いとおしい

ハリネズミ

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番外 一星xいちか 俺の一等星 ①

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 俺と一星いっせいが出会えたのは奇跡だったと思うんだ。
 俺の身に起こった全ての嫌な事をチャラにできるくらいのスペシャル。
 いつまでもキラキラと輝き続けるキミという存在。俺の一等星いっせい


*****

 俺はαとαの両親の元に生まれ大切に育てられてきた。
 だけど二次性がΩと分かった途端、全てが変わったんだ。
 周囲の俺に対する態度も変わったし、実の両親にさえ忌々しいものを見る目で見られた。
 Ωは忌むべき者なのだそうだ。
 あまりにも突然の事すぎてその時の俺には意味が分からなかった。

 何でΩだとダメなの? Ωの僕はダメな子なの?
 パパ、ママ、Ωだと愛してくれないの?
 どうしたら前みたいに愛してくれるの?


 その時の俺は、いつかまた以前のように優しい両親に戻ってくれるって心のどこかで期待していた。
 だけどそれがただの幻想だってすぐに分かったんだ。

 初めてのヒートで誰とも知れない相手に襲われたのだ。
 ヒートという言葉だけは知っていた。でもそれがもたらす色々な事を知らない俺は無知な子どもだった。
 ただただ怖くて、パパとママを呼ぶ事しかできなかった。
 我を忘れて獣のように盛るαも、嫌なのに怖いのに身体が反応して悦んでしまうΩも全部ぜんぶ理解できなかった。

 αの去り際に吐き捨てるように言われた一言。

「あーあ、とんだ目に合ったぜ。抑制剤くすりくらい飲んでおけよ。まったくΩってやつは忌々しい」

 ショックを受けつつもその時はまだどこか他人事のように思えた。
 こんな事あるはずがない。
 身体が痛いのだって手当をすればすぐに治るし、汚れも洗ってしまえばすぐに綺麗になる。全て元通りだ。
 だから……早く家に帰ろう。そうしてパパとママに抱きしめて貰えばそれで何もかも元通り。僕は大丈夫。
 震える足で家路を急ぐ。

 だけど俺の事を出迎えたのは両親の冷たい瞳と言葉だった。

「気持ち悪い……」

 あぁ、Ωが忌むべき者というのはこういう事なのか。
 αを惑わす厭らしい存在。
 性に貪欲で節操がない存在。
 この身に起こった事も自分のせい。
 だからパパもママも僕の事が嫌いなんだ――。
 誰も僕の事なんか好きになんかならないんだ。
 全てΩが悪いんだ。


 ――――本当に……?

 αは何も傷つかないじゃないか。
 Ωのヒートにあてられたと言い訳をして襲う。
 弱いΩを襲っておきながらα自分は被害者だと公言してはばからない。
 Ωは身も心もこんなに傷ついているというのに……。
 全てをΩのせいにする。

 その日、俺の心の片隅にある小さな『希望』からまた一つ光が消えたのが分かった。


*****

 俺を取り巻く環境に何の変化もないまま月日は流れ、17歳になっていた。
 自衛はしていてもヒートなど関係なく襲ってくるαもいた。
 元々の力の差もあるし生き物の頂点であるαにΩがかなうはずもなく、蹂躙され続ける日々。
 だけど頸だけは必死になって守った。
 番はΩにとって唯一無二の存在だ。
だったら愛し愛される相手がいい。
 今更俺にそんな相手が現れるなんて事はないって分かってる。でも『番』それは俺に残された唯一の希望。その希望のお陰で俺は壊れずに済んでいる。
 そんな俺の姿を見て

「誰がお前なんか噛むかよ」

 αは必ずそう言って鼻で笑う。
 だったら俺に構うな!
 俺に触れるなよ! そう叫んでしまいたいのに声は出なくて、涙だけが溢れていく。

 毎夜夢に見るのは、暗闇の中顔の見えないαたちがペタペタと自分の身体に触れてきて、思い出すのは気持ち悪い感触と嫌悪感。逃げる俺と追うαと。
 うなされて飛び起きると嫌な汗を全身に纏い、はぁはぁと荒い息遣いだけが暗い部屋に響く。

 出口の見えない真っ暗なトンネルの中を必死に走ってるそんな気分だった。
 キミと出会うまでは。


 あの日、ゴミ捨て場で複数のαたちに襲われそうになった時、一人の男子生徒が現れた。一目でαだと分かった。
 だからあの時俺を蹂躙するαがまた一人増えたって思ったんだ。
 だけど違って、キミは俺に覆いかぶさり守ってくれた。
 何度も蹴られるキミに涙が零れた。

「大丈夫」

 小さく何度もそう呟くキミに胸が熱くなった。
 この人は他のαとは違う。
 両親にさえ守ってもらえなかったのに、このαは見ず知らずの俺の事を守ってくれる。

 ――ねぇ何で?


*****

 俺たちを襲っていたαたちが諦めてその場を去ったのが分かって、

「――もう行ったから……だから、どけよ」

 こんな風に言いたいわけじゃなかった。ただ長時間蹴られ続けたキミの事が心配だったから。
 だけど優しくされ慣れていない俺はこんな憎まれ口しかきけない。

 見ればキミのひどい有様に心が痛んだ。
 自分がひどい目に合うよりずっとずっと辛い。

 だけど、キミの俺の事を見て明らかにほっとした表情にカっとなった。
 今まで抑えていた感情が溢れ出た。
 キミに言うべき事じゃない。分かってる。でも止まらないんだ。
 俺は今までαに散々ひどい目に合わされてきた。
 俺は汚れてしまっている。
 キミみたいな綺麗なαがこんな俺と関わっていい事なんかあるわけない。
 だから、だから――――。

「感謝なんかしないからね? αはいつもそうだ! 俺たちΩを見下して、俺たちΩを蹂躙する! 今キミ俺の事助けられて良かったとでも思った?でも、こんなの初めてじゃない! もう何度もこんな目にあってる! キミだってあいつらと同じαだろう? 違うって言うなら俺の事番にしてよっ! そして守ってよ!」

 違う、違うキミは他のαとは違う。
 こんな俺の事番になんてしたら絶対にダメなんだ。
 なのに、そう思うのに……止まらない。

 ――助けて……?

「ほら、できないだろう? できもしないくせに守った気になんかならないで! こんな汚れた俺なんか誰も番にしてくれやしないんだっ! だからもう放っておいて!」

 ――愛して……?

 ポロリと零れる涙。
 後から後から涙が溢れて止まらない。
 幼子のように泣く俺をキミはそっと抱きしめてくれた。
 そして――――項を噛んだんだ。
 牙が肌に食い込んでいく痛みよりも喜びの方が大きくて、

「――え?」

 思わず零れた。
 今こんな事をしても本当に番になるわけじゃない。
 分かっているのに心が喜び、震えたんだ。

 登戸一星のぼりといっせい、キミの名前。
 キミが眩しかった。
 真っ暗闇だった俺の世界に一つだけの輝ける希望
 そんなキミの傍でなら俺も上を向いていけるだろうか?
 もう暗闇に怯えなくていいのだろうか?


 遠いとおい夜空で輝く星に憧れた。綺麗でいつも輝いて見えた。
 夜空を眺めては溜め息を吐いていたけど、いつしか夜空を見上げる事期待する事を止めた。
 今は夜空に輝く星を見ても羨ましいなんて思う事はない。
 手を伸ばすとすぐ傍に一星キミの笑顔があるから。
 キミは俺の生涯の宝物。輝ける星なんだ。






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