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僕のかわいいこぐまさま
(2)
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「おにーさん、おにーさんΩでしょう?俺たちと遊ばない?」
ぼーっとして歩いていたから、いつの間にかαらしき男たちに囲まれている事に気が付かなかった。
しまった!と思った時にはもう遅くて、僕は男の一人に腕を掴まれて路地裏に引っ張り込まれていた。
「や、やだっ!離してっ!!」
「大人しくしろっ!」
騒ぐ僕の頬を男の大きな手が打った。
パシンと乾いた音が響いて頬に受けた痛みに頭が真っ白になる。
地面に引き倒され、男たちの手が僕に伸びてくる。
やだっ!翔っ翔っ翔――っ!!
恐怖と嫌悪感で動けず、心の中で翔の名前を呼ぶ事しかできなかった。
昔誰の事も好きになれなかった時、こんな未来も想像したけど今の僕には翔が居る。
翔以外の誰にもこの身体に触れて欲しくないっ。
男たちの手が僕の肩と脚を押さえて――――。
「ひぐ……」
「おまわりさん!こっちです!早く来て下さいっ!!」
もうダメなんだと諦めかけた時、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
するとすぐに僕を拘束する手が無くなり、男たちは舌打ちをして走って逃げて行った。
助かった……?そう思ったのにすぐに誰かに抱きしめられ僕はいきなりスイッチが入ったおもちゃのように暴れだした。
逃げないと!翔じゃなきゃ嫌なんだ!僕は僕は翔だけが――っ!
どれだけ暴れてもその腕から逃げる事ができなくて、それでも逃げる事以外考えられなかった。
怖いっ!嫌っ!助けて!助けてっ翔っ!!
「バカっ彼方気づけよっ!」
その声で初めて僕を抱きしめる温もりが誰なのか気が付いた。恐怖で冷たくなっていた身体が温められていく。
「――――かけ、る……?」
「俺が……俺が抱きしめてるのに逃げようとするなよっ」
くしゃりと歪む翔の顔。
「だって、僕、僕……あいつらに――。僕翔じゃなきゃ嫌、だったから……逃げなきゃって――」
「あいつらなら俺が追っ払ったから。――黙って俺に抱かれてろ」
そう言う翔の身体も少し震えていた。それでやっと助かったのだと実感できた。
「ふぇ……翔、翔っこわ……怖かった……っひぅ……」
小さな翔の胸に縋って泣いた。
僕の愛しい番。僕も抱きしめるからもっと強く、強く抱きしめて?
*****
泣いて泣いて、やっと落ち着いたところで翔と一緒に奏の店兼自宅へと戻った。
泣き腫らした顔とまだ襲われた恐怖が抜けきれない事からそのまま帰るのは憚られたのだ。
服装の乱れはなかったものの服についた汚れと僕の泣き腫らした顔と、翔としっかりと繋がれた手を見た奏は瞬時に状況を理解したのか、すぐに律さんに僕たちを自宅へと連れて行くように言うと、まだ営業時間中だったのにも関わらず早々に店を閉めてしまった。
温かい淹れたてのコーヒーを僕の前に置くと、さっきあった事を聞いた奏は翔の事をギロリと睨んだ。
「俺はお前が悪いと思うぞ。翔」
「だって……兄ちゃん――」
「言い訳はみっともない。お前が番を放っておくから彼方が不安になって隙を見せてしまったんだぞ。彼方は本来しっかりしててそんな連中に囲まれる前にうまく切り抜けられる。あんなに生まれる前は執着してたくせに、今はなんなんだ」
静かだけど、本気で怒っている奏の声。
兄として先輩αとして未熟な弟へ教育を施しているのだろう。
いつもはほんわりしてる奏もこういう一面がある事に驚く。
「――だから……っ!それが嫌なんだよっ!!生まれる前の事なんか俺は知らない!彼方は俺の番なのに俺の知らないヤツにうっとりしてたとか――ムカつく!!」
翔はそう叫ぶとぷにぷにの頬をぷぅと膨らませた。
――え?
「は?お前それで拗ねてたのか?知らないヤツって――お前だぞ?」
「俺はっ俺はまだ子どもだからっ彼方を守れない……っ。だから頑張って大人になろうとしてるのに……彼方は昔の……俺の知らないヤツの事ばっかりっ!そんなヤツの話なんかしないでよっ!今ここに居る俺の事を見てよ!!」
そう叫ぶとわんわん声をあげて泣きだしてしまった。
僕も堪らなくなって翔を抱きしめて一緒にわんわん泣いた。
いつからだっただろう、翔が自分の事を『僕』から『俺』と言うようになったのは。
いつからだっただろう、僕と並んで道を歩く時縁石の上をわざわざ歩くようになったのは。
いつからだっただろう、コーヒーにお砂糖を入れるのを止めたのは――――。
普段の言動から大人な気がしてたけど、それは翔が頑張って背伸びしてただけでまだほんの10歳の子どもだったのに、僕はそんな事も忘れて――焦って、翔を追い詰めてた――。
ごめんね翔。ゆっくり大人になっていいんだよ。
僕はこの10年を長いとは思ってないよ。これから先の10年だって同じ。
キミの成長を傍で見守りながらずっと幸せだった。
キミと居るといつだってなんだって幸せなんだ。
そんな事も忘れて僕は――。
翔、大好きだよ。ゆっくり一緒に大人になろう。
可愛い可愛い僕の運命。
-おわり-
ぼーっとして歩いていたから、いつの間にかαらしき男たちに囲まれている事に気が付かなかった。
しまった!と思った時にはもう遅くて、僕は男の一人に腕を掴まれて路地裏に引っ張り込まれていた。
「や、やだっ!離してっ!!」
「大人しくしろっ!」
騒ぐ僕の頬を男の大きな手が打った。
パシンと乾いた音が響いて頬に受けた痛みに頭が真っ白になる。
地面に引き倒され、男たちの手が僕に伸びてくる。
やだっ!翔っ翔っ翔――っ!!
恐怖と嫌悪感で動けず、心の中で翔の名前を呼ぶ事しかできなかった。
昔誰の事も好きになれなかった時、こんな未来も想像したけど今の僕には翔が居る。
翔以外の誰にもこの身体に触れて欲しくないっ。
男たちの手が僕の肩と脚を押さえて――――。
「ひぐ……」
「おまわりさん!こっちです!早く来て下さいっ!!」
もうダメなんだと諦めかけた時、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
するとすぐに僕を拘束する手が無くなり、男たちは舌打ちをして走って逃げて行った。
助かった……?そう思ったのにすぐに誰かに抱きしめられ僕はいきなりスイッチが入ったおもちゃのように暴れだした。
逃げないと!翔じゃなきゃ嫌なんだ!僕は僕は翔だけが――っ!
どれだけ暴れてもその腕から逃げる事ができなくて、それでも逃げる事以外考えられなかった。
怖いっ!嫌っ!助けて!助けてっ翔っ!!
「バカっ彼方気づけよっ!」
その声で初めて僕を抱きしめる温もりが誰なのか気が付いた。恐怖で冷たくなっていた身体が温められていく。
「――――かけ、る……?」
「俺が……俺が抱きしめてるのに逃げようとするなよっ」
くしゃりと歪む翔の顔。
「だって、僕、僕……あいつらに――。僕翔じゃなきゃ嫌、だったから……逃げなきゃって――」
「あいつらなら俺が追っ払ったから。――黙って俺に抱かれてろ」
そう言う翔の身体も少し震えていた。それでやっと助かったのだと実感できた。
「ふぇ……翔、翔っこわ……怖かった……っひぅ……」
小さな翔の胸に縋って泣いた。
僕の愛しい番。僕も抱きしめるからもっと強く、強く抱きしめて?
*****
泣いて泣いて、やっと落ち着いたところで翔と一緒に奏の店兼自宅へと戻った。
泣き腫らした顔とまだ襲われた恐怖が抜けきれない事からそのまま帰るのは憚られたのだ。
服装の乱れはなかったものの服についた汚れと僕の泣き腫らした顔と、翔としっかりと繋がれた手を見た奏は瞬時に状況を理解したのか、すぐに律さんに僕たちを自宅へと連れて行くように言うと、まだ営業時間中だったのにも関わらず早々に店を閉めてしまった。
温かい淹れたてのコーヒーを僕の前に置くと、さっきあった事を聞いた奏は翔の事をギロリと睨んだ。
「俺はお前が悪いと思うぞ。翔」
「だって……兄ちゃん――」
「言い訳はみっともない。お前が番を放っておくから彼方が不安になって隙を見せてしまったんだぞ。彼方は本来しっかりしててそんな連中に囲まれる前にうまく切り抜けられる。あんなに生まれる前は執着してたくせに、今はなんなんだ」
静かだけど、本気で怒っている奏の声。
兄として先輩αとして未熟な弟へ教育を施しているのだろう。
いつもはほんわりしてる奏もこういう一面がある事に驚く。
「――だから……っ!それが嫌なんだよっ!!生まれる前の事なんか俺は知らない!彼方は俺の番なのに俺の知らないヤツにうっとりしてたとか――ムカつく!!」
翔はそう叫ぶとぷにぷにの頬をぷぅと膨らませた。
――え?
「は?お前それで拗ねてたのか?知らないヤツって――お前だぞ?」
「俺はっ俺はまだ子どもだからっ彼方を守れない……っ。だから頑張って大人になろうとしてるのに……彼方は昔の……俺の知らないヤツの事ばっかりっ!そんなヤツの話なんかしないでよっ!今ここに居る俺の事を見てよ!!」
そう叫ぶとわんわん声をあげて泣きだしてしまった。
僕も堪らなくなって翔を抱きしめて一緒にわんわん泣いた。
いつからだっただろう、翔が自分の事を『僕』から『俺』と言うようになったのは。
いつからだっただろう、僕と並んで道を歩く時縁石の上をわざわざ歩くようになったのは。
いつからだっただろう、コーヒーにお砂糖を入れるのを止めたのは――――。
普段の言動から大人な気がしてたけど、それは翔が頑張って背伸びしてただけでまだほんの10歳の子どもだったのに、僕はそんな事も忘れて――焦って、翔を追い詰めてた――。
ごめんね翔。ゆっくり大人になっていいんだよ。
僕はこの10年を長いとは思ってないよ。これから先の10年だって同じ。
キミの成長を傍で見守りながらずっと幸せだった。
キミと居るといつだってなんだって幸せなんだ。
そんな事も忘れて僕は――。
翔、大好きだよ。ゆっくり一緒に大人になろう。
可愛い可愛い僕の運命。
-おわり-
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