俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
37 / 87
僕のかわいいこぐまさま

8 (3)

しおりを挟む
家に帰りつき母さんに支えられて自室に戻ったけど、僕の気持ちは沈んだままだった。

分からない。
いくら薫さんが逞しくてもΩはΩだ。しかも番持ちのΩなのだ――。
通常番持ちのΩにαであってもヒートにあてられる事なんて絶対にない。番ったΩのフェロモンは番のαにしか分からなくなるからだ。
薫さん自身に変化があったわけじゃない。ましてや僕はΩだ。億万分の一もありはしない。

薫さんとはそれこそ僕が生まれた時からの付き合いだし、今までだってあんな事一度もなかった。
それなのにどうして――――?
僕は薫さんに『運命』を感じてしまったんだ――。
反応したのが僕だったという事も僕の心に影を落とした――。


僕は確かにいつか愛し愛される相手と恋に落ちるって思ってた。多分それが運命の相手なんだって――。
だけどこんな落ち方……。薫さん相手に発情するなんて…………。こんなの僕が求めたものじゃない。
身の程を知らない事を願った僕への罰――?

どうしようもない失望感と背徳感に冷たかった身体から更に温度が失われていくようだった。
カタカタと震え続ける身体。

「彼方なぁ初めてのヒートや、びっくりしてもうた?」

傍にずっとついていてくれていた母さんが優しくそんな事を言った。

びっくりはした。だけどそれは初めてのヒートという事もあったけど、ヒートを起こしてしまった原因にびっくりしてしまったのだ。

「大丈夫やでぇ。Ωなら誰でも通る道やさかい。それになこれは好いた人と番になる為の準備や。色んな大変な事もあるけどな、みんな味方やで。彼方の事全力で守るし、安心してええんやで?」

「でも……でもっ!僕、僕は――っ」

「どないしたんや。ゆっくりでええよ?な、ゆっくりゆっくりや」

昔小さい頃にしてくれていた背中をトントンとされる。
それでも涙は止まらない。きっとこんな事を言ってしまえば母さんを困らせてしまう。
だけど、黙っている事もできなくて、

「僕っ薫さんに反応して……ヒート……っ」

母さんは一瞬びっくりした顔をしたけどすぐに優しく抱きしめてくれた。

「――難儀やなぁ……彼方も……遥も」

最後の方は聞き取れないくらい小さな声だったけど母さんの声がどこまでも優しくて、僕はただ泣き続ける事しかできなかった。



*****
ヒート自体はすぐに落ち着いたもののあれから一週間学校を休んだ。
その間色々な事を考えたけど、結局答えなんか出なかった。止めようと思っても薫さんへの想いを止める事ができないんだからどうしようもない。

僕は薫さんとどうこうなるつもりなんかまったくない。だけど僕はあの人を想うだけで胸が苦しくて、狂おしいほど愛おしい。
これが『恋』や『愛』だと言うなら僕はこんなものやっぱり要らないって思った。

「彼方、もう大丈夫なのか?」

といつもの調子で声をかけて来た奏。
その顔を見て少し安心した。
気づかれていない。
いくらなんでも自分の母親に欲情するヤツなんて気持ち悪いだけだ。
流石の奏もその事を知ってしまったら軽蔑されてしまう……。

その事を考えてくしゃりと顔を歪めたが、それを奏に見られないように俯いて一度だけ息を吐く。

自分の気持ちにしっかりと蓋をして、二度と開けてはいけない。『できない』じゃなくて『やる』んだ。

「うん。大丈夫。迷惑かけてごめん」

そう言って少しだけ微笑んで見せた。

「それはいいよ。心配はしたけど迷惑だなんて思ってない。それと、母さんが彼方が落ち着いてるようだったらうちに連れて来てって」

「――――え?」

奏の言葉に冷水を頭から浴びせられた気がした。
なんで?近づかなければ、僕が我慢すれば……って思ってたのに。カタリと蓋が開く音がする。

「なんかさ、大事な話があるんだって。だから大丈夫そうだったら必ず来てって」

「そう……。分かった――」

自分の気持ちに蓋をしたはずなのに、来てと言われたら拒めない。
会いたいって思ってしまうんだ。

――――これが『恋』?

これじゃあまるで呪いじゃないか……。

こんなの知りたくなかった――。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。 引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。 二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に 転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。 初のアルファの後輩は初日に遅刻。 やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。 転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。 オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。 途中主人公がちょっと不憫です。 性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

激重感情の矢印は俺

NANiMO
BL
幼馴染みに好きな人がいると聞いて10年。 まさかその相手が自分だなんて思うはずなく。 ___ 短編BL練習作品

龍神様は大事な宝玉を昔無くしたらしい。その大事な宝玉、オートマタの俺の心臓なんですけど!?

ミクリ21 (新)
BL
オートマタの俺は、普通の人間みたいに考えたり喋ったり動く。 そんな俺の心臓はとある宝玉だ。 ある日、龍神様が大事な宝玉を昔無くしたから探しているとやってきた。 ……俺の心臓がその宝玉だけど、返す=俺終了のお知らせなので返せません!!

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

処理中です...