32 / 87
僕のかわいいこぐまさま
3 (3)
しおりを挟む
カフェオレさんの名前は旋堂 律といって、大学の図書館で司書として働く27歳の男性Ωだった。
毎日喫茶店で顔を会わせていたけど、名前も知らないし話す事もなかった相手。
それが今俺の隣りの席につき、母さん手作りのシチューを食べて楽しそうにしゃべってる。
母さんとばかりしゃべるから少しだけもやっとして食事が終わると俺の部屋に旋堂さんを誘った。
やっぱり熊さんがいなくなる事を伝えなきゃって思ったからだ。
半ば強引に自分の部屋に旋堂さんを連れ込み、少しだけ胸のもやもやが消えた気がした。
「旋堂さん、突然部屋に連れ込むような真似してすみません……。誓って変な事はしませんから……。どうしても話さなきゃいけない事があって――。それで、あの……熊さんの事なんですが……」
「――熊さん?」
不思議そうな顔で俺の事を見る旋堂さん。
それではっとする。俺が勝手につけたあだ名だから旋堂さんが知るはずもない。それに熊さんの説明をしてしまったら常連さんにあだ名を付けている事がバレてしまう。まだ誤魔化す事はできるだろう。
だけど――と旋堂さんの事を見つめる。
旋堂さんに嘘をつきたくなくて正直に話す事にした。俺の話を聞いて旋堂さんは「そっか。僕は『カフェオレさん』?なんだか可愛いね」って笑ってくれて、ほっとした。
「あーっとそれで熊さんっていうのは――旋堂さんがいつも見てる人、です」
「え――――?」
何度も目が合ったんだから気づかれてるって分かってたはずなのに、僕の言葉に驚いた様子で瞬いている。
「旋堂さんがいつも熊さんの事見てるの気づいてました……。俺も熊さんの事見てて、それで旋堂さんとも目が合ったから――」
「…………」
今度は耳まで真っ赤にさせて俯いてしまった。
え?え?うわーうわーうわーか、可愛い――。じゃなくて!
「それで今日旋堂さん来なかったじゃないですか。熊さんとマスターがしゃべってたんですが、熊さんの就職が他県に決まって、来月からはもううちに来られないらしいんです。それで、旋堂さんこのままでいいのかなって――」
「このままで……って?」
「いや、ほら告白……とか?」
自分で言って何でかムッとする。
「え……」
「だって好きって言わなきゃ後悔するかもでしょう?」
「――――僕、は……」
「俺が手伝いますから、だから頑張りましょう?勇気、出してみましょう?」
「――キミはその……熊さんの事が好き、なんじゃないの?」
「うーん?好き……というか可愛いですよね。何だか母さんと少し似ててほっとするというか、熊さんは俺の癒しかな?」
あまり深く考えた事はなかったけど、改めて考えてみてもやっぱり熊さんの事は可愛いとは思うけど恋愛的な意味で好きなわけじゃないと思う。
だって恋をしたらなるっていうドキドキもしないし切なくなったりもしない。ただほっこりするだけだ。
「――――そう、なん……だ?」
そう呟いた旋堂さんの顔はなぜか少し嬉しそうに見えた。
旋堂さんが嬉しそうにする理由が分からなくて、胸の辺りがツキンと少しだけ痛んだ気がしたんだ。
今度の休みに二人で作戦を練る事にして、今日は父さんが車で旋堂さんを送って行った。
走り去る車を見送りながら俺はなんだか切ない気持ちになっていた。
いつもならベッドに入ると10秒と待たず眠りに落ちてしまうのに、その夜は少しうわずって掠れた旋堂さんの「奏君」って俺の名前を呼ぶ声が耳から離れなくて、なかなか眠りにつく事ができなかった。
毎日喫茶店で顔を会わせていたけど、名前も知らないし話す事もなかった相手。
それが今俺の隣りの席につき、母さん手作りのシチューを食べて楽しそうにしゃべってる。
母さんとばかりしゃべるから少しだけもやっとして食事が終わると俺の部屋に旋堂さんを誘った。
やっぱり熊さんがいなくなる事を伝えなきゃって思ったからだ。
半ば強引に自分の部屋に旋堂さんを連れ込み、少しだけ胸のもやもやが消えた気がした。
「旋堂さん、突然部屋に連れ込むような真似してすみません……。誓って変な事はしませんから……。どうしても話さなきゃいけない事があって――。それで、あの……熊さんの事なんですが……」
「――熊さん?」
不思議そうな顔で俺の事を見る旋堂さん。
それではっとする。俺が勝手につけたあだ名だから旋堂さんが知るはずもない。それに熊さんの説明をしてしまったら常連さんにあだ名を付けている事がバレてしまう。まだ誤魔化す事はできるだろう。
だけど――と旋堂さんの事を見つめる。
旋堂さんに嘘をつきたくなくて正直に話す事にした。俺の話を聞いて旋堂さんは「そっか。僕は『カフェオレさん』?なんだか可愛いね」って笑ってくれて、ほっとした。
「あーっとそれで熊さんっていうのは――旋堂さんがいつも見てる人、です」
「え――――?」
何度も目が合ったんだから気づかれてるって分かってたはずなのに、僕の言葉に驚いた様子で瞬いている。
「旋堂さんがいつも熊さんの事見てるの気づいてました……。俺も熊さんの事見てて、それで旋堂さんとも目が合ったから――」
「…………」
今度は耳まで真っ赤にさせて俯いてしまった。
え?え?うわーうわーうわーか、可愛い――。じゃなくて!
「それで今日旋堂さん来なかったじゃないですか。熊さんとマスターがしゃべってたんですが、熊さんの就職が他県に決まって、来月からはもううちに来られないらしいんです。それで、旋堂さんこのままでいいのかなって――」
「このままで……って?」
「いや、ほら告白……とか?」
自分で言って何でかムッとする。
「え……」
「だって好きって言わなきゃ後悔するかもでしょう?」
「――――僕、は……」
「俺が手伝いますから、だから頑張りましょう?勇気、出してみましょう?」
「――キミはその……熊さんの事が好き、なんじゃないの?」
「うーん?好き……というか可愛いですよね。何だか母さんと少し似ててほっとするというか、熊さんは俺の癒しかな?」
あまり深く考えた事はなかったけど、改めて考えてみてもやっぱり熊さんの事は可愛いとは思うけど恋愛的な意味で好きなわけじゃないと思う。
だって恋をしたらなるっていうドキドキもしないし切なくなったりもしない。ただほっこりするだけだ。
「――――そう、なん……だ?」
そう呟いた旋堂さんの顔はなぜか少し嬉しそうに見えた。
旋堂さんが嬉しそうにする理由が分からなくて、胸の辺りがツキンと少しだけ痛んだ気がしたんだ。
今度の休みに二人で作戦を練る事にして、今日は父さんが車で旋堂さんを送って行った。
走り去る車を見送りながら俺はなんだか切ない気持ちになっていた。
いつもならベッドに入ると10秒と待たず眠りに落ちてしまうのに、その夜は少しうわずって掠れた旋堂さんの「奏君」って俺の名前を呼ぶ声が耳から離れなくて、なかなか眠りにつく事ができなかった。
0
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。


龍神様は大事な宝玉を昔無くしたらしい。その大事な宝玉、オートマタの俺の心臓なんですけど!?
ミクリ21 (新)
BL
オートマタの俺は、普通の人間みたいに考えたり喋ったり動く。
そんな俺の心臓はとある宝玉だ。
ある日、龍神様が大事な宝玉を昔無くしたから探しているとやってきた。
……俺の心臓がその宝玉だけど、返す=俺終了のお知らせなので返せません!!

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる