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もう少しだけ待っていて
5 番というもの(1)
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「翔、僕は怒っているんだよ?」
二次性判定の結果が出て、彼方にも誰にも相談する事もできないまま一ヶ月が過ぎていた。
あれからまた会えなくなっていたけど、この時ばかりはその事がありがたかった。会ってしまえばもう誤魔化しきれないと感じていたからだ。
案の定一ヶ月ぶりに俺の部屋を訪れた彼方は眉間に皺を寄せて開口一発そんな事を言った。
「――かな……た」
バクバクと心臓が波打つ。
やっぱりあの事がバレてしまったんだ。
騙されたって怒ってる?
もう俺の事なんかいらない……?
「――翔から他の人の匂いがする」
「――――え?」
思ってもみなかった彼方の言葉に俺はキョトンとなった。
匂い?
「ねっとりと纏わりつくような――嫌な匂いっ」
むぅと眉間に寄せた皺が一層深くなる。
俺は慌てて自分の服や腕をくんくんと嗅いでみた。
が、別に嫌な匂いなんてしない。匂うのは彼方の甘く優しい香りだけ。
俺は訳が分からなくて、懇願するように彼方を見つめた。
怒らないで。捨てないで――。
「最近の翔は通話してても上の空な事が多いよね。メッセージだって「うん」とか「ああ」とかそんなのばっかり。ねぇ、浮気してるの?もう僕の事なんていらない?」
「浮気なんてっ絶対にしない!彼方をいらないなんて事もないっ!!」
俺は食い気味に必死にそう叫んだ。
浮気だなんてそんな事、絶対にありえない。
俺は彼方の事だけが好きで、彼方だけが欲しいんだ。
彼方、彼方、俺を疑わないで?
俺の事を信じて?
と、彼方に縋ろうと伸ばした手を途中で止める。
――あの事を言えない俺に信じてなんて、そんな事を言う資格なんてない――。
「違う……違うんだ――」
俯きそう繰り返し呟く事しかできなかった。
しばらくして俺の頭上から聞こえた彼方のフッと息を吐く音。俺は恐る恐る顔を上げ彼方の事を見つめた。眉間に寄っていた皺はなく、いつものような優しく温かな笑顔がそこにはあった。
「翔、何かに悩んでいるんでしょう?翔が本当に浮気もしていなくて僕の事がいらないんじゃなかったら、ちゃんと教えて?」
「――っ!」
ああ……そういう事か。
さっきのは彼方が一芝居打ったんだ。
直接会わなくたっていくら取り繕ってみたって、俺が何かに悩んでいる事は彼方にはバレバレだったって事か――。多分ずっと俺が言い出すのを待っていてくれてた。だけどなかなか言い出せない俺にきっかけをくれたんだ。
――はぁ……彼方には敵わない……。
俺は覚悟を決める事にした。
いずれは言うつもりはあった。
だけど、彼方がきっかけをくれなかったら一生言えなかったかもしれない。
俺は彼方の気持ちに応えたい。だからちゃんと言わなくては――。
机の引き出しの奥の奥に仕舞い込んだぐちゃぐちゃに丸められた紙を丁寧に広げて彼方の前に置いた。
俺の手は震えていた。いや、手だけじゃない、全身が怖くて怖くて震えてしまっていた。
彼方は一度俺の顔を見て、それからその紙を手に取ると息を飲んだのが分かった。
その紙の表には『二次性判定結果報告書』と書かれていて、中を開けると大きく『Ω』と書かれていた。
俺は自分がΩである事を彼方に知らせる覚悟はできたけど、彼方と別れる覚悟はできていない。いや、そんな覚悟どれだけ時間が経ったってできるはずがなかった。
俺は俯き、震える両手を握りしめて彼方からの死刑宣告を待った。
二次性判定の結果が出て、彼方にも誰にも相談する事もできないまま一ヶ月が過ぎていた。
あれからまた会えなくなっていたけど、この時ばかりはその事がありがたかった。会ってしまえばもう誤魔化しきれないと感じていたからだ。
案の定一ヶ月ぶりに俺の部屋を訪れた彼方は眉間に皺を寄せて開口一発そんな事を言った。
「――かな……た」
バクバクと心臓が波打つ。
やっぱりあの事がバレてしまったんだ。
騙されたって怒ってる?
もう俺の事なんかいらない……?
「――翔から他の人の匂いがする」
「――――え?」
思ってもみなかった彼方の言葉に俺はキョトンとなった。
匂い?
「ねっとりと纏わりつくような――嫌な匂いっ」
むぅと眉間に寄せた皺が一層深くなる。
俺は慌てて自分の服や腕をくんくんと嗅いでみた。
が、別に嫌な匂いなんてしない。匂うのは彼方の甘く優しい香りだけ。
俺は訳が分からなくて、懇願するように彼方を見つめた。
怒らないで。捨てないで――。
「最近の翔は通話してても上の空な事が多いよね。メッセージだって「うん」とか「ああ」とかそんなのばっかり。ねぇ、浮気してるの?もう僕の事なんていらない?」
「浮気なんてっ絶対にしない!彼方をいらないなんて事もないっ!!」
俺は食い気味に必死にそう叫んだ。
浮気だなんてそんな事、絶対にありえない。
俺は彼方の事だけが好きで、彼方だけが欲しいんだ。
彼方、彼方、俺を疑わないで?
俺の事を信じて?
と、彼方に縋ろうと伸ばした手を途中で止める。
――あの事を言えない俺に信じてなんて、そんな事を言う資格なんてない――。
「違う……違うんだ――」
俯きそう繰り返し呟く事しかできなかった。
しばらくして俺の頭上から聞こえた彼方のフッと息を吐く音。俺は恐る恐る顔を上げ彼方の事を見つめた。眉間に寄っていた皺はなく、いつものような優しく温かな笑顔がそこにはあった。
「翔、何かに悩んでいるんでしょう?翔が本当に浮気もしていなくて僕の事がいらないんじゃなかったら、ちゃんと教えて?」
「――っ!」
ああ……そういう事か。
さっきのは彼方が一芝居打ったんだ。
直接会わなくたっていくら取り繕ってみたって、俺が何かに悩んでいる事は彼方にはバレバレだったって事か――。多分ずっと俺が言い出すのを待っていてくれてた。だけどなかなか言い出せない俺にきっかけをくれたんだ。
――はぁ……彼方には敵わない……。
俺は覚悟を決める事にした。
いずれは言うつもりはあった。
だけど、彼方がきっかけをくれなかったら一生言えなかったかもしれない。
俺は彼方の気持ちに応えたい。だからちゃんと言わなくては――。
机の引き出しの奥の奥に仕舞い込んだぐちゃぐちゃに丸められた紙を丁寧に広げて彼方の前に置いた。
俺の手は震えていた。いや、手だけじゃない、全身が怖くて怖くて震えてしまっていた。
彼方は一度俺の顔を見て、それからその紙を手に取ると息を飲んだのが分かった。
その紙の表には『二次性判定結果報告書』と書かれていて、中を開けると大きく『Ω』と書かれていた。
俺は自分がΩである事を彼方に知らせる覚悟はできたけど、彼方と別れる覚悟はできていない。いや、そんな覚悟どれだけ時間が経ったってできるはずがなかった。
俺は俯き、震える両手を握りしめて彼方からの死刑宣告を待った。
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