俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

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もう少しだけ待っていて

1 二次性判定(1)

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この世界には男女の他にα、β、Ωという二次性があり、合わせて6つの性が存在していた。
αは全てにおいて優秀であり、人々の頂点に立つ導き支配する者。
βは一般人で、人口も一番多く毒にも薬にもならない者たち。
Ωはαとのような存在で庇護対象であるが、その性が持つ特異性がゆえに軽視され、性被害にあう者も多かった。本人の意思など関係なく発情期ヒートがくればその発情フェロモンで誰かれ構わず誘ってしまうからだ。
それを防ぐ為の『抑制剤』であり『ネックガード』なのだが、自分の性を知らなければ前もって準備する事も出来ない。
そんな訳で、自覚自衛を促す目的もあって二次性が安定する14歳になると『二次性判定』を全ての国民が受ける事が義務付けられていた。
この物語の主人公である及川 翔おいかわ かけるもまた例外ではなく、14歳になった今年二次性判定を受けていた。


翔の魂の番運命である一条 彼方いちじょう かなたはΩであり、過去に性被害にあう寸前までいった事があった。4年前の翔との行き違いで複数のαに囲まれたアレの事だ。あの時彼方はヒート中ではなかった。
一部のαにとってヒートであってもなくてもそんな事はあまり関係がないのだ。いくら時代が変わったと言っても、Ωに対する偏見や差別は未だ無くなっていない。
しかし、世界から見ればそれはとても獣じみた行為であり、低俗で恥ずべきものだとされた。
よって先に述べた理由よりも国としては対外的なイメージの問題もあり、αやβ、Ωは等しく国民であり等しく保護される対象であるという事を示さねばならず、国家による最も重要な事業として二次性判定を行い、その判定結果は最高機密事項として扱われた。判定結果をという事だ。
そして二次性に関する犯罪は一般の犯罪よりも重罪とした。
それが一番分かりやすかったからだ。
その事もあって人々の間でも、表立って他者に二次性を聞く事はタブーとされた。『国が守るモノに悪戯に触れてはいけない』そんな間違った考えが広がっていった。
いくらそんな事をしても全てが平等になる事もΩが性被害にあうのを完全に防ぐ事もできないのだが、世の中のを作っているのはΩではなくαなのだ。
だからまぁ、本当の意味での平等や保護なんてものはどんなに綺麗に描いても『ただの絵』に過ぎないのかもしれない。それでも昔に比べるとはるかにマシになってきている事は間違いなかった。



*****
今日は彼方と数ヶ月ぶりに会う約束をしていた。
勿論通話やメッセージのやり取りなどは毎日行っていた。
だけど、実際会うのとは違う。
文字や音では彼方の持つ温度を伝える事はできない。
本当は毎日だって会いたいし、いつも一緒にいたい。
だけど彼方は社会人で、学生である俺とでは取れる時間が違う。彼方の仕事が忙しい時期は滅多に会う事ができないし、俺が試験の前もそうだ。
彼方と俺とのどうする事もできない『差』がどうしようもなくもどかしい。

誰と何をしていたって、いつも想うのは彼方の事だけ。
俺はまだ中学生の子どもで、嫌になるくらい子どもで――――。
彼方は俺との年齢差を気にしているようだけど、本気で気にしなくちゃいけないのは俺の方なんだ。
彼方は大人で、優しくて恰好よくて綺麗で――俺には勿体ないくらいの人だ。
いつかどこかの立派なαに彼方を盗られてしまうんじゃないかって――いつも不安で不安で仕方がない。
だからもっと会いたいとかそんな我儘、子どもっぽくて言えやしないんだ。

それに――、と4年前の事を思い眉間に深い皺が寄る。
10歳の時俺が子どもっぽく拗ねたせいで彼方を危険な目にあわせてしまった。
俺じゃないαたちが彼方を取り囲んでるのを見た瞬間の……あの、あの恐怖、怒り、痛み。4年経った今も忘れられないでいる。
俺は彼方を失ってしまったら生きてなんかいられない。

俺は手の中の『二次性判定結果報告書』と書かれた紙をぐしゃりと握りつぶした。

俺の運命である彼方はΩだ。だから俺はαであるはずなんだ。
αじゃなくちゃいけない。それ以外なんてあり得ないんだ。

だって俺たちは運命なのだから――――『対』であるはず。

その事だけが俺が彼方を繋ぎとめられている理由なんだから――。


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