いとおしい

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
21 / 22

番外 誠x七星 キミのことがいとおしい ①

しおりを挟む
 今の俺には可愛くて愛おしい番である七星ななせと8つになる愛息子すばるがいる。今が幸せで、幸せ過ぎて怖くなるほどだ。

 今でも時折思い出すのは大事だった婚約者と親友が俺の事を裏切っていた事。この裏切りのせいで俺は今も幸せが少しだけ……怖い。

 七星と出会って、七星にはふたりの事は俺と会わせてくれた事は感謝していると言われた。それで俺もふたりに対するわだかまりは全て溶けてなくなったと思っていた。
 だけど、実際ふたりを目の前にして俺の中に説明のつかない感情がある事を自覚した。

 あの日確かに俺の世界は閉じて、七星によって新たに開かれた。
 もう何があってもこの世界だけは失いたくない。


*****

 俺と七星の前にはかつての婚約者結花ゆいかとかつての親友藤田 聖ふじた せいの姿があった。ふたりは土下座しており、俺たちはソファーに座りそれを黙って見ていた。

 20年ぶりのふたりは苦労してきたのだろう、大分やつれて見えた。白髪も年齢の割に多いように思う。

「――茅野かやの、さんを裏切っておきながら今更こんな事をお願いするなんて……虫のいい話だと思……います。だけど――っ、娘が……娘のつむぎが病気なん、です……」

 土下座の姿勢のまま俺の事を『茅野さん』と呼び、言い募る藤田の声は震えていた。お互いを「誠」「聖」と呼び合っていた頃の気安さや快活さはない。

「勿論実家にも助けを求めました……っ。でも無理だって言われて……。下手に手助けをして茅野家に睨まれたくはないと――。どうか……どうか娘の為に許してはくれないでしょうか? 俺にできる事なら何だってします。だからどうか娘を助けて……下さい。お願いします――」

 俺は最後まで「許す」と言えないまま「しばらく考えさせて欲しい」とふたりを帰した。


 あんな姿見たくはなかった。
 俺はあの時も今までも謝って欲しいだなんて事は思っていなかった。
 謝られたとしてもとうてい許せるとは思っていなかったからだ。
 ――いや、許す許さないという話ではない。信じていた者たちに裏切られたという想いはどうやったって消える事はない。信じていた頃と同じように接する事なんてできないと思った。だからふたりとは縁を切った。それによってふたりの身に何が起こるかも承知の上でそうしたのだ。

 あんな話を聞いても、ふたりが俺の前に現れた時に思い出したように痛みだした得体の知れない痛みに胸がざわつき、「ああいいよ」とは言ってやれなかった。
 ふたりを助けたい気持ちはある。自分にも可愛い息子がいるのだ。ふたりの子どもを助けたい――。だけどどうしようもなく胸が痛いんだ。

「――誠さん」

 ふたりの話を俺の隣りで聞いている時も何も言わず、ふたりが帰った後も黙っていた七星が静かに俺の名前を呼んだ。

「誠さん、僕は誠さんをにしたふたりの事を許せません。だけどこんなのは僕ひとりで充分。だから誠さんは――」

 俺の両手を取って「許してもいいんだよ」と言葉を続けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

処理中です...