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僕のかわいいこぐまさま
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家に帰りつき母さんに支えられて自室に戻ったけど、僕の気持ちは沈んだままだった。
分からない。
いくら薫さんが逞しくてもΩはΩだ。しかも番持ちのΩなのだ――。
通常番持ちのΩにαであってもヒートにあてられる事なんて絶対にない。番ったΩのフェロモンは番のαにしか分からなくなるからだ。
薫さん自身に変化があったわけじゃない。ましてや僕はΩだ。億万分の一もありはしない。
薫さんとはそれこそ僕が生まれた時からの付き合いだし、今までだってあんな事一度もなかった。
それなのにどうして――――?
僕は薫さんに『運命』を感じてしまったんだ――。
反応したのが僕だけだったという事も僕の心に影を落とした――。
僕は確かにいつか愛し愛される相手と恋に落ちるって思ってた。多分それが運命の相手なんだって――。
だけどこんな落ち方……。薫さん相手に発情するなんて…………。こんなの僕が求めたものじゃない。
身の程を知らない事を願った僕への罰――?
どうしようもない失望感と背徳感に冷たかった身体から更に温度が失われていくようだった。
カタカタと震え続ける身体。
「彼方なぁ初めてのヒートや、びっくりしてもうた?」
傍にずっとついていてくれていた母さんが優しくそんな事を言った。
びっくりはした。だけどそれは初めてのヒートという事もあったけど、ヒートを起こしてしまった原因にびっくりしてしまったのだ。
「大丈夫やでぇ。Ωなら誰でも通る道やさかい。それになこれは好いた人と番になる為の準備や。色んな大変な事もあるけどな、みんな味方やで。彼方の事全力で守るし、安心してええんやで?」
「でも……でもっ!僕、僕は――っ」
「どないしたんや。ゆっくりでええよ?な、ゆっくりゆっくりや」
昔小さい頃にしてくれていた背中をトントンとされる。
それでも涙は止まらない。きっとこんな事を言ってしまえば母さんを困らせてしまう。
だけど、黙っている事もできなくて、
「僕っ薫さんに反応して……ヒート……っ」
母さんは一瞬びっくりした顔をしたけどすぐに優しく抱きしめてくれた。
「――難儀やなぁ……彼方も……遥も」
最後の方は聞き取れないくらい小さな声だったけど母さんの声がどこまでも優しくて、僕はただ泣き続ける事しかできなかった。
*****
ヒート自体はすぐに落ち着いたもののあれから一週間学校を休んだ。
その間色々な事を考えたけど、結局答えなんか出なかった。止めようと思っても薫さんへの想いを止める事ができないんだからどうしようもない。
僕は薫さんとどうこうなるつもりなんかまったくない。だけど僕はあの人を想うだけで胸が苦しくて、狂おしいほど愛おしい。
これが『恋』や『愛』だと言うなら僕はこんなものやっぱり要らないって思った。
「彼方、もう大丈夫なのか?」
といつもの調子で声をかけて来た奏。
その顔を見て少し安心した。
気づかれていない。
いくらなんでも自分の母親に欲情するヤツなんて気持ち悪いだけだ。
流石の奏もその事を知ってしまったら軽蔑されてしまう……。
その事を考えてくしゃりと顔を歪めたが、それを奏に見られないように俯いて一度だけ息を吐く。
自分の気持ちにしっかりと蓋をして、二度と開けてはいけない。『できない』じゃなくて『やる』んだ。
「うん。大丈夫。迷惑かけてごめん」
そう言って少しだけ微笑んで見せた。
「それはいいよ。心配はしたけど迷惑だなんて思ってない。それと、母さんが彼方が落ち着いてるようだったらうちに連れて来てって」
「――――え?」
奏の言葉に冷水を頭から浴びせられた気がした。
なんで?近づかなければ、僕が我慢すれば……って思ってたのに。カタリと蓋が開く音がする。
「なんかさ、大事な話があるんだって。だから大丈夫そうだったら必ず来てって」
「そう……。分かった――」
自分の気持ちに蓋をしたはずなのに、来てと言われたら拒めない。
会いたいって思ってしまうんだ。
――――これが『恋』?
これじゃあまるで呪いじゃないか……。
こんなの知りたくなかった――。
分からない。
いくら薫さんが逞しくてもΩはΩだ。しかも番持ちのΩなのだ――。
通常番持ちのΩにαであってもヒートにあてられる事なんて絶対にない。番ったΩのフェロモンは番のαにしか分からなくなるからだ。
薫さん自身に変化があったわけじゃない。ましてや僕はΩだ。億万分の一もありはしない。
薫さんとはそれこそ僕が生まれた時からの付き合いだし、今までだってあんな事一度もなかった。
それなのにどうして――――?
僕は薫さんに『運命』を感じてしまったんだ――。
反応したのが僕だけだったという事も僕の心に影を落とした――。
僕は確かにいつか愛し愛される相手と恋に落ちるって思ってた。多分それが運命の相手なんだって――。
だけどこんな落ち方……。薫さん相手に発情するなんて…………。こんなの僕が求めたものじゃない。
身の程を知らない事を願った僕への罰――?
どうしようもない失望感と背徳感に冷たかった身体から更に温度が失われていくようだった。
カタカタと震え続ける身体。
「彼方なぁ初めてのヒートや、びっくりしてもうた?」
傍にずっとついていてくれていた母さんが優しくそんな事を言った。
びっくりはした。だけどそれは初めてのヒートという事もあったけど、ヒートを起こしてしまった原因にびっくりしてしまったのだ。
「大丈夫やでぇ。Ωなら誰でも通る道やさかい。それになこれは好いた人と番になる為の準備や。色んな大変な事もあるけどな、みんな味方やで。彼方の事全力で守るし、安心してええんやで?」
「でも……でもっ!僕、僕は――っ」
「どないしたんや。ゆっくりでええよ?な、ゆっくりゆっくりや」
昔小さい頃にしてくれていた背中をトントンとされる。
それでも涙は止まらない。きっとこんな事を言ってしまえば母さんを困らせてしまう。
だけど、黙っている事もできなくて、
「僕っ薫さんに反応して……ヒート……っ」
母さんは一瞬びっくりした顔をしたけどすぐに優しく抱きしめてくれた。
「――難儀やなぁ……彼方も……遥も」
最後の方は聞き取れないくらい小さな声だったけど母さんの声がどこまでも優しくて、僕はただ泣き続ける事しかできなかった。
*****
ヒート自体はすぐに落ち着いたもののあれから一週間学校を休んだ。
その間色々な事を考えたけど、結局答えなんか出なかった。止めようと思っても薫さんへの想いを止める事ができないんだからどうしようもない。
僕は薫さんとどうこうなるつもりなんかまったくない。だけど僕はあの人を想うだけで胸が苦しくて、狂おしいほど愛おしい。
これが『恋』や『愛』だと言うなら僕はこんなものやっぱり要らないって思った。
「彼方、もう大丈夫なのか?」
といつもの調子で声をかけて来た奏。
その顔を見て少し安心した。
気づかれていない。
いくらなんでも自分の母親に欲情するヤツなんて気持ち悪いだけだ。
流石の奏もその事を知ってしまったら軽蔑されてしまう……。
その事を考えてくしゃりと顔を歪めたが、それを奏に見られないように俯いて一度だけ息を吐く。
自分の気持ちにしっかりと蓋をして、二度と開けてはいけない。『できない』じゃなくて『やる』んだ。
「うん。大丈夫。迷惑かけてごめん」
そう言って少しだけ微笑んで見せた。
「それはいいよ。心配はしたけど迷惑だなんて思ってない。それと、母さんが彼方が落ち着いてるようだったらうちに連れて来てって」
「――――え?」
奏の言葉に冷水を頭から浴びせられた気がした。
なんで?近づかなければ、僕が我慢すれば……って思ってたのに。カタリと蓋が開く音がする。
「なんかさ、大事な話があるんだって。だから大丈夫そうだったら必ず来てって」
「そう……。分かった――」
自分の気持ちに蓋をしたはずなのに、来てと言われたら拒めない。
会いたいって思ってしまうんだ。
――――これが『恋』?
これじゃあまるで呪いじゃないか……。
こんなの知りたくなかった――。
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