想いだったのに8年もの間無駄に失恋を繰り返していた俺は、本当にバカだ。

カタリと音がして障子が開けられた。
和はムッとした顔をしていたけど、来てくれただけで嬉しかった。

何も言わず俺の向かい側に座りじーっと俺の事を見ている。

「――あの、さ。こないだはごめん。俺本当はずっと和の事好きだったんだ。だからあんな形であっても和と付き合えて本当に嬉しかった。だけど、和の……今までの恋人たちの事が気になっちゃって、嫉妬したんだ。あんな慣れた様子の和に、今までどれだけデートしたり……その――触れ合ったり……したのかなって」

「――――っ」

「うん。ごめん。葉介から聞いたよ。全部嘘だったって。俺のもさ、最初の一人は本当だけど、あとは全部嘘。俺、最初和は葉介の事が好きだと思ってたから、だから二人が俺に遠慮する事なく付き合えるようにって彼女作ったんだ。形ばかりの彼女だったけど――逃げてごめん。和の事ずーっと傷つけてきたよな。俺は自分ばかりが傷ついた気でいて、和の本当の気持ちを分かろうともせずに……。もう遅い……かもしれない。だけど、俺は和の事が昔から……和の事だけが好きだ。俺と――――」

ポケットから取り出した指輪の入った小さなビロードの箱を開けた。
緊張で震える手で和の左手の薬指に指輪をはめる。
涙で瞳を潤ませてはいるものの表情の抜けきった顔で、和はその様子を黙って見ていた。

「俺は和の事を愛してます。どうか結婚してください」

指輪をはめてプロポーズもしたけど、和からの返事はない。

他人が見たら、和は不機嫌そうに見えるかもしれない。
プロポーズに返事をなかなかしないのだって、俺に対して「身の程知らずが」と高飛車な態度を取っているように見えるかもしれない。
だけど、違う。
今、和の頭の中はフル回転中でこの状況についていけていないだけなのだ。
だから俺は、俺にできる事は和への気持ちを伝える事だけ。

「――和……愛してる」

他のごちゃごちゃした事なんてどうでもいいんだ。俺が和の事を愛してるって事だけ分かって?
俺は和の手を握り決して急かすのではなく、見守るように見つめ返事を待った。
そうして数分の後、和は涙声で小さく「俺も」と答えた。
それだけで充分だ。和の答えに小さくガッツポーズをとる。
一世一代のプロポーズは受け入れられた。
俺たちの追いかけっこはやっと終わりを告げ、和を捕まえる事ができた。もう離すもんか。

そして店内に鳴り響くウェディングマーチ。
たたたたーん。たたたたーん。たたたたんたたたたんたたたたんたたたたん♪

驚いたように瞳を見開き辺りをきょろきょろと見まわす和。
ああまた混乱させてしまったかな。
居酒屋でいきなりプロポーズされて、ウエディングマーチが流れるなんて思ってもいなかったよな。
それでも和は今度は自分の中だけで考えず、俺の事を問うように見つめた。
俺はその事が嬉しくて、もうすれ違う事なんか絶対にないと思った。
俺たちの間違いは勝手な思い込みと自分の気持ちを伝える勇気を持てなかった事なのだから。
言いたい事は言えばいい。分からなければ訊けばいい。
俺たちにはもうそれができるはず。

「大丈夫」

ガラリと障子が開き、見知った店員が笑顔でブーケを和に持たせ、頭からふわりとベールをかぶせた。

「さぁ……和」

俺は和に手を差し出し安心させるように微笑みかけた。
今度はすぐに俺の手の上にそっと自らの手を乗せた。
その手をぎゅっと握り二人で座敷から出る。
店内にあったはずのテーブルや椅子は片づけられ、さながらバージンロードのように赤い絨毯が敷かれていてその奥には祭壇のような物が置かれ、牧師に扮した葉介の姿があった。

これは俺が和の為に用意した『よっぽどの事』だ。
今まで傷つけてしまっていた分を取り戻せるとは思っていないけど、俺の覚悟と愛情を和に知って欲しかったから、常連すぎて昔からの友だちかってくらい仲良くなっていた店長にお願いして協力してもらったのだ。

「ふはっ」

「へ?……和?……」

突然の笑い声に驚き和の方を見ると、涙をぽろぽろ零しながら嬉しそうに笑っていた。
『笑い』が少し遅れてやってきたってとこか。そんなズレが可愛くてくすりと笑う。
こんな穏やかな笑顔はあの夏の日に見て以来初めてだった。結局はあの笑顔も俺の事を想ってのものだったんだから、俺はずっとずっと和に愛されてた。

熱い物が胸に込み上げてきて苦しいけど嬉しい。
ああ本当に……本当に和の事が好きだ。

たたたたーん、たたたたーん♪ともう一度ウエディングマーチが流れ始める。
俺は和の涙をハンカチで拭うと和の腕を取り自分の腕に絡ませた。

「幸せにする」

和はすぐに涙声で小さく「うん」と答えた。

俺たちは顔を上げ、しっかりとした足取りで葉介の元へと歩き出した。
場所は居酒屋だったけど、俺たちにとってこれはちゃんと『結婚式』だった。
俺たちを祝福する沢山の笑顔と拍手。
そして、俺たちはずっと笑顔のまま。

長い長いすれ違いの末、他とは違うけど温かい笑顔に見守られながら最高の結婚式を挙げた。

俺とあいつのたんたかたん♪俺たちのウエディングマーチ。



-おわり-
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