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番外編
11 『運命』よりも『愛』がいい①
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杉本くんは目覚めるとすぐに「ひゃー……っ」と奇声を上げて、布団を被って丸まってしまった。どこまで覚えているのか訊いてみると、
「ぜ……」
「ぜ?」
「全部です――っ!」
俺はくっくと喉の奥で笑った。
まったく、こんなに可愛くて愛おしい存在がいて『運命』なんか恐れるなんて馬鹿げてる。本当、及川さんは正しいよ。覚悟を決めてしまえば愛しいしかない。
あの『証明』があったればこそかもしれないが、『愛』は『運命』なんかに負けないんだと思った。
未だ布団に丸まって出て来ない愛しい人を布団の上からポンポンと優しく撫でた。
*****
何とかなだめすかして布団の中から出て来てくれた杉本くんと話をした。
俺の想い。杉本くんの想い。
杉本くんは二次性がΩだと分かりショックを受けてあてもなく彷徨っていた時、俺と出会ったんだそうだ。俺がアイツに捨てられたあの時、偶然傍にいて一部始終を見ていたのだ。傷つき涙を流す俺がとても弱く、守りたいと思ったという事だ。αを守るΩ。普通じゃ考えられない話だが、それでも守りたいのだと切に願い、その後も俺の幸せをずっと祈っていたと。俺たちの繋がりはあの場所しかないから、だからあの花屋にいて、花束を渡し好きだと伝えたと――。
俺は杉本くんの話を訊きながら涙を流していた。
俺は気づいたのだ。
杉本くんはあの日あの場所でアレを見てしまった事だけを申し訳なさそうに言ったけど――、あの「これは夢だよ」と言ったのはあの日の杉本くんだったのではないか。今の杉本くんよりも少し高めだけど穏やかで優しい――同じ声。傷ついた俺を優しく包み込んでくれたデイジーの香り……。
全てを見ていたからΩであれば俺を傷つける存在であると思ったのだ。Ωである彼にも『運命』が――と要らぬ不安を抱かせてしまうと。だからΩである事を隠した。彼の『嘘』は俺への『愛』――。
ああ、なんて……なんて――。
俺の全てが奪われた日、杉本くんからは『慈しみ』を貰っていた。
この10年ずっとずっと守られてきたのだ。夢の中にいる時も彼の温もりを感じていた。彼の愛に守られていた。長い夢から覚めてからも――――。
「――俺は『運命』が怖かった。『運命』に負けてきみを失う事が怖かったんだ。きみがβだと思っていた時も俺の前に『運命』が現れて、アイツみたいにきみを捨てる事になったとしたら――って思うと怖くて堪らなかった。だけどきみが勝たせてくれたんだ。俺は『本能』に負けずきみへの『愛』を貫く事ができた。俺は『運命』なんかに負けやしない。杉本くんもそうだろう――?」
俺の問いに杉本くんはふわりと笑う事で応えた。それを見て俺もお返しのように微笑む。杉本くんへの気持ちは真夏の太陽よりも、鉄を溶かす炎よりも熱いのに不思議と心は凪いでいた。穏やかな幸せ――。
「俺は自分の事もきみの事も信じている。信じられる。――――俺の幸せを願うなら、俺の傍で一緒に幸せになってくれないか?」
実質プロポーズのつもりで言った告白。杉本くんの瞳から一滴の涙が零れ落ちて、俺が知る一番の笑顔で答えた。
「喜んで……っ」
それは『静』なのに『動』、生命力に溢れたとても杉本くん……喜久乃らしい笑顔だった。
「ぜ……」
「ぜ?」
「全部です――っ!」
俺はくっくと喉の奥で笑った。
まったく、こんなに可愛くて愛おしい存在がいて『運命』なんか恐れるなんて馬鹿げてる。本当、及川さんは正しいよ。覚悟を決めてしまえば愛しいしかない。
あの『証明』があったればこそかもしれないが、『愛』は『運命』なんかに負けないんだと思った。
未だ布団に丸まって出て来ない愛しい人を布団の上からポンポンと優しく撫でた。
*****
何とかなだめすかして布団の中から出て来てくれた杉本くんと話をした。
俺の想い。杉本くんの想い。
杉本くんは二次性がΩだと分かりショックを受けてあてもなく彷徨っていた時、俺と出会ったんだそうだ。俺がアイツに捨てられたあの時、偶然傍にいて一部始終を見ていたのだ。傷つき涙を流す俺がとても弱く、守りたいと思ったという事だ。αを守るΩ。普通じゃ考えられない話だが、それでも守りたいのだと切に願い、その後も俺の幸せをずっと祈っていたと。俺たちの繋がりはあの場所しかないから、だからあの花屋にいて、花束を渡し好きだと伝えたと――。
俺は杉本くんの話を訊きながら涙を流していた。
俺は気づいたのだ。
杉本くんはあの日あの場所でアレを見てしまった事だけを申し訳なさそうに言ったけど――、あの「これは夢だよ」と言ったのはあの日の杉本くんだったのではないか。今の杉本くんよりも少し高めだけど穏やかで優しい――同じ声。傷ついた俺を優しく包み込んでくれたデイジーの香り……。
全てを見ていたからΩであれば俺を傷つける存在であると思ったのだ。Ωである彼にも『運命』が――と要らぬ不安を抱かせてしまうと。だからΩである事を隠した。彼の『嘘』は俺への『愛』――。
ああ、なんて……なんて――。
俺の全てが奪われた日、杉本くんからは『慈しみ』を貰っていた。
この10年ずっとずっと守られてきたのだ。夢の中にいる時も彼の温もりを感じていた。彼の愛に守られていた。長い夢から覚めてからも――――。
「――俺は『運命』が怖かった。『運命』に負けてきみを失う事が怖かったんだ。きみがβだと思っていた時も俺の前に『運命』が現れて、アイツみたいにきみを捨てる事になったとしたら――って思うと怖くて堪らなかった。だけどきみが勝たせてくれたんだ。俺は『本能』に負けずきみへの『愛』を貫く事ができた。俺は『運命』なんかに負けやしない。杉本くんもそうだろう――?」
俺の問いに杉本くんはふわりと笑う事で応えた。それを見て俺もお返しのように微笑む。杉本くんへの気持ちは真夏の太陽よりも、鉄を溶かす炎よりも熱いのに不思議と心は凪いでいた。穏やかな幸せ――。
「俺は自分の事もきみの事も信じている。信じられる。――――俺の幸せを願うなら、俺の傍で一緒に幸せになってくれないか?」
実質プロポーズのつもりで言った告白。杉本くんの瞳から一滴の涙が零れ落ちて、俺が知る一番の笑顔で答えた。
「喜んで……っ」
それは『静』なのに『動』、生命力に溢れたとても杉本くん……喜久乃らしい笑顔だった。
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