いとおしい

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
22 / 22

しおりを挟む
 七星の言葉に、ああそうかと思った。自分でも分からなかった小さなちいさな痛みの正体が分かった。俺は拗ねていたんだ。
 もしもあの時ふたりが俺に気持ちを打ち明けてくれていたなら俺はきっと、驚きはしたけど笑ってふたりを祝福したに違いなかった。家の事だってどうとでもできた。それほどふたりの事を好きだった。大事だったんだ。なのにふたりにとって俺は邪魔で、つまらない存在だったんだと思ったんだ。『仲間外れ』まさにそれだ。
 そんな僅かなひっかかりが俺の中に残ったんだ。恨みとも怒りとも違う想い。好きだったからこそ抱いた想い。

 以前七星はふたりに感謝していると言っていた。だけど今は俺の為に許さないと言ってくれている。本当は七星は人の事を恨むとか許さないだとかそういう事は得意ではないし、本意ではないはずだ。何かに腹を立てても数分後には笑顔になるような人だから。
 だけど俺がふたりの事を許したいのに許せないと分かっているから、だから代わりに許さないと言ってくれたのだ。そして自分が仲間外れになるよ、と。俺が自分でも気づかずに持ち続けていた小さな痛みを引き受けるよ、と――。

 ああ、七星……キミはどうしてそんなにも強くなれるんだ。
 どうして俺へまっすぐな愛情をくれるんだ。
 俺はキミに会えてまた人を信じる事が、愛する事ができるようになったんだ。

「七星……」

「何て顔してるの? 誠さんは頑張り過ぎだよ。僕たちは唯一無二の番でしょう? 夫夫ふうふでしょう? だからね、何でも半分こなの。今まで誠さんが辛かった分今度は僕のばん。だからね笑ってよ。僕は誠さんの笑った顔が一番好きだよ」

 そう言ってへにゃりと笑った。
 いつだって俺はキミのその笑顔に救われてきた。

 俺だってキミが笑っている顔が一番好きなんだ。キミには俺の傍でずっと笑っていて欲しいんだ。
 ――だから、俺は許すよ。子どもっぽく拗ねたりなんかしない。他の誰の為でもなく七星の為にふたりを許す。
 俺はいつだってキミに恰好いいと思ってもらいたい。愛しいと思ってもらいたい。自慢の夫でいたいんだ。

「七星、キミはあのふたりの事を許さないないなんて思わなくていいんだ」

「でもそれじゃ――」

「俺はあのふたりを許すよ。言い方は悪いけど、そもそも許すの許さないのと考える事もおかしいくらいどうでもよくなってるんだ。俺のこの……痛みもその辺の犬にでもくれてやるから大丈夫だ。それくらい俺は七星に出会えて幸せだって事なんだよ。七星も俺と出会えて幸せだと思ってくれるなら、許さないなんて言わなくていいんだよ」

「そんなの……ずるい――」

 拗ねたように口を尖らせたけど、すぐにへにゃりと笑って「幸せだよ」って言うんだから。
 もしかしたらキミは最初からこうなるって分かってた?
 だとしたら本当に敵わないな。

 俺は敬意と愛情を込めて七星の頬にキスを贈った。
 キスを受けてくすぐったそうに笑う七星。

 ああ、本当に俺は幸せだ。もう――大丈夫。

 俺は翌日すぐに藤田に連絡をとった。
 ふたりを許すのと同時に、友人として援助をさせて欲しいと申し出た。最初はお互いに気まずい事もあるだろうし、昔のようにはできないと思うが、無理して昔のようにする必要もないのではないかと思った。お互いの間には20年という別々の時間が流れてしまっている。だとしたら昔と全く同じというわけにいかないのは当然の話だ。
 だから俺たちは今の自分たちのまま、無理する事なく新たに関係を築いていけばいいのだと思えた。

 愛しいいとしい俺の七星。この先俺が道に迷う事があったなら、どうかキミが正しいと思う方に導いて欲しい。キミの愛は俺と昴のものだと思うけど、キミの優しさは万人に向けられるから、俺は間違わないでいられると思うんだ。必ずしも間違わない事が正しいとは言えないかもしれない。
 だけど俺はキミが思う正さは間違いではないと思うから――。




-おわり-
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

花に酔う

ハリネズミ
BL
二次性も分からないまま突然起こったヒートによって番関係になってしまう二人。 誤解によって歪められてしまった二人の関係はどうなるのか…? 視点未来はM、静流はSで表記しています。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

【完結】片翼のアレス

結城れい
BL
鳥人族のアレスは生まれつき翼が片方しかないため、空を飛ぶことができずに、村で孤立していた。 飛べないアレスは食料をとるため、村の西側にある森へ行く必要があった。だが、その森では鳥人族を食べてしまう獣狼族と遭遇する危険がある。 毎日気をつけながら森に入っていたアレスだったが―― 村で孤立していた正反対の2人が出会い、そして番になるお話です。 優しい獣狼ルーカス × 片翼の鳥人アレス ※基本的に毎日20時に更新していく予定です(変更がある場合はXでお知らせします) ※残酷な描写があります ※他サイトにも掲載しています

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

孤独の王と後宮の青葉

秋月真鳥
BL
 塔に閉じ込められた居場所のない妾腹の王子は、15歳になってもバース性が判明していなかった。美少女のような彼を、父親はオメガと決め付けて遠い異国の後宮に入れる。  異国の王は孤独だった。誰もが彼をアルファと信じているのに、本当はオメガでそのことを明かすことができない。  筋骨隆々としたアルファらしい孤独なオメガの王と、美少女のようなオメガらしいアルファの王子は、互いの孤独を埋め合い、愛し合う。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。 ※完結まで予約投稿しています。

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

魚上氷

楽川楽
BL
俺の旦那は、俺ではない誰かに恋を患っている……。 政略結婚で一緒になった阿須間澄人と高辻昌樹。最初は冷え切っていても、いつかは互いに思い合える日が来ることを期待していた昌樹だったが、ある日旦那が苦しげに花を吐き出す姿を目撃してしまう。 それは古い時代からある、片想いにより発症するという奇病だった。 美形×平凡

激重感情の矢印は俺

NANiMO
BL
幼馴染みに好きな人がいると聞いて10年。 まさかその相手が自分だなんて思うはずなく。 ___ 短編BL練習作品

処理中です...