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番外 誠x七星 キミのことがいとおしい ①
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今の俺には可愛くて愛おしい番である七星と8つになる愛息子昴がいる。今が幸せで、幸せ過ぎて怖くなるほどだ。
今でも時折思い出すのは大事だった婚約者と親友が俺の事を裏切っていた事。この裏切りのせいで俺は今も幸せが少しだけ……怖い。
七星と出会って、七星にはふたりの事は俺と会わせてくれた事は感謝していると言われた。それで俺もふたりに対するわだかまりは全て溶けてなくなったと思っていた。
だけど、実際ふたりを目の前にして俺の中に説明のつかない感情がある事を自覚した。
あの日確かに俺の世界は閉じて、七星によって新たに開かれた。
もう何があってもこの世界だけは失いたくない。
*****
俺と七星の前にはかつての婚約者結花とかつての親友藤田 聖の姿があった。ふたりは土下座しており、俺たちはソファーに座りそれを黙って見ていた。
20年ぶりのふたりは苦労してきたのだろう、大分やつれて見えた。白髪も年齢の割に多いように思う。
「――茅野、さんを裏切っておきながら今更こんな事をお願いするなんて……虫のいい話だと思……います。だけど――っ、娘が……娘の紬が病気なん、です……」
土下座の姿勢のまま俺の事を『茅野さん』と呼び、言い募る藤田の声は震えていた。お互いを「誠」「聖」と呼び合っていた頃の気安さや快活さはない。
「勿論実家にも助けを求めました……っ。でも無理だって言われて……。下手に手助けをして茅野家に睨まれたくはないと――。どうか……どうか娘の為に許してはくれないでしょうか? 俺にできる事なら何だってします。だからどうか娘を助けて……下さい。お願いします――」
俺は最後まで「許す」と言えないまま「しばらく考えさせて欲しい」とふたりを帰した。
あんな姿見たくはなかった。
俺はあの時も今までも謝って欲しいだなんて事は思っていなかった。
謝られたとしてもとうてい許せるとは思っていなかったからだ。
――いや、許す許さないという話ではない。信じていた者たちに裏切られたという想いはどうやったって消える事はない。信じていた頃と同じように接する事なんてできないと思った。だからふたりとは縁を切った。それによってふたりの身に何が起こるかも承知の上でそうしたのだ。
あんな話を聞いても、ふたりが俺の前に現れた時に思い出したように痛みだした得体の知れない痛みに胸がざわつき、「ああいいよ」とは言ってやれなかった。
ふたりを助けたい気持ちはある。自分にも可愛い息子がいるのだ。ふたりの子どもを助けたい――。だけどどうしようもなく胸が痛いんだ。
「――誠さん」
ふたりの話を俺の隣りで聞いている時も何も言わず、ふたりが帰った後も黙っていた七星が静かに俺の名前を呼んだ。
「誠さん、僕は誠さんを仲間外れにしたふたりの事を許せません。だけどこんなのは僕ひとりで充分。だから誠さんは――」
俺の両手を取って「許してもいいんだよ」と言葉を続けた。
今でも時折思い出すのは大事だった婚約者と親友が俺の事を裏切っていた事。この裏切りのせいで俺は今も幸せが少しだけ……怖い。
七星と出会って、七星にはふたりの事は俺と会わせてくれた事は感謝していると言われた。それで俺もふたりに対するわだかまりは全て溶けてなくなったと思っていた。
だけど、実際ふたりを目の前にして俺の中に説明のつかない感情がある事を自覚した。
あの日確かに俺の世界は閉じて、七星によって新たに開かれた。
もう何があってもこの世界だけは失いたくない。
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20年ぶりのふたりは苦労してきたのだろう、大分やつれて見えた。白髪も年齢の割に多いように思う。
「――茅野、さんを裏切っておきながら今更こんな事をお願いするなんて……虫のいい話だと思……います。だけど――っ、娘が……娘の紬が病気なん、です……」
土下座の姿勢のまま俺の事を『茅野さん』と呼び、言い募る藤田の声は震えていた。お互いを「誠」「聖」と呼び合っていた頃の気安さや快活さはない。
「勿論実家にも助けを求めました……っ。でも無理だって言われて……。下手に手助けをして茅野家に睨まれたくはないと――。どうか……どうか娘の為に許してはくれないでしょうか? 俺にできる事なら何だってします。だからどうか娘を助けて……下さい。お願いします――」
俺は最後まで「許す」と言えないまま「しばらく考えさせて欲しい」とふたりを帰した。
あんな姿見たくはなかった。
俺はあの時も今までも謝って欲しいだなんて事は思っていなかった。
謝られたとしてもとうてい許せるとは思っていなかったからだ。
――いや、許す許さないという話ではない。信じていた者たちに裏切られたという想いはどうやったって消える事はない。信じていた頃と同じように接する事なんてできないと思った。だからふたりとは縁を切った。それによってふたりの身に何が起こるかも承知の上でそうしたのだ。
あんな話を聞いても、ふたりが俺の前に現れた時に思い出したように痛みだした得体の知れない痛みに胸がざわつき、「ああいいよ」とは言ってやれなかった。
ふたりを助けたい気持ちはある。自分にも可愛い息子がいるのだ。ふたりの子どもを助けたい――。だけどどうしようもなく胸が痛いんだ。
「――誠さん」
ふたりの話を俺の隣りで聞いている時も何も言わず、ふたりが帰った後も黙っていた七星が静かに俺の名前を呼んだ。
「誠さん、僕は誠さんを仲間外れにしたふたりの事を許せません。だけどこんなのは僕ひとりで充分。だから誠さんは――」
俺の両手を取って「許してもいいんだよ」と言葉を続けた。
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