いとおしい

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
14 / 22

(5)

しおりを挟む
目が覚めると見知らぬ白い天井が見えた。
ぴっぴっぴっという無機質な音が部屋に響く。
起きたいのに身体が重くて起き上がる事ができない。

七星――。
七星はどこだ?
七星が泣いている。
早く抱きしめてやらないと――――。

「―――なな…せ……」

うまく声が出せない。
――――なんでだ?
俺、まだ寝ぼけてるのか…?

「誠さん!!」
「先生!来てください!」

七星と一星の声だ。

何を慌ててるんだ?ちょっと寝ていただけだろう?
俺が二人を放って寝ちゃったから寂しかったのか?
ほら、もう目が覚めたんだから、もう寂しくないだろう?

「誠さん!誠さん!僕、僕――うわ―――んっ!」
声をあげて泣く七星。

鉛のように重い腕を上げ、俺に縋って泣く七星の頭をゆっくりと撫でてやる。
「な…くな……」
「だって、僕…僕…っ」
「………」

七星を安心させるように微笑みかけ、再び意識を失った。



*****
次に目が覚めたのは翌日の事で、その時は意識もはっきりとしていて、自分に起こった事をちゃんと理解していた。

七星が暴漢に捕まって生きた心地がしなかった事。
七星と一星を抱き込んで背中を暴漢にナイフで刺された事。

改めて思う。
二人が無事で本当に良かった。

それから何日か過ぎて、病室も一般病室に変わり、一人でトイレへも行けるようになっていた。
今日は七星も一星も学校へ行っていて一人だ。

七星は俺が退院するまで学校を休んで付き添うと言い張ったが、俺が学校へ行くように強く勧めたのだ。
もう一人で何でもできるくらいまで回復したのだから、このまま学校を休ませては卒業も危ういかもしれなかったのだ。
Ωはヒート時の欠席が国で認められているとはいえ、その分他の時の欠席は多くなると出席日数が足らなくなり、無事卒業できなくなってしまう恐れがあるのだ。

それに、七星の卒業式には真っ赤なオープンカーに積み切れないくらいの薔薇の花を積んで、キミを迎えに行く事が俺の夢になったんだから、ちゃんと卒業してもらわなくては。
この事はまだ七星には内緒だ。
卒業式の日の七星の笑顔が想像できて、俺は小さく笑った。

―――今から楽しみだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

僕の罪と君の記憶

深山恐竜
BL
 ——僕は17歳で初恋に落ちた。  そしてその恋は叶った。僕と恋人の和也は幸せな時間を過ごしていたが、ある日和也から別れ話を切り出される。話し合いも十分にできないまま、和也は交通事故で頭を打ち記憶を失ってしまった。  もともと和也はノンケであった。僕は恋仲になることで和也の人生を狂わせてしまったと負い目を抱いていた。別れ話をしていたこともあり、僕は記憶を失った和也に自分たちの関係を伝えなかった。  記憶を失い別人のようになってしまった和也。僕はそのまま和也との関係を断ち切ることにしたのだが……。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

孤独を癒して

星屑
BL
運命の番として出会った2人。 「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、 デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。 *不定期更新。 *感想などいただけると励みになります。 *完結は絶対させます!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

処理中です...