22 / 22
②
しおりを挟む
七星の言葉に、ああそうかと思った。自分でも分からなかった小さなちいさな痛みの正体が分かった。俺は拗ねていたんだ。
もしもあの時ふたりが俺に気持ちを打ち明けてくれていたなら俺はきっと、驚きはしたけど笑ってふたりを祝福したに違いなかった。家の事だってどうとでもできた。それほどふたりの事を好きだった。大事だったんだ。なのにふたりにとって俺は邪魔で、つまらない存在だったんだと思ったんだ。『仲間外れ』まさにそれだ。
そんな僅かなひっかかりが俺の中に残ったんだ。恨みとも怒りとも違う想い。好きだったからこそ抱いた想い。
以前七星はふたりに感謝していると言っていた。だけど今は俺の為に許さないと言ってくれている。本当は七星は人の事を恨むとか許さないだとかそういう事は得意ではないし、本意ではないはずだ。何かに腹を立てても数分後には笑顔になるような人だから。
だけど俺がふたりの事を許したいのに許せないと分かっているから、だから代わりに許さないと言ってくれたのだ。そして自分が仲間外れになるよ、と。俺が自分でも気づかずに持ち続けていた小さな痛みを引き受けるよ、と――。
ああ、七星……キミはどうしてそんなにも強くなれるんだ。
どうして俺へまっすぐな愛情をくれるんだ。
俺はキミに会えてまた人を信じる事が、愛する事ができるようになったんだ。
「七星……」
「何て顔してるの? 誠さんは頑張り過ぎだよ。僕たちは唯一無二の番でしょう? 夫夫でしょう? だからね、何でも半分こなの。今まで誠さんが辛かった分今度は僕の番。だからね笑ってよ。僕は誠さんの笑った顔が一番好きだよ」
そう言ってへにゃりと笑った。
いつだって俺はキミのその笑顔に救われてきた。
俺だってキミが笑っている顔が一番好きなんだ。キミには俺の傍でずっと笑っていて欲しいんだ。
――だから、俺は許すよ。子どもっぽく拗ねたりなんかしない。他の誰の為でもなく七星の為にふたりを許す。
俺はいつだってキミに恰好いいと思ってもらいたい。愛しいと思ってもらいたい。自慢の夫でいたいんだ。
「七星、キミはあのふたりの事を許さないないなんて思わなくていいんだ」
「でもそれじゃ――」
「俺はあのふたりを許すよ。言い方は悪いけど、そもそも許すの許さないのと考える事もおかしいくらいどうでもよくなってるんだ。俺のこの……痛みもその辺の犬にでもくれてやるから大丈夫だ。それくらい俺は七星に出会えて幸せだって事なんだよ。七星も俺と出会えて幸せだと思ってくれるなら、許さないなんて言わなくていいんだよ」
「そんなの……ずるい――」
拗ねたように口を尖らせたけど、すぐにへにゃりと笑って「幸せだよ」って言うんだから。
もしかしたらキミは最初からこうなるって分かってた?
だとしたら本当に敵わないな。
俺は敬意と愛情を込めて七星の頬にキスを贈った。
キスを受けてくすぐったそうに笑う七星。
ああ、本当に俺は幸せだ。もう――大丈夫。
俺は翌日すぐに藤田に連絡をとった。
ふたりを許すのと同時に、友人として援助をさせて欲しいと申し出た。最初はお互いに気まずい事もあるだろうし、昔のようにはできないと思うが、無理して昔のようにする必要もないのではないかと思った。お互いの間には20年という別々の時間が流れてしまっている。だとしたら昔と全く同じというわけにいかないのは当然の話だ。
だから俺たちは今の自分たちのまま、無理する事なく新たに関係を築いていけばいいのだと思えた。
愛しいいとしい俺の番。この先俺が道に迷う事があったなら、どうかキミが正しいと思う方に導いて欲しい。キミの愛は俺と昴のものだと思うけど、キミの優しさは万人に向けられるから、俺は間違わないでいられると思うんだ。必ずしも間違わない事が正しいとは言えないかもしれない。
だけど俺はキミが思う正さは間違いではないと思うから――。
-おわり-
もしもあの時ふたりが俺に気持ちを打ち明けてくれていたなら俺はきっと、驚きはしたけど笑ってふたりを祝福したに違いなかった。家の事だってどうとでもできた。それほどふたりの事を好きだった。大事だったんだ。なのにふたりにとって俺は邪魔で、つまらない存在だったんだと思ったんだ。『仲間外れ』まさにそれだ。
そんな僅かなひっかかりが俺の中に残ったんだ。恨みとも怒りとも違う想い。好きだったからこそ抱いた想い。
以前七星はふたりに感謝していると言っていた。だけど今は俺の為に許さないと言ってくれている。本当は七星は人の事を恨むとか許さないだとかそういう事は得意ではないし、本意ではないはずだ。何かに腹を立てても数分後には笑顔になるような人だから。
だけど俺がふたりの事を許したいのに許せないと分かっているから、だから代わりに許さないと言ってくれたのだ。そして自分が仲間外れになるよ、と。俺が自分でも気づかずに持ち続けていた小さな痛みを引き受けるよ、と――。
ああ、七星……キミはどうしてそんなにも強くなれるんだ。
どうして俺へまっすぐな愛情をくれるんだ。
俺はキミに会えてまた人を信じる事が、愛する事ができるようになったんだ。
「七星……」
「何て顔してるの? 誠さんは頑張り過ぎだよ。僕たちは唯一無二の番でしょう? 夫夫でしょう? だからね、何でも半分こなの。今まで誠さんが辛かった分今度は僕の番。だからね笑ってよ。僕は誠さんの笑った顔が一番好きだよ」
そう言ってへにゃりと笑った。
いつだって俺はキミのその笑顔に救われてきた。
俺だってキミが笑っている顔が一番好きなんだ。キミには俺の傍でずっと笑っていて欲しいんだ。
――だから、俺は許すよ。子どもっぽく拗ねたりなんかしない。他の誰の為でもなく七星の為にふたりを許す。
俺はいつだってキミに恰好いいと思ってもらいたい。愛しいと思ってもらいたい。自慢の夫でいたいんだ。
「七星、キミはあのふたりの事を許さないないなんて思わなくていいんだ」
「でもそれじゃ――」
「俺はあのふたりを許すよ。言い方は悪いけど、そもそも許すの許さないのと考える事もおかしいくらいどうでもよくなってるんだ。俺のこの……痛みもその辺の犬にでもくれてやるから大丈夫だ。それくらい俺は七星に出会えて幸せだって事なんだよ。七星も俺と出会えて幸せだと思ってくれるなら、許さないなんて言わなくていいんだよ」
「そんなの……ずるい――」
拗ねたように口を尖らせたけど、すぐにへにゃりと笑って「幸せだよ」って言うんだから。
もしかしたらキミは最初からこうなるって分かってた?
だとしたら本当に敵わないな。
俺は敬意と愛情を込めて七星の頬にキスを贈った。
キスを受けてくすぐったそうに笑う七星。
ああ、本当に俺は幸せだ。もう――大丈夫。
俺は翌日すぐに藤田に連絡をとった。
ふたりを許すのと同時に、友人として援助をさせて欲しいと申し出た。最初はお互いに気まずい事もあるだろうし、昔のようにはできないと思うが、無理して昔のようにする必要もないのではないかと思った。お互いの間には20年という別々の時間が流れてしまっている。だとしたら昔と全く同じというわけにいかないのは当然の話だ。
だから俺たちは今の自分たちのまま、無理する事なく新たに関係を築いていけばいいのだと思えた。
愛しいいとしい俺の番。この先俺が道に迷う事があったなら、どうかキミが正しいと思う方に導いて欲しい。キミの愛は俺と昴のものだと思うけど、キミの優しさは万人に向けられるから、俺は間違わないでいられると思うんだ。必ずしも間違わない事が正しいとは言えないかもしれない。
だけど俺はキミが思う正さは間違いではないと思うから――。
-おわり-
5
お気に入りに追加
53
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
花に酔う
ハリネズミ
BL
二次性も分からないまま突然起こったヒートによって番関係になってしまう二人。
誤解によって歪められてしまった二人の関係はどうなるのか…?
視点未来はM、静流はSで表記しています。

【完結】片翼のアレス
結城れい
BL
鳥人族のアレスは生まれつき翼が片方しかないため、空を飛ぶことができずに、村で孤立していた。
飛べないアレスは食料をとるため、村の西側にある森へ行く必要があった。だが、その森では鳥人族を食べてしまう獣狼族と遭遇する危険がある。
毎日気をつけながら森に入っていたアレスだったが――
村で孤立していた正反対の2人が出会い、そして番になるお話です。
優しい獣狼ルーカス × 片翼の鳥人アレス
※基本的に毎日20時に更新していく予定です(変更がある場合はXでお知らせします)
※残酷な描写があります
※他サイトにも掲載しています

変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

悪魔祓いの跡取り息子なのに上級悪魔から甘やかされています
萌葱 千佳
BL
進学のために上京してきた大学生(悪魔祓いの跡取り息子)の隣の家に住んでいたのは上級悪魔だった……!?
偶然出会った相容れない2人が生涯のパートナーになるまでの物語です。
※2人の受け、攻めは決めておりません。ご自由に解釈ください。
※pixiv様でも同作品を投稿しております。

【完結】友人のオオカミ獣人は俺の事が好きらしい
れると
BL
ずっと腐れ縁の友人だと思っていた。高卒で進学せず就職した俺に、大学進学して有名な企業にし就職したアイツは、ちょこまかと連絡をくれて、たまに遊びに行くような仲の良いヤツ。それくらいの認識だったんだけどな。・・・あれ?え?そういう事ってどういうこと??
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる