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僕のかわいいこぐまさま
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告白当日旋堂さんには近くの公園で待機してもらって、熊さんが店を出る時に俺がさりげなく旋堂さんの居る公園に誘導する予定だった。
熊さんはいつもの時間に店を訪れ、いつものようにコーヒーを一杯飲んで本を読みマスターと店のみんなにお別れの挨拶をして……帰って行った。
俺はそれを黙って見送った。
*****
人の近づく気配に旋堂さんが振り向いた。
「――――奏君……?」
俺の姿はあるが連れてくるはずの熊さんの姿はなく、旋堂さんは視線を彷徨わせた。
熊さんを探してる。
俺はそれ以上旋堂さんに近づく事もできず、下唇を噛みしめ俯く事しかできなかった。
旋堂さんに会わせる顔がない。
すると旋堂さんが息を吐いたのが分かり身を震わせた。
呆れてる?
「僕は大丈夫だよ。気にしないで?」
俺が熊さんを連れてこれなくて落ち込んでいると思ってそんな優しい言葉をかけてくれる。
違うんです。あなたにそんな優しい言葉をかけてもらう資格なんて俺にはない。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい……っ!」
泣きながらただそれだけを繰り返した。
ふわりと何か――涼やかな香りに包まれ、すんすんと鼻を鳴らす。
その香りは間違いなく旋堂さんのもので、旋堂さんが優しく俺の事を抱きしめてくれたんだと分かった。
「泣かないで?奏君が謝る必要なんてないんだよ……?」
「俺……好き……。俺っ旋堂さんの事が好きなんですっ。あなたの力になりたいって……それは嘘じゃないけど、でもやっぱり無理なんです!俺はあなたを誰にも渡したくない!ごめ……ごめんなさい!」
これ以上情けない姿を見せたくなんかないのに涙が止まらない。ぽろりぽろりと零れていく涙たち。
俺の告白に抱きしめてくれていた旋堂さんの身体がぴくりと揺れた。
俺は離れて行って欲しくなくて、ぎゅっと力の限り旋堂さんの事を抱きしめた。
少しだけ旋堂さんの香りが強くなる。
「僕……僕もね……奏君の事が好き。――熊さん……の事だって奏君のお母さんって知らなかったけど昔助けてくれた人に雰囲気が似てるなって見てただけだよ。それでキミと瞳が合った。その時なんだか電撃に打たれた気がしたんだ。キミを見るとふわふわと幸せな気持ちになって、キミの事を想うだけでドキドキと鼓動が煩くて――。キミと瞳が合うのは僕がキミの事を見ていたからだよ。今回キミが勘違いして僕と熊さんをくっつけようとしたから……僕はキミは僕の事を綺麗だとか可愛いって言ってくれるけど、それだけなんだって思って悲しかった。でも、それでもキミと話せる事が嬉しくて否定もできずに今日になっちゃって、本当に熊さんが来たらどうしようって――。来なくてホッとしたのにキミが泣くから……自分のしてしまった事でキミを傷つけてしまったんだって分かったんだ。ごめんね。本当にごめんなさい。ずるくてごめん……」
俺は頭を左右に勢いよく振った。
「ずるくなんかないです!俺、嬉しい!俺と番になって?今すぐにでもあなたを俺のものにしたい。俺、あなたを守りたいんだ――」
「嬉しい……」
微笑みぽろぽろと零れていくキラキラの真珠のような涙。
「でも……」と続く旋堂さんの言葉。
「番うのは高校を卒業してからにしよう?僕は大人としてそれだけは譲れない」
ぼんやりしているようで意外としっかりしてる旋堂さん。
待ったをかけたのは旋堂さん――律だけど、それは俺が子どもだから。
だから待たせてしまっているのは俺なんだ。
「う……。嫌だけど、心配だけど、う´――分かった。少しだけ……待ってて」
「うん。待ってる。大好きだよ奏君」
甘く微笑む愛しい人。
「俺の一生をかけてあなたに愛を捧げるから、あなたも俺だけを愛して?」
「うん――。うん、うん。僕にはキミだけだよ。キミだけを愛してる――」
想いが通じ合い、将来を約束した俺たちはこの日初めての口づけを交わした。
俺の大事な大事な愛しい番。
出会えたのがあなたでよかった。
-おわり-
熊さんはいつもの時間に店を訪れ、いつものようにコーヒーを一杯飲んで本を読みマスターと店のみんなにお別れの挨拶をして……帰って行った。
俺はそれを黙って見送った。
*****
人の近づく気配に旋堂さんが振り向いた。
「――――奏君……?」
俺の姿はあるが連れてくるはずの熊さんの姿はなく、旋堂さんは視線を彷徨わせた。
熊さんを探してる。
俺はそれ以上旋堂さんに近づく事もできず、下唇を噛みしめ俯く事しかできなかった。
旋堂さんに会わせる顔がない。
すると旋堂さんが息を吐いたのが分かり身を震わせた。
呆れてる?
「僕は大丈夫だよ。気にしないで?」
俺が熊さんを連れてこれなくて落ち込んでいると思ってそんな優しい言葉をかけてくれる。
違うんです。あなたにそんな優しい言葉をかけてもらう資格なんて俺にはない。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい……っ!」
泣きながらただそれだけを繰り返した。
ふわりと何か――涼やかな香りに包まれ、すんすんと鼻を鳴らす。
その香りは間違いなく旋堂さんのもので、旋堂さんが優しく俺の事を抱きしめてくれたんだと分かった。
「泣かないで?奏君が謝る必要なんてないんだよ……?」
「俺……好き……。俺っ旋堂さんの事が好きなんですっ。あなたの力になりたいって……それは嘘じゃないけど、でもやっぱり無理なんです!俺はあなたを誰にも渡したくない!ごめ……ごめんなさい!」
これ以上情けない姿を見せたくなんかないのに涙が止まらない。ぽろりぽろりと零れていく涙たち。
俺の告白に抱きしめてくれていた旋堂さんの身体がぴくりと揺れた。
俺は離れて行って欲しくなくて、ぎゅっと力の限り旋堂さんの事を抱きしめた。
少しだけ旋堂さんの香りが強くなる。
「僕……僕もね……奏君の事が好き。――熊さん……の事だって奏君のお母さんって知らなかったけど昔助けてくれた人に雰囲気が似てるなって見てただけだよ。それでキミと瞳が合った。その時なんだか電撃に打たれた気がしたんだ。キミを見るとふわふわと幸せな気持ちになって、キミの事を想うだけでドキドキと鼓動が煩くて――。キミと瞳が合うのは僕がキミの事を見ていたからだよ。今回キミが勘違いして僕と熊さんをくっつけようとしたから……僕はキミは僕の事を綺麗だとか可愛いって言ってくれるけど、それだけなんだって思って悲しかった。でも、それでもキミと話せる事が嬉しくて否定もできずに今日になっちゃって、本当に熊さんが来たらどうしようって――。来なくてホッとしたのにキミが泣くから……自分のしてしまった事でキミを傷つけてしまったんだって分かったんだ。ごめんね。本当にごめんなさい。ずるくてごめん……」
俺は頭を左右に勢いよく振った。
「ずるくなんかないです!俺、嬉しい!俺と番になって?今すぐにでもあなたを俺のものにしたい。俺、あなたを守りたいんだ――」
「嬉しい……」
微笑みぽろぽろと零れていくキラキラの真珠のような涙。
「でも……」と続く旋堂さんの言葉。
「番うのは高校を卒業してからにしよう?僕は大人としてそれだけは譲れない」
ぼんやりしているようで意外としっかりしてる旋堂さん。
待ったをかけたのは旋堂さん――律だけど、それは俺が子どもだから。
だから待たせてしまっているのは俺なんだ。
「う……。嫌だけど、心配だけど、う´――分かった。少しだけ……待ってて」
「うん。待ってる。大好きだよ奏君」
甘く微笑む愛しい人。
「俺の一生をかけてあなたに愛を捧げるから、あなたも俺だけを愛して?」
「うん――。うん、うん。僕にはキミだけだよ。キミだけを愛してる――」
想いが通じ合い、将来を約束した俺たちはこの日初めての口づけを交わした。
俺の大事な大事な愛しい番。
出会えたのがあなたでよかった。
-おわり-
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