49 / 87
もう少しだけ待っていて
8 答えを求めて
しおりを挟む
「あのね、やっぱりこれ変じゃない?」
彼方は難しい顔をしてベッドにうつ伏せになって、二次性判定結果報告書を真剣に見ていたかと思うと俺の目の前でぴらぴらと振って見せた。
「変って?」
「うん。だってね、何か―ー匂うんだ」
「匂うって?」
「誰かのフェロモンがべっとりついてる。これってさ、厳重に管理されてて誰のフェロモンも付かないようになってるよね?翔が僕の知らない人にこれを触らせたんなら……おかしくはないんだけど……さ」
唇をむぅと少しだけ突き出してそんな事を言う。
そんなわけないじゃん。
「そんなわけないじゃん。これ見せたの彼方だけだよ」
「そうだよね。分かってた」
ふふと笑う彼方。また彼方の冗談だと分かり苦笑する。
すんすんと匂いを嗅ぐと確かに彼方と俺以外の誰かの匂いが付いているように思う。
厳重に管理保管されていて取り扱う人間は防護服を着ており、フェロモンがつくなんて事はありえないのだ。その事に意味なんてないのだが、前も言ったように対外的なアピールの一環なのだろう。
なのにべっとりと付いたこのフェロモンは一体どこでついた誰のモノなのか?
そこで考えられるのは――
「――すり替えられた……?」
彼方の言葉に二人顔を見合わせて息を飲んだ。
『すり替え』だなんてあり得ないし、あってはならない事だ。
だけど、そう思ってしまえばもうそれしか考えられなかった。
でも、一体誰が――?
そこで思い浮かぶ人物がひとり――――。
でもまさか、と思う。本当にすり替えなんて事をしてしまったらその後の人生が詰むからだ。
大した確証もなく疑うのはよくないと、頭に浮かんだ人物を頭を振って消し去った。
本当ならΩである彼方の番であるなら俺はα以外考えられない。だけど母さんのお腹にいる頃から自分の存在をアピールしていた俺の事だから、たとえ自分がΩでもΩの事を求めてしまうと思ったのだ。
だから俺の二次性はこの二次性判定結果報告書に書かれていたΩだと信じてしまった。
「――父さんに相談したらいいのかな……?」
「うん、そうだね。楓さんなら色々伝手もあるだろうしきっと力になってくれる。もし、もしもの話だけど、このフェロモンが何かの間違いでついちゃっただけで何の偽装もなくて翔がΩだったとしても――僕たちは何も変わらない。これだけは覚えておいて?」
「――分かった。俺もう大丈夫だよ。彼方の愛を疑ったりしない。彼方、愛してる」
「僕も愛してるよ。翔」
俺たちはお互いの気持ちを確かめるように互いの首に残る噛み跡にキスを贈った。
*****
俺はその日父さんが帰るのを待ち、二次性について相談した。
父さんは難しい顔で俺の話を聞いていたけど、全てを聞き終わるとすぐに行動に移した。
あちこちに連絡を入れてくれて厳しい言葉も聞こえてくる。母さんはその間ずっと俺の事を抱きしめてくれていた。
そして一通り連絡が終わると父さんも母さんと一緒に抱きしめてくれた。
「大丈夫だから。何があってもお前は俺と薫さんの大事な息子だ」
そう言って見せたその笑顔に、結果がどうであれもう大丈夫だって思ったんだ。
最初からこうすればよかったんだ。
俺はどう足掻いてもまだ14の子どもで、父さんと母さんに守られるだけの子どもで。
ひとりではどうする事もできずに震えていただけで、両親に相談するきっかけをくれたのだって彼方だった。
今は自分が子どもだという事を素直に受け入れるしかないんだ。
受け入れて大人を頼って、そして大きくなったら心配や迷惑をかけたその何倍もお返しをすればいい。
俺は父さんと母さんに抱きしめられながら子どもらしく声をあげて泣いた。
彼方は難しい顔をしてベッドにうつ伏せになって、二次性判定結果報告書を真剣に見ていたかと思うと俺の目の前でぴらぴらと振って見せた。
「変って?」
「うん。だってね、何か―ー匂うんだ」
「匂うって?」
「誰かのフェロモンがべっとりついてる。これってさ、厳重に管理されてて誰のフェロモンも付かないようになってるよね?翔が僕の知らない人にこれを触らせたんなら……おかしくはないんだけど……さ」
唇をむぅと少しだけ突き出してそんな事を言う。
そんなわけないじゃん。
「そんなわけないじゃん。これ見せたの彼方だけだよ」
「そうだよね。分かってた」
ふふと笑う彼方。また彼方の冗談だと分かり苦笑する。
すんすんと匂いを嗅ぐと確かに彼方と俺以外の誰かの匂いが付いているように思う。
厳重に管理保管されていて取り扱う人間は防護服を着ており、フェロモンがつくなんて事はありえないのだ。その事に意味なんてないのだが、前も言ったように対外的なアピールの一環なのだろう。
なのにべっとりと付いたこのフェロモンは一体どこでついた誰のモノなのか?
そこで考えられるのは――
「――すり替えられた……?」
彼方の言葉に二人顔を見合わせて息を飲んだ。
『すり替え』だなんてあり得ないし、あってはならない事だ。
だけど、そう思ってしまえばもうそれしか考えられなかった。
でも、一体誰が――?
そこで思い浮かぶ人物がひとり――――。
でもまさか、と思う。本当にすり替えなんて事をしてしまったらその後の人生が詰むからだ。
大した確証もなく疑うのはよくないと、頭に浮かんだ人物を頭を振って消し去った。
本当ならΩである彼方の番であるなら俺はα以外考えられない。だけど母さんのお腹にいる頃から自分の存在をアピールしていた俺の事だから、たとえ自分がΩでもΩの事を求めてしまうと思ったのだ。
だから俺の二次性はこの二次性判定結果報告書に書かれていたΩだと信じてしまった。
「――父さんに相談したらいいのかな……?」
「うん、そうだね。楓さんなら色々伝手もあるだろうしきっと力になってくれる。もし、もしもの話だけど、このフェロモンが何かの間違いでついちゃっただけで何の偽装もなくて翔がΩだったとしても――僕たちは何も変わらない。これだけは覚えておいて?」
「――分かった。俺もう大丈夫だよ。彼方の愛を疑ったりしない。彼方、愛してる」
「僕も愛してるよ。翔」
俺たちはお互いの気持ちを確かめるように互いの首に残る噛み跡にキスを贈った。
*****
俺はその日父さんが帰るのを待ち、二次性について相談した。
父さんは難しい顔で俺の話を聞いていたけど、全てを聞き終わるとすぐに行動に移した。
あちこちに連絡を入れてくれて厳しい言葉も聞こえてくる。母さんはその間ずっと俺の事を抱きしめてくれていた。
そして一通り連絡が終わると父さんも母さんと一緒に抱きしめてくれた。
「大丈夫だから。何があってもお前は俺と薫さんの大事な息子だ」
そう言って見せたその笑顔に、結果がどうであれもう大丈夫だって思ったんだ。
最初からこうすればよかったんだ。
俺はどう足掻いてもまだ14の子どもで、父さんと母さんに守られるだけの子どもで。
ひとりではどうする事もできずに震えていただけで、両親に相談するきっかけをくれたのだって彼方だった。
今は自分が子どもだという事を素直に受け入れるしかないんだ。
受け入れて大人を頼って、そして大きくなったら心配や迷惑をかけたその何倍もお返しをすればいい。
俺は父さんと母さんに抱きしめられながら子どもらしく声をあげて泣いた。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。
渡り廊下の恋
抹茶もち
BL
火曜日の3限目の前と、金曜日の6限目の前、僕は必ず教室の窓の外に視線を向ける。
ーーー・・・移動教室のために渡り廊下を使って別館へ向かう、キラキラした彼の後ろ姿を見るために。
地味な小動物系男子が片想い中の美形な不良に振り回され、知らない間に振り回し、いつの間にかノンケだったはずの美形な不良に甘々に溺愛されていくお話です。
※見ているだけなのは一瞬です。
※地味な小動物系男子は素直で意外と図太いです。
※他サイトでも同時連載中です。
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
表紙絵
⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)


花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる