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七星の言葉に、ああそうかと思った。自分でも分からなかった小さなちいさな痛みの正体が分かった。俺は拗ねていたんだ。
もしもあの時ふたりが俺に気持ちを打ち明けてくれていたなら俺はきっと、驚きはしたけど笑ってふたりを祝福したに違いなかった。家の事だってどうとでもできた。それほどふたりの事を好きだった。大事だったんだ。なのにふたりにとって俺は邪魔で、つまらない存在だったんだと思ったんだ。『仲間外れ』まさにそれだ。
そんな僅かなひっかかりが俺の中に残ったんだ。恨みとも怒りとも違う想い。好きだったからこそ抱いた想い。
以前七星はふたりに感謝していると言っていた。だけど今は俺の為に許さないと言ってくれている。本当は七星は人の事を恨むとか許さないだとかそういう事は得意ではないし、本意ではないはずだ。何かに腹を立てても数分後には笑顔になるような人だから。
だけど俺がふたりの事を許したいのに許せないと分かっているから、だから代わりに許さないと言ってくれたのだ。そして自分が仲間外れになるよ、と。俺が自分でも気づかずに持ち続けていた小さな痛みを引き受けるよ、と――。
ああ、七星……キミはどうしてそんなにも強くなれるんだ。
どうして俺へまっすぐな愛情をくれるんだ。
俺はキミに会えてまた人を信じる事が、愛する事ができるようになったんだ。
「七星……」
「何て顔してるの? 誠さんは頑張り過ぎだよ。僕たちは唯一無二の番でしょう? 夫夫でしょう? だからね、何でも半分こなの。今まで誠さんが辛かった分今度は僕の番。だからね笑ってよ。僕は誠さんの笑った顔が一番好きだよ」
そう言ってへにゃりと笑った。
いつだって俺はキミのその笑顔に救われてきた。
俺だってキミが笑っている顔が一番好きなんだ。キミには俺の傍でずっと笑っていて欲しいんだ。
――だから、俺は許すよ。子どもっぽく拗ねたりなんかしない。他の誰の為でもなく七星の為にふたりを許す。
俺はいつだってキミに恰好いいと思ってもらいたい。愛しいと思ってもらいたい。自慢の夫でいたいんだ。
「七星、キミはあのふたりの事を許さないないなんて思わなくていいんだ」
「でもそれじゃ――」
「俺はあのふたりを許すよ。言い方は悪いけど、そもそも許すの許さないのと考える事もおかしいくらいどうでもよくなってるんだ。俺のこの……痛みもその辺の犬にでもくれてやるから大丈夫だ。それくらい俺は七星に出会えて幸せだって事なんだよ。七星も俺と出会えて幸せだと思ってくれるなら、許さないなんて言わなくていいんだよ」
「そんなの……ずるい――」
拗ねたように口を尖らせたけど、すぐにへにゃりと笑って「幸せだよ」って言うんだから。
もしかしたらキミは最初からこうなるって分かってた?
だとしたら本当に敵わないな。
俺は敬意と愛情を込めて七星の頬にキスを贈った。
キスを受けてくすぐったそうに笑う七星。
ああ、本当に俺は幸せだ。もう――大丈夫。
俺は翌日すぐに藤田に連絡をとった。
ふたりを許すのと同時に、友人として援助をさせて欲しいと申し出た。最初はお互いに気まずい事もあるだろうし、昔のようにはできないと思うが、無理して昔のようにする必要もないのではないかと思った。お互いの間には20年という別々の時間が流れてしまっている。だとしたら昔と全く同じというわけにいかないのは当然の話だ。
だから俺たちは今の自分たちのまま、無理する事なく新たに関係を築いていけばいいのだと思えた。
愛しいいとしい俺の番。この先俺が道に迷う事があったなら、どうかキミが正しいと思う方に導いて欲しい。キミの愛は俺と昴のものだと思うけど、キミの優しさは万人に向けられるから、俺は間違わないでいられると思うんだ。必ずしも間違わない事が正しいとは言えないかもしれない。
だけど俺はキミが思う正さは間違いではないと思うから――。
-おわり-
もしもあの時ふたりが俺に気持ちを打ち明けてくれていたなら俺はきっと、驚きはしたけど笑ってふたりを祝福したに違いなかった。家の事だってどうとでもできた。それほどふたりの事を好きだった。大事だったんだ。なのにふたりにとって俺は邪魔で、つまらない存在だったんだと思ったんだ。『仲間外れ』まさにそれだ。
そんな僅かなひっかかりが俺の中に残ったんだ。恨みとも怒りとも違う想い。好きだったからこそ抱いた想い。
以前七星はふたりに感謝していると言っていた。だけど今は俺の為に許さないと言ってくれている。本当は七星は人の事を恨むとか許さないだとかそういう事は得意ではないし、本意ではないはずだ。何かに腹を立てても数分後には笑顔になるような人だから。
だけど俺がふたりの事を許したいのに許せないと分かっているから、だから代わりに許さないと言ってくれたのだ。そして自分が仲間外れになるよ、と。俺が自分でも気づかずに持ち続けていた小さな痛みを引き受けるよ、と――。
ああ、七星……キミはどうしてそんなにも強くなれるんだ。
どうして俺へまっすぐな愛情をくれるんだ。
俺はキミに会えてまた人を信じる事が、愛する事ができるようになったんだ。
「七星……」
「何て顔してるの? 誠さんは頑張り過ぎだよ。僕たちは唯一無二の番でしょう? 夫夫でしょう? だからね、何でも半分こなの。今まで誠さんが辛かった分今度は僕の番。だからね笑ってよ。僕は誠さんの笑った顔が一番好きだよ」
そう言ってへにゃりと笑った。
いつだって俺はキミのその笑顔に救われてきた。
俺だってキミが笑っている顔が一番好きなんだ。キミには俺の傍でずっと笑っていて欲しいんだ。
――だから、俺は許すよ。子どもっぽく拗ねたりなんかしない。他の誰の為でもなく七星の為にふたりを許す。
俺はいつだってキミに恰好いいと思ってもらいたい。愛しいと思ってもらいたい。自慢の夫でいたいんだ。
「七星、キミはあのふたりの事を許さないないなんて思わなくていいんだ」
「でもそれじゃ――」
「俺はあのふたりを許すよ。言い方は悪いけど、そもそも許すの許さないのと考える事もおかしいくらいどうでもよくなってるんだ。俺のこの……痛みもその辺の犬にでもくれてやるから大丈夫だ。それくらい俺は七星に出会えて幸せだって事なんだよ。七星も俺と出会えて幸せだと思ってくれるなら、許さないなんて言わなくていいんだよ」
「そんなの……ずるい――」
拗ねたように口を尖らせたけど、すぐにへにゃりと笑って「幸せだよ」って言うんだから。
もしかしたらキミは最初からこうなるって分かってた?
だとしたら本当に敵わないな。
俺は敬意と愛情を込めて七星の頬にキスを贈った。
キスを受けてくすぐったそうに笑う七星。
ああ、本当に俺は幸せだ。もう――大丈夫。
俺は翌日すぐに藤田に連絡をとった。
ふたりを許すのと同時に、友人として援助をさせて欲しいと申し出た。最初はお互いに気まずい事もあるだろうし、昔のようにはできないと思うが、無理して昔のようにする必要もないのではないかと思った。お互いの間には20年という別々の時間が流れてしまっている。だとしたら昔と全く同じというわけにいかないのは当然の話だ。
だから俺たちは今の自分たちのまま、無理する事なく新たに関係を築いていけばいいのだと思えた。
愛しいいとしい俺の番。この先俺が道に迷う事があったなら、どうかキミが正しいと思う方に導いて欲しい。キミの愛は俺と昴のものだと思うけど、キミの優しさは万人に向けられるから、俺は間違わないでいられると思うんだ。必ずしも間違わない事が正しいとは言えないかもしれない。
だけど俺はキミが思う正さは間違いではないと思うから――。
-おわり-
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