俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

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番外編

4 花の香り①

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 俺はもうずっとこのままなのかもしれない。誰にも求められず、過去に囚われたままただ生きる。こんな事なら夢を見たままでいたかった。夢の中の俺は淡々としていたが、どこか温かさも感じていたように思う。今よりずっと穏やかだった。たとえるなら母親に守られているような――裏切りも打算もない、そんな愛情。そんな温もりの中にいたからなのか、突然の目覚めとつい先日一条さんにフラれた事で『運命』に対する忌避感が一層強まってしまったように思う。
 もし万が一にもこの先誰かを愛し、愛される事があったとしても絶対に『運命』とは無関係でありたいと思った。たとえばβのような。βが相手であれば『運命』なんてものはいない。ただ好きだから付き合って、愛してるから結婚する。すごく単純で分かりやすく、たとえ振り回される事になったとしても『運命』によるものよりはもっとずっと意味があると思えた。

 そんな事を考えて歩いていたらおよそ10年ぶりくらいに場所に来ていた。アイツが俺の元を去った場所だ。
 だけど何故か心は思ったよりも痛くはなかった。胸を押さえてみても刻む鼓動はいつもと同じ。
 俺の中でも実はちゃんと10年という歳月は流れていて、アイツへの想いも昇華できているのかも。

 ――本当に……?

 頭の奥で何かが聞こえた気がして振り向くと一軒の花屋が目に入った。
 忘れもしないアイツの為に薔薇の花束を買った花屋だった。外観は少し古びたもののあの頃と変わらずそこにあった。

 俺は何かに誘われるようにその花屋に足を踏み入れ、すぐにふわりと香る優しい花の香りに包まれた。

「いらっしゃいっ」

 元気な声がして声のする方を見ると、とても若い――多分俺の半分くらいの年齢の青年が笑顔でこちらを見ていた。
 エプロンをしているところを見ると店員か。
 今まで挫折というものを味わった事がないような自信に満ちた笑顔。俺にはその笑顔は眩しくて、眩しすぎて耐えられなくてすぐに踵を返した。
 逃げるように店を出たのに背中を追いかけるようにかけられた元気な声。

「またいらしてくださいねーっ」

 何故だか分からないけれどその声に、夢から覚めたはずなのに少しだけ夢の中にいるような気がした。
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