おじさんと呼ばれて

ハリネズミ

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 外山に手を伸ばし、外山の身体がびくりと跳ねて身を固くした事に少しだけ傷つくが、俺は今度は手を引く事はしなかった。そのまま外山の事を俺の腕の中に収め、ぎゅっと抱き込む。

 どうか、どうか……傷ついたお前を抱きしめ包み込む事を許して欲しい。

「せん……ぱぃ……。ど……して――?」

 ――どうして助けてくれたの?

 当たり前の事なのに、そんな事を言わせてしまった。
 俺は今までの自分の行いを悔い、想いを込めて抱きしめる腕の力を強めた。

「――ごめんな。俺が全部悪かった。お前を守るって決めてたのにこんな目にあわせちまった……」

「――『先輩』……だから? 先輩だから僕を守るんですか……?」

ちげぇよ。お前はお姫さまみたいに可愛くって、俺は別に王子さまでも何でもねーけど、それでもお前の事が大事で――好きになったから、好きだから守りたいって思ったんだ」

「――本当……? だって先輩は……小津さんの事が好き、でしょう?」

 外山の言葉にひゅっと喉が鳴った。
 知ってたのか――。知ってて俺と小津さんが話してるのをどんな気持ちで見ていたのか。あの時スーツの裾を握った外山の気持ちは――?

「小津さんの事は好き、だ。きっとずっと好きなままだと思う。でも、お前に対する気持ちとは種類が違うんだ。自分でも気づかないうちに変わってしまってたんだ。小津さんへの好きは親に対するような好きで、お前には――」

 ちゅっと外山の色づく小さな唇にキスを落とす。

「!?」

 突然の事に大きな瞳を白黒させて、まるで花が咲くように頬を赤く染め上げていく。その様子に、信じられないくらい可愛くて愛おしくて、どうしていいのか分からなくなる。
 これも全部恋のせいだとすると、やっぱり俺には恋は難しい。
 難しいけど、嫌じゃないと思えた。

「こういう事をしたいと思える『好き』なんだ。――、――愛してる」

「ふ……ふぇ……せんぱ……」

「『』だ」

「ふぇーん、慎さぁーん。好き、好きです。大好きです。もう絶対離してあげないんだからぁー」

 コアラのように抱き着いて熱烈な告白をする外山に、

「ばぁか、それは俺のセリフだっつーの」

 と照れ隠しに小さな鼻を摘まんでやれば、ふがふがと鼻を鳴らすところも可愛くて。誰よりも可愛くて愛おしい俺の恋人。


余談:甚太を襲ったヤツは懲戒解雇処分になったわけだが、甚太の強い意向で警察沙汰にはしなかった。まぁ男が男に襲われて、ある事ない事知らないヤツらに言われるのが嫌なのも分かる。社内でも色々と噂されるだろうけど、騒ぎにかけつけた人に見られて俺と甚太の事もバレてしまった。でもそれはこれから俺は彼氏として堂々と守る事ができるのだから良しとする。
 小津さんも俺たちの事を祝福してくれて、甚太の事を守ると言ってくれた。ありがたい話だけど、俺はそれを断った。恋人の事は俺が守りたかったからだ。そのやりとりを甚太は見ていて、今度はスーツの裾を掴むのではなく俺に寄り添うように立っていた。それを小津さんは瞳を細めて見ていた。

 そうして本当の意味で、俺は親鳥小津さんの元を巣立ったわけだ。可愛い恋人と一緒に――。



-終わり-
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