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もう少しだけ待っていて
4 Kakeruの心
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僕には好きな人がいる。もうずっとその人の事を想い続けている。
大勢の中であっても彼の事をすぐに見つけられた。
遠くにいても香ってくる涼やかな彼の香り。
まだ二次性なんて芽生えてもいない頃、彼の香りを確かに感じた。
彼をただ見つめているだけで僕の芯がじんわりと温かくなるんだ。
僕を造るすべての細胞が彼を認め、喜び震えていた。
初めて彼に会ったあの日、僕は彼に『運命』を感じた。
*****
僕の家はα至上主義の旧家で、家族はみんなαだった。
使用人も全てαで、βやΩなんてひとりもいない。
出入りの業者にいたるまでαなのだ。
我が家にΩが立ち入る事は許されなかった。
だから僕にとって『Ω』とは別世界の生き物で、『α』に比べるのもおこがましいくらい下等な生き物で、神が創り給うた失敗作という認識だった。
僕は大きくなるにつれ何かしら違和感を感じる事が多くなっていた。
みんなが簡単にできる事が僕には難しかった。
立派な体躯の両親や兄たちに比べて僕は小さなままだった。
みんなが自信に溢れた顔をしているのに僕はいつも自信なさげに俯いていた。
聞えよがしに囁く使用人たちの声――。
物心ついた頃からいつもどこか――心の、身体の、頭の……どこかが少しずつ空虚で、何かを必死に求めていた。
僕はみんなとは違う。
僕は失敗作なんだ。
失敗作だと分かったら僕はどこかへ廃棄されてしまう。
隠さなきゃ。隠さなきゃ。隠さなきゃ。
そんな恐怖が僕の中の埋まらない穴を増やしていった。
どんどん、どんどん――。
――そんな時だった。
小学校の入学式、彼を初めて見つけた。
熊のように大きな人と王子さまのように華やかな人に連れられて彼はいた。
小さくても凛々しくて、彼の周りだけがキラキラと輝いて見えた。
僕を照らす光に見えた。
彼の名前は『オイカワ カケル』僕と同じ名前の王子さま。
その事を知った僕は、嬉しくて嬉しくて涙が零れた。
僕は彼、彼は僕。僕と彼は同じ魂。
僕と彼は『運命』なんだ。
僕の中の無数に開いた穴が少しずつ埋まっていくのを感じた。
僕の心はすぐに彼でいっぱいになった。
*****
翔くんの事を知っていくと、年上の婚約者がいるという事が分かった。
18歳も年上の身の程知らずのΩ。翔くんがお母さんのお腹にいる頃から決まっていたらしい。翔くんの家も大きな財閥だし、こんなの『政略結婚』としか考えられなかった。
翔くんの運命は僕なのに、こんなの許されるわけがない。
許しちゃいけない。
僕は多分Ωだ。この家に生まれるはずのないΩ――。
そして翔くんはαだ。ひと目見た時から本能がそう教えてくれた。
来週行われる二次性判定で僕たちの結果をうまくすり替える事ができたなら――全てが本来の形になる。
翔くんと年上Ωとの婚約は破棄され、僕が翔くんの婚約者になるんだ。
そしてさっさと番ってしまえば――あとはバレたとしても何の問題もない。
僕たちは運命だから、僕と番えて翔くんもきっと喜んでくれる。
大丈夫だよ翔くん。もう少しだけ待っていてね。きっと助けてあげるから。
さて、どうやって翔くんと僕の結果を入れ替えようか――?
僕と翔くんとの明るい未来を思うと、ふふふふふと心の底から楽しくて笑い声が漏れた。
大勢の中であっても彼の事をすぐに見つけられた。
遠くにいても香ってくる涼やかな彼の香り。
まだ二次性なんて芽生えてもいない頃、彼の香りを確かに感じた。
彼をただ見つめているだけで僕の芯がじんわりと温かくなるんだ。
僕を造るすべての細胞が彼を認め、喜び震えていた。
初めて彼に会ったあの日、僕は彼に『運命』を感じた。
*****
僕の家はα至上主義の旧家で、家族はみんなαだった。
使用人も全てαで、βやΩなんてひとりもいない。
出入りの業者にいたるまでαなのだ。
我が家にΩが立ち入る事は許されなかった。
だから僕にとって『Ω』とは別世界の生き物で、『α』に比べるのもおこがましいくらい下等な生き物で、神が創り給うた失敗作という認識だった。
僕は大きくなるにつれ何かしら違和感を感じる事が多くなっていた。
みんなが簡単にできる事が僕には難しかった。
立派な体躯の両親や兄たちに比べて僕は小さなままだった。
みんなが自信に溢れた顔をしているのに僕はいつも自信なさげに俯いていた。
聞えよがしに囁く使用人たちの声――。
物心ついた頃からいつもどこか――心の、身体の、頭の……どこかが少しずつ空虚で、何かを必死に求めていた。
僕はみんなとは違う。
僕は失敗作なんだ。
失敗作だと分かったら僕はどこかへ廃棄されてしまう。
隠さなきゃ。隠さなきゃ。隠さなきゃ。
そんな恐怖が僕の中の埋まらない穴を増やしていった。
どんどん、どんどん――。
――そんな時だった。
小学校の入学式、彼を初めて見つけた。
熊のように大きな人と王子さまのように華やかな人に連れられて彼はいた。
小さくても凛々しくて、彼の周りだけがキラキラと輝いて見えた。
僕を照らす光に見えた。
彼の名前は『オイカワ カケル』僕と同じ名前の王子さま。
その事を知った僕は、嬉しくて嬉しくて涙が零れた。
僕は彼、彼は僕。僕と彼は同じ魂。
僕と彼は『運命』なんだ。
僕の中の無数に開いた穴が少しずつ埋まっていくのを感じた。
僕の心はすぐに彼でいっぱいになった。
*****
翔くんの事を知っていくと、年上の婚約者がいるという事が分かった。
18歳も年上の身の程知らずのΩ。翔くんがお母さんのお腹にいる頃から決まっていたらしい。翔くんの家も大きな財閥だし、こんなの『政略結婚』としか考えられなかった。
翔くんの運命は僕なのに、こんなの許されるわけがない。
許しちゃいけない。
僕は多分Ωだ。この家に生まれるはずのないΩ――。
そして翔くんはαだ。ひと目見た時から本能がそう教えてくれた。
来週行われる二次性判定で僕たちの結果をうまくすり替える事ができたなら――全てが本来の形になる。
翔くんと年上Ωとの婚約は破棄され、僕が翔くんの婚約者になるんだ。
そしてさっさと番ってしまえば――あとはバレたとしても何の問題もない。
僕たちは運命だから、僕と番えて翔くんもきっと喜んでくれる。
大丈夫だよ翔くん。もう少しだけ待っていてね。きっと助けてあげるから。
さて、どうやって翔くんと僕の結果を入れ替えようか――?
僕と翔くんとの明るい未来を思うと、ふふふふふと心の底から楽しくて笑い声が漏れた。
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