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俺のかわいい婚約者さま・続
3 ひとりじゃない
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実は俺の妊娠が分かって父さんがデレていた。俺と楓君と番になった報告をした時の、あの厳しさは何だったのかと思うくらい甘々だ。半ば強引にお手伝いさんを雇ってしまった。
色々と不安のある身体の俺が、ひとりで家に居る事が心配なのだろう。
いくつになっても親は親で、子どもは子どもなんだなと思った。
正直、今は日中だけでも誰かが傍に居てくれるのはありがたかった。
ひとりで居ると悪い事ばかり考えてしまう。
楓君は本当は俺の事なんか愛していないんじゃないか。
楓君はもう俺に飽きてしまったんじゃないか。
楓君は楓君は楓君は――――。
じわりと涙が浮かぶ。
「奥様、後でお散歩でもいかがですか? 私もご一緒いたしますので危険はないかと思いますし、いい気分転換になると思いますよ」
そう言ってにこりと笑い、忙しく動き回る家政婦の四方田 千里さん。
四方田さんは高齢のΩ女性で、家族以外で俺の事もちゃんと妊娠中のΩとして労ってくれる数少ない人だ。
楓君も四方田さんの事は信用しているようで、ふたりっきりになる事に煩く色々と言ったりしない。
ああ……そもそも俺に興味がなくなったのなら、煩く言う必要もないんだけど――。
ここ最近の落ち込んだ様子に、心配して声をかけてくれたのだろう。
無理に理由を聞き出そうとしない彼女の配慮が、今の俺にはありがたかった。
*****
四方田さんはテキパキと俺にダウンを着せ、マフラーを巻き寒くないようにしてくれた。
「ふふ、これで安心です。さぁ奥さまお手をどうぞ?」
すっと出された四方田さんの手。働き者の手の平。
しわしわとして女性にしては少しごつごつ、カサカサとしていた。
今度いい匂いのするハンドクリームでもプレゼントしよう。
そっと手を乗せ手をつなぐ。
にっこりと微笑まれ、俺もつられてにっこりと微笑む。
四方田さんにエスコートされ、出かけた久しぶりの外はひどく心地よかった。
温かな手のぬくもりと優しい笑顔。そして澄んだ空気。
ふと思う。これが楓君だったら……。
楓君と一緒に手をつないで散歩したいな……。
一度浮上した気持ちが再び沈みそうになる。
「――奥さま、私は今まで色々なご家庭で家政婦として働かせていただきました。ですが、旦那さまのように奥さまの事を一途に想っておられる方はそうはおられません。素敵な旦那さまですね」
突然の四方田さんの言葉に一瞬きょとんとしたが、次第に俺の心にじわりじわりと広がっていった。
何を言ったわけでもない俺の不安。
四方田さんの言葉はまさにそれに対する答えだった。
「ふふ。そうだね。楓君は世界で一番素敵な旦那さまだよ」
ここ最近の俺の心を凍えさせていた降り積もった雪が、太陽の暖かな日差しを浴びてゆっくりと溶けていくようだった。久しぶりに心から笑顔になれた。
すると、ぽこんとお腹を蹴られた。
自分のお腹にそっと手をあててみる。
ぽこん、ぽこん。
まるで自分もいるよ。ひとりじゃないよ。って言ってくれてるみたいだった。
あぁ……俺にはキミもいたね。
俺はまた間違えるところだった。
俺が愛する楓君の事を信じなくてどうするんだ。
怖くても、今の俺にはキミもいる。
キミとふたりなら……勇気を出せる気がするよ。
だから応援してね。俺のかわいい『こぐまちゃん』。
そっとお腹を撫でながら、逃げずに自分の不安に向き合おうと思った。
そんな俺を四方田さんは黙って微笑んで見守ってくれていた。
俺とこぐまを応援してくれている。
もし、楓君が浮気をしていたとしたら……四方田さんがこっぴどく叱ってくれそうだ。そう思うとくすりと笑みが零れた。
――――ありがとうございます。
心の中でそう呟いた。
色々と不安のある身体の俺が、ひとりで家に居る事が心配なのだろう。
いくつになっても親は親で、子どもは子どもなんだなと思った。
正直、今は日中だけでも誰かが傍に居てくれるのはありがたかった。
ひとりで居ると悪い事ばかり考えてしまう。
楓君は本当は俺の事なんか愛していないんじゃないか。
楓君はもう俺に飽きてしまったんじゃないか。
楓君は楓君は楓君は――――。
じわりと涙が浮かぶ。
「奥様、後でお散歩でもいかがですか? 私もご一緒いたしますので危険はないかと思いますし、いい気分転換になると思いますよ」
そう言ってにこりと笑い、忙しく動き回る家政婦の四方田 千里さん。
四方田さんは高齢のΩ女性で、家族以外で俺の事もちゃんと妊娠中のΩとして労ってくれる数少ない人だ。
楓君も四方田さんの事は信用しているようで、ふたりっきりになる事に煩く色々と言ったりしない。
ああ……そもそも俺に興味がなくなったのなら、煩く言う必要もないんだけど――。
ここ最近の落ち込んだ様子に、心配して声をかけてくれたのだろう。
無理に理由を聞き出そうとしない彼女の配慮が、今の俺にはありがたかった。
*****
四方田さんはテキパキと俺にダウンを着せ、マフラーを巻き寒くないようにしてくれた。
「ふふ、これで安心です。さぁ奥さまお手をどうぞ?」
すっと出された四方田さんの手。働き者の手の平。
しわしわとして女性にしては少しごつごつ、カサカサとしていた。
今度いい匂いのするハンドクリームでもプレゼントしよう。
そっと手を乗せ手をつなぐ。
にっこりと微笑まれ、俺もつられてにっこりと微笑む。
四方田さんにエスコートされ、出かけた久しぶりの外はひどく心地よかった。
温かな手のぬくもりと優しい笑顔。そして澄んだ空気。
ふと思う。これが楓君だったら……。
楓君と一緒に手をつないで散歩したいな……。
一度浮上した気持ちが再び沈みそうになる。
「――奥さま、私は今まで色々なご家庭で家政婦として働かせていただきました。ですが、旦那さまのように奥さまの事を一途に想っておられる方はそうはおられません。素敵な旦那さまですね」
突然の四方田さんの言葉に一瞬きょとんとしたが、次第に俺の心にじわりじわりと広がっていった。
何を言ったわけでもない俺の不安。
四方田さんの言葉はまさにそれに対する答えだった。
「ふふ。そうだね。楓君は世界で一番素敵な旦那さまだよ」
ここ最近の俺の心を凍えさせていた降り積もった雪が、太陽の暖かな日差しを浴びてゆっくりと溶けていくようだった。久しぶりに心から笑顔になれた。
すると、ぽこんとお腹を蹴られた。
自分のお腹にそっと手をあててみる。
ぽこん、ぽこん。
まるで自分もいるよ。ひとりじゃないよ。って言ってくれてるみたいだった。
あぁ……俺にはキミもいたね。
俺はまた間違えるところだった。
俺が愛する楓君の事を信じなくてどうするんだ。
怖くても、今の俺にはキミもいる。
キミとふたりなら……勇気を出せる気がするよ。
だから応援してね。俺のかわいい『こぐまちゃん』。
そっとお腹を撫でながら、逃げずに自分の不安に向き合おうと思った。
そんな俺を四方田さんは黙って微笑んで見守ってくれていた。
俺とこぐまを応援してくれている。
もし、楓君が浮気をしていたとしたら……四方田さんがこっぴどく叱ってくれそうだ。そう思うとくすりと笑みが零れた。
――――ありがとうございます。
心の中でそう呟いた。
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