俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

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もう少しだけ待っていて

3 Kakeru Oikawa 老川駆

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カケー聞いたか?」

と、声をかけてきたのは笹山 進ささやま すすむだ。幼稚園からの腐れ縁で、気の置けない友人のひとりだ。こっそりと教えてくれた二次性は『β』だった。

「何を?」

「もうひとりのおいかわαだったらしいぞ」

進の言葉にギクリとなった。何の裏もない悪気のない言葉だけど、今の俺には一番堪える。
俺は自分の二次性判定の結果を誰にも教えていなかったけど、進は俺がαだとハナから決めつけていて可能性なんて少しも考えていないようだった。自分の性を俺に教えた時も俺の事は訊かなかった。
元々こういった事が話題に上る事自体おかしな事なのだが、進と俺の仲だから言えたのだろう。

『もうひとりのおいかわ』というのは老川 駆おいかわ かける老人の老に三本線の川、駆動の駆で漢字違いの読み方だけの同姓同名。

進の話によると、老川の家は代々αが当主を務める由緒正しい家柄で、生まれる子どもは全てがαのα至上主義が色濃く残る家らしい。
俺の家も財閥で由緒正しい家柄ではあるけど、父さんはあの通りΩの母さんの事をものすごく愛してるから性差別をするような人間は周りにはいないし、いる事は許さない。会社でも性差別をする事なく皆がで、性に関係なく安心して働ける誰にとってもいい職場だという話だ。
何で俺が会社の事を知っているかというと、父さんの秘書の平岡ひらおかさんがうちに遊びに来てお酒が入るとよく自慢するんだ。
前会長であるおじいちゃんも性差別をするような人じゃないから、表面上は何の問題もなく見えていたけど裏では色々とあったらしい。それを知った父さんが立ち上がって、父さんの考えに賛同した人たちとみんなで力を合わせて頑張ったんだって。俺が「父さんすごい!」って言うと「父さんひとりの力じゃない」っていつも言うけど、それでも俺は父さんがいなかったら成し得なかった事だと思うから。
俺はそんな父さんの事を尊敬しているんだ。

兄ちゃんは早々に家を出て番のりつさんと喫茶店を営んでいるから俺が跡を継ぐつもりだったんだけど、父さんも母さんも俺の好きにしていいって言うんだ。でも俺は義務とかそんなんじゃなくて、父さんの事を尊敬しているし父さんたちが作り上げた優しい場所を守っていきたいって思ったから、跡を継ぎたいって――――思っていたんだけどなぁ……。

と、そんな事を考えていたら進がケタケタと笑い揶揄ってきた。

「『オイカワカケル』って名前はα特有の名前かなんかか?顔もイケメンだしスタイルもいいし頭もいいとかさ……なんかすげーな?」

いつもなら俺もニヤリと笑って、「進も〇ン・オイカワカケルにでもなるか?流行りだろ?」くらい言っているところだけど、今は曖昧に笑って見せる事しかできなかった。



*****
進の話によれば老川とは小中と同じ学校だったようだけど、同じクラスになるのは今回が初めてだった。
読み方が同じ人物が同じクラスにいるのはとても紛らわしいから、いつもは意図的に別のクラスにされていたらしい。
それが何故今回は同じクラスになったのか――。
まぁ、だからなんだって話でもなく、俺はやっぱり「ふーん」って思っただけだった。
老川の存在も同じクラスになるまで知らなかったし、話を聞いてもさほど興味も持てなかった。

老川の方も別に俺に対して興味があるようには見えなかったし、これからも俺たちの関係がクラスメイト以上に変わる事なんてないと思っていた。

ただ、クラスメイト(主に女子)はWだぶるオイカワだとか翔x駆かけかけなどと面白がって呼んでいて、他にも『爽やか王子』?『アンニュイ王子』?
何が面白いのか全く分からない。
老川も迷惑だろうとちらりと窺えば、丁度老川もこちらを見ていたようでパチッと視線が合って、すっと視線を逸らされた。
心なしか老川の耳が赤く染まっているように見えたけど、きっと気のせいだろうと思った。

だってそんな風になる理由が俺には分からなかったから。

だから後に老川が俺の事を『カケ』と呼び、自分の事を『カル』と呼ばせる事になっても俺にはさして重要な事ではなかった。
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