俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

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もう少しだけ待っていて

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「――――なるほどね」

長い長い沈黙の後、彼方がぽつりと言った。

「翔」

「――――ゃ……だ」

やだ、やだ、やだ、嫌だっ!何も聞きたくない!
彼方からの別れを告げる言葉なんて聞きたくないっ!!
耳を塞ぎ壊れた人形のように頭を左右に振り続ける。

「翔っ、僕を見て?」

力強い彼方の声。
俺の肩を掴み自分の事を見ろと言う。

「ひっく……。ふ……っ」

嘘つきな俺を蔑む彼方の目なんか見たくなくて、ぎゅっと目を瞑りただ泣く事しかできなかった。
大事な事を隠してた事を謝って、それでも一緒にいたいんだって彼方に言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない。

そっと俺の頬に触れる優しい手を感じた。
そして額には温かくやわらかなものが触れた。

恐る恐る目を開けると、愛おしい人の笑顔がすぐ傍にあった。

「――やっとこっち見た」

何でいつもこんな俺に優しくしてくれるの……?
嘘つきの俺でも許してくれるの……?

俺は今度こそ彼方の胸に縋ってわんわんと泣いた。
彼方は黙って俺を抱きしめて「大丈夫。大好きだよ」って何度も囁いてくれた。
そして時々ずずっと鼻をすするような音が聞こえていたから、彼方ももしかしたら泣いていたのかもしれない。

「ねぇ、翔。僕と翔ってなぁに?」

「う……ん、めい。番……」

「うん。そうだよね。僕には翔しかいないし、翔以外いらないんだ。翔が薫さんのお腹にいた頃から好きなんだよ?そんな頃αだΩだβだって分かるわけがない。それでも好きだったんだ。それは翔が翔だったからだよ。翔は違うの?」

「違わないっ俺も彼方が彼方だから好きっ!彼方以外いらない!彼方がおじいちゃんでも赤ちゃんでも男でも女でも天使でも悪魔でもなんでもいい!ずっとずっと一緒にいたいっ!」

「ふふ。おじいちゃんっていうのはちょっとズキリとくるものがあるんだけど?」

と片目を瞑り苦笑を浮かべる。

「や、違うよ?彼方は恰好いい!それに可愛い!おじいちゃんというのはモノのたとえで……だからその、えっと――」

しどろもどろとそんな事を言って狼狽えていると、くすくすと彼方の楽しそうに笑う声が聞こえてきた。

あ!またやられた?
彼方は俺のどん底の気持ちを笑って引っ張り上げてくれた。
二次性なんて大した事じゃないって、俺は彼方が彼方だから好きで彼方も同じだって、彼方の柔らかな微笑みと笑い声がそう伝えてくれる。

まだキスしかした事ないし、Ω同士は本物の番にはなれないけど、それでも俺たちは確かに『番』なんだ。

俺の魂は彼方だけが欲しいって叫ぶんだ。
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