おじさんと呼ばれて

ハリネズミ

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「中村先輩っ」

 実は今日は後輩の外山 甚太とのやま じんたと約束をしていた。
 待ち合わせ場所へ行く途中で泣いている小津さんと遭遇したのだ。

「おぅ。悪ぃ、遅れた?」

 俺はできるだけ笑顔で外山に手を挙げた。

「いいえ。僕が早く着きすぎちゃっただけですから……。先輩何かありました?」

 と外山は何が嬉しいのかいつもにこにことしているのに、うまく隠せているつもりの俺の様子がおかしい事に気付いて、キュッと眉間に皺を寄せ心配顔になった。
 ホント俺の周りには優しい人間ばかりだ。
 俺は何でもないと笑みを深め、外山の頭の後ろをポンポンと軽く叩き移動を促した。


 外山の入社時から俺が面倒をみている事もあって、時々こうやって休みの日に一緒にでかけたりしていた。
 誘ってくるのはもっぱら外山の方だけど、外山が俺に無条件に懐いてくれているのは少しだけ俺の沈んだ心を浮上させた。
 こんな日にひとりじゃなくてよかった……。

「先輩先輩、あのですねー今日は相談に乗ってもらいたくて」

「相談? 仕事の話か?」

「いいえ。――僕、好きな人が……いるんです」

 そっか。お前も俺を置いて……。
 自分だけが取り残された気分になるが、違う違うと軽く頭を振った。
 他人の幸せを喜べる人間でないと。
 小津さんの恋人は無理でも仲のいい後輩ではいたい。それに外山が幸せになってくれる事は、俺にとっても喜ばしい事なのだ。
 ふぅと少しだけ息を吐き笑顔になる。小津さんがしてくれたように、俺は外山にとっていい先輩になりたい。

「俺の知ってる人か?」

「そうですね。よくご存じかと」

「ふぅん? 俺で力になれるかな」

「それは勿論。それで、相談というのはその人僕の事可愛い後輩とは思っていても、恋愛感情はないのかなぁって思いまして。どうすれば好きになってもらえると思いますか?」

 と、瞳をキラキラとさせて俺の事を見つめてくる。
 仔犬みたいで可愛いけどさ。
 その顔見せる相手間違ってるって。
 少しだけ頬が赤くなるのを誤魔化すように咳払いをひとつ。

 いや、そんなの俺の方が知りたいわ。
 ――でも多分。

「――素直に気持ちを伝えてみたら? まずはそこからじゃねぇ?」

 そう。俺が間違ってしまったのはそこだった。
 最初から素直に小津さんに気持ちを伝えていれば、あるいは――。
 まぁ俺の事はいい。
 外山が俺と同じ失敗をしないように、しっかりサポートしよう。

「そうですかー。やっぱりそうですよねー」

「小細工とかすると拗れるからさ、素直が一番。外山は性格も見た目も可愛いし、無下にはされないんじゃねーの?」

 俺の言葉にぼわりと顔を真っ赤なトマトみたいにさせて、こくりと唾を飲み込む音がした。

「中村先輩!」

 突然の大声に驚く。

「お、おう?」

「先輩の事が――――」

 キラキラと輝く笑顔で外山の小さな口が続く言葉を紡ぐのを俺は呆けた顔で聞いていた。



-終わり-
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