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もう少しだけ待っていて
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俺にとっての彼方は唯一無二の存在だ。
物心つく前からずっと傍にいてくれた人。
いつもにこにこと笑っていて、優しく抱っこしてくれた人。
俺は首も座らない頃からそんな彼方の事を目で追っていたそうだ。
世界で一番愛しい人。
両親や兄ちゃんの事も勿論愛しているが、それとは違う。
多分父さんと母さんがお互いを想う気持ちと、兄ちゃんと律さんがお互いを想う気持ちと同じ。俺は彼方の事を最初からずっと同じ気持ちで想っていた。
14年間傍にいて、彼方が泣いたり怒ったりしたところを殆ど見た事がなかった。いつもいつも彼方は幸せそうに笑っていた。この笑顔を守りたいって幼心によく思ったものだ。何度か失敗して泣かせてしまったけど……。
それでも俺たちは『運命』だから大丈夫だって心の奥底では思っていたんだ。どんな事があっても彼方は俺の元を去る事はないって――。
俺は本当に彼方の事が大好きだ。
この気持ちに嘘はないし、疑問に思った事もない。
彼方への『想い』は俺を構成するひとつ――いや、彼方を思わない俺は俺ではないと言い切れる程、彼方は俺の全てだった。
たった14年しか生きていないのに何を――と言われるかもしれない。
他の人から見たらきっととてもおかしな事なんだ。
でも、そうなんだからそうだとしか言えない。
だけど――と、気持ちがぐるぐると出口を求めて彷徨い始める。
家に帰り自分の部屋に入ってもずっとこんな調子だ。
今の俺には何の『保証』も『安心』もなかった。
俺は彼方との繋がりを失ってしまうかもしれない。
いや、元々繋がりなんてなかったんだ――。
あの事が俺の心に重くのしかかる。
会いたくて会いたくて堪らない。
愛しくて愛しくて堪らない。
この想いが間違いだなんて事絶対にないのに――。
俺はベッドの上で胎児のように背中を丸め、彼方が家に来てくれるのを待った。
他の情報で頭を占めたくなくて、全てから自分を守るようにゆっくりと目を閉じた。ただ彼方だけに浸っていたかった。
*****
「コンコン」と控え目にドアがノックされた。
彼方だ。
俺は急いでドアを開け愛しい存在を自分の部屋に招き入れ、すぐさま抱きしめた。
いつにも増して性急な俺に彼方は驚き、目をパチクリさせている。
だけど逃げたりはしない。そんな些細な事が嬉しくて堪らない。
肌に感じる愛しい人の温もりが、寒さに震える心を温めていく。
「どうしたの?何かあった?今日は甘えたさんだね?」
少しおかしそうにくすくすと笑いながら言う彼方の声にびくりと肩が震える。
「こんな俺は、嫌い?」
お願い。否定しないで?
お願い。俺を受け入れて?
お願い。お願い。
――――どんな俺でも、拒まないで?
「馬鹿だなぁそんな顔して。どんな翔も大好きだよ。だからそんな顔しないで?」
彼方は微笑みながらそっと俺の頬を親指の腹で撫でた。
そして、「泣かないで」と囁いて目元にその柔らかな唇を寄せた。
俺は泣いていたのか。
言われて初めて自分が涙を流していた事に気がついた。
苦しく切ない気持ちがぽろぽろと零れていく。
あの事を彼方に言ってしまおうか――。
むしろ言わなくてはいけない事だ。
だけどやっぱり言うのが怖い。
――――彼方を失うのが怖いんだ。
いつかは言わなくてはと思うけど、今はまだ……もう少しだけ。
俺を捨てないでという気持ちを込めて彼方をもう一度だけ強く抱きしめた。
ふわりと香る彼方の優しい香りを胸いっぱいに吸い込む。
――これ以上はダメだ。彼方がおかしく思う。
「さっき……彼方を待ってる時、怖い夢を見たんだ。だからこんな……恥ずかしいな――へへ」
そう言って笑って見せた。
本当に全部が『悪い夢』だったらよかったのに。
どんなに今がつらくても『夢』であったなら、いつかは必ず醒める時がくるのだから――。
物心つく前からずっと傍にいてくれた人。
いつもにこにこと笑っていて、優しく抱っこしてくれた人。
俺は首も座らない頃からそんな彼方の事を目で追っていたそうだ。
世界で一番愛しい人。
両親や兄ちゃんの事も勿論愛しているが、それとは違う。
多分父さんと母さんがお互いを想う気持ちと、兄ちゃんと律さんがお互いを想う気持ちと同じ。俺は彼方の事を最初からずっと同じ気持ちで想っていた。
14年間傍にいて、彼方が泣いたり怒ったりしたところを殆ど見た事がなかった。いつもいつも彼方は幸せそうに笑っていた。この笑顔を守りたいって幼心によく思ったものだ。何度か失敗して泣かせてしまったけど……。
それでも俺たちは『運命』だから大丈夫だって心の奥底では思っていたんだ。どんな事があっても彼方は俺の元を去る事はないって――。
俺は本当に彼方の事が大好きだ。
この気持ちに嘘はないし、疑問に思った事もない。
彼方への『想い』は俺を構成するひとつ――いや、彼方を思わない俺は俺ではないと言い切れる程、彼方は俺の全てだった。
たった14年しか生きていないのに何を――と言われるかもしれない。
他の人から見たらきっととてもおかしな事なんだ。
でも、そうなんだからそうだとしか言えない。
だけど――と、気持ちがぐるぐると出口を求めて彷徨い始める。
家に帰り自分の部屋に入ってもずっとこんな調子だ。
今の俺には何の『保証』も『安心』もなかった。
俺は彼方との繋がりを失ってしまうかもしれない。
いや、元々繋がりなんてなかったんだ――。
あの事が俺の心に重くのしかかる。
会いたくて会いたくて堪らない。
愛しくて愛しくて堪らない。
この想いが間違いだなんて事絶対にないのに――。
俺はベッドの上で胎児のように背中を丸め、彼方が家に来てくれるのを待った。
他の情報で頭を占めたくなくて、全てから自分を守るようにゆっくりと目を閉じた。ただ彼方だけに浸っていたかった。
*****
「コンコン」と控え目にドアがノックされた。
彼方だ。
俺は急いでドアを開け愛しい存在を自分の部屋に招き入れ、すぐさま抱きしめた。
いつにも増して性急な俺に彼方は驚き、目をパチクリさせている。
だけど逃げたりはしない。そんな些細な事が嬉しくて堪らない。
肌に感じる愛しい人の温もりが、寒さに震える心を温めていく。
「どうしたの?何かあった?今日は甘えたさんだね?」
少しおかしそうにくすくすと笑いながら言う彼方の声にびくりと肩が震える。
「こんな俺は、嫌い?」
お願い。否定しないで?
お願い。俺を受け入れて?
お願い。お願い。
――――どんな俺でも、拒まないで?
「馬鹿だなぁそんな顔して。どんな翔も大好きだよ。だからそんな顔しないで?」
彼方は微笑みながらそっと俺の頬を親指の腹で撫でた。
そして、「泣かないで」と囁いて目元にその柔らかな唇を寄せた。
俺は泣いていたのか。
言われて初めて自分が涙を流していた事に気がついた。
苦しく切ない気持ちがぽろぽろと零れていく。
あの事を彼方に言ってしまおうか――。
むしろ言わなくてはいけない事だ。
だけどやっぱり言うのが怖い。
――――彼方を失うのが怖いんだ。
いつかは言わなくてはと思うけど、今はまだ……もう少しだけ。
俺を捨てないでという気持ちを込めて彼方をもう一度だけ強く抱きしめた。
ふわりと香る彼方の優しい香りを胸いっぱいに吸い込む。
――これ以上はダメだ。彼方がおかしく思う。
「さっき……彼方を待ってる時、怖い夢を見たんだ。だからこんな……恥ずかしいな――へへ」
そう言って笑って見せた。
本当に全部が『悪い夢』だったらよかったのに。
どんなに今がつらくても『夢』であったなら、いつかは必ず醒める時がくるのだから――。
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