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僕のかわいいこぐまさま
1 及川 奏の場合(1)
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俺の名前は及川 奏17歳。二次性はαだ。
父さんは及川 楓二次性は俺と同じαで、男だけど超が付く程の美人だ。
40歳なのにとても若く見えるから、少し年の離れた兄弟に見られる事も多い。
母さんはよく父さんの事を『キラキラの王子さま』『天使』なんて言う。40過ぎの男に『天使』はどうかと思うけど『王子さま』は否定しない。甘いマスクに身体つきはほっそりして見えるけど実は脱ぐとすごくて、所謂細マッチョだ。
結構上位のαらしいんだけど、ギラギラしたところはなくていつも穏やかに笑ってる。本当おとぎ話の中の王子さまみたい。
母さんは父さんより大分年上のΩだ。名前は及川 薫54歳。
母さんは男だけどΩで俺を産んでくれたから『母さん』で、身体も大きくてゴツイし顔もイカツイ。
俺はそんな母さんの事を恰好いいと思うし、優しくて大好きだ。
だけど俺が小さい頃は、友だちに母さんの容姿を散々揶揄われた。父さんと並んでる姿は『美女と〇獣』だって。「熊が出た!」って本気で怖がられて大泣きされた事もあった。
そして中学校へ上がる頃には俺の世界も広がって、聞こえて来た両親の噂話。
母さんが及川家の財産を餌に父さんの事を釣ったんだとか、母さんがヒート?を利用して?無理矢理父さんを番にして何か弱みを握られてる父さんは番契約を解消する事ができないって。
俺は勿論そんな噂なんて信じていなかったけど『火のない所には煙は立たぬ』とも言うし、とにかく本当の事を知りたいと思った。
でも、こんな事両親に訊けやしない。だって絶対に悲しませてしまうから。
だから俺は両親ではなく父さんの秘書をしている平岡さんに相談したんだ。相談とも言えない気持ちをぶつけただけのものだったかもしれないけど、泣きながら本当の事が知りたいって訴えた。
平岡さんは父さんの古くからの友人で母さんとも仲良しで、俺の事も小さい頃から可愛がってくれる母さんに似た雰囲気の人。
平岡さんは最後まで黙って聞いてくれて、話し終わると母さんがいつもしてくれるみたいにぎゅっと抱きしめて背中を優しくトントンしてくれた。それでも涙は止まらなくて。
「奏君、これはお父さんの秘書としてではなくお父さんとお母さんの友人として言わせてもらうね。イケメンでお金持ちで優しくて完璧超人で――そんな及川君がモテないはずがない。本当呆れるくらいモテモテなんだよ。だけど及川君には薫さんしかいないから、誰に誘惑されたって見向きもしない。だからフラれた腹いせに変な噂を流されてしまった。多くの人は悲しい事に自分より劣ると思っている人間に負けたとは思いたくなくて、他人を貶めて自分を優位に見せる事で心の安定を図るんだ。薫さんがそいつらに劣るなんて事は絶対にないのにね。奏君のお母さんは本当に素敵な人だよ」
そう言って微笑む平岡さん。なんだか自分まで褒められたみたいで嬉しくて、くすぐったくて、俺の涙はいつの間にか止まっていた。
「そんな奴らの流す噂なんて真実であるはずがない。僕と及川君が知り合ったのは大学生の頃だけど、その頃にはもう及川君の心には薫さんだけだった。傍に居られなかった間もずっとずっと大事に想っていたよ。薫さんだってそうさ。愛し合っているから二人は番になったし、奏君が生まれた。これ以上の証拠が必要かい?奏君が思っているよりずーっと二人の愛は深いし、絆は強い。この噂の事だって当然二人は知ってるけど、全く気にしてないよ。だって全部嘘っぱちだって分かってるからね。――ただ、奏君がこの噂で心を痛めてると知ったらものすごく悲しむだろうね……。だからね、奏君も気にしないで笑っていてくれないかな?そうすれば変な噂だっていつか無くなる。それが今できる奏君の戦い。奏君は薫さんを王子さまと一緒に守る小さな騎士だ。そして僕はその従者。――まぁ、もしも薫さんに何か危害が及ぶような事があれば及川君も黙ってはいないだろうけど。僕だって黙っているつもりはないけどね」
そう言ってふふふと笑う平岡さんの目がぜんぜん笑っていなくて、幼心に敵に回してはいけない人だと思ったのをよく覚えている。
噂なんかより実は父さんや平岡さんの方がよっぽど怖いんじゃないかって思えた。
だけど同時に安心もしたんだ。母さんも俺も守られてるって。それに母さんも守られてるだけの弱い人じゃなくて気持ちがとても強い。それは父さんが傍にいるからだって。父さんだってきっと母さんが傍にいるから強いんだって。
昔も今も父さんも母さんもいつも笑顔だ。そして俺もそんな二人の傍で笑ってる。
知らないヤツが何言ったって何にも変わらないし、言いたいヤツには言わせておけって思えた。
そんな事があって、俺は父さんは勿論だけど母さんや平岡さんの強さにも憧れてる。心の強さと大きな身体と凛々しい眉も大好き。だから容姿が母さんに似ていて俺は嬉しいんだ。身体つきも似てくれたらもっともっと嬉しかったんだけど、いくら鍛えても細いまま。身長だってそんなに高くない。それを嘆くと父さんは、昔は今の俺よりもっとちっこくておまけに美人顔だからいつまでも幼く見られて悔しい思いを何度もしてたって。だけど母さんに認めて貰えるように、母さんを守れるようにって俺よりもっともっと早くから身体を鍛えて、成果が出始めたのは高校生くらいだったって。
今の父さんが強くて恰好よく見えるのは沢山努力した結果だって事は大きくなった今なら分かる。どんな努力も全ては母さんに繋がってるわけだけど。正直よく知らない偉人さんなんかよりずっとずっと尊敬してる。
だから俺も努力をする人でいたいんだ。毎日筋トレして、苦手な牛乳も頑張って飲んで、いつか父さんのように母さんのように強くなるんだ。そして、将来出会う番を守るんだ。絶対に。
うちの両親は番うまでに長い年月がかかったらしい。それについても具体的な事は何ひとつ教えてはくれないけど、父さんの執念が勝ったっていつも父さんが自慢して、母さんはその度に顔を真っ赤にさせるんだ。
父さんが母さんの事を愛してるのは勿論だけど、母さんだって父さんの事をものすごく愛してる。
ふたりは常にいちゃいちゃしてる。最初は俺がいるから母さんは照れてるんだけど父さんがすぐにふたりの世界に引っ張り込んじゃうから見ているこっちが恥ずかしくなって席を外すんだ。
俺はまだ高校生で恋愛経験もないし、誰かを愛すとか正直よく分からない。だけど父さんたちを見ていると素直に羨ましいって思うんだ。父さんたちのようにお互いを想う気持ちが『愛』だと言うなら俺は誰か――――いや、俺の番を愛したい。強く願い、努力を続けていればきっと会える。
俺の番、自分の命を差し出しても惜しくないと思える相手。
いつか絶対に――――。
父さんは及川 楓二次性は俺と同じαで、男だけど超が付く程の美人だ。
40歳なのにとても若く見えるから、少し年の離れた兄弟に見られる事も多い。
母さんはよく父さんの事を『キラキラの王子さま』『天使』なんて言う。40過ぎの男に『天使』はどうかと思うけど『王子さま』は否定しない。甘いマスクに身体つきはほっそりして見えるけど実は脱ぐとすごくて、所謂細マッチョだ。
結構上位のαらしいんだけど、ギラギラしたところはなくていつも穏やかに笑ってる。本当おとぎ話の中の王子さまみたい。
母さんは父さんより大分年上のΩだ。名前は及川 薫54歳。
母さんは男だけどΩで俺を産んでくれたから『母さん』で、身体も大きくてゴツイし顔もイカツイ。
俺はそんな母さんの事を恰好いいと思うし、優しくて大好きだ。
だけど俺が小さい頃は、友だちに母さんの容姿を散々揶揄われた。父さんと並んでる姿は『美女と〇獣』だって。「熊が出た!」って本気で怖がられて大泣きされた事もあった。
そして中学校へ上がる頃には俺の世界も広がって、聞こえて来た両親の噂話。
母さんが及川家の財産を餌に父さんの事を釣ったんだとか、母さんがヒート?を利用して?無理矢理父さんを番にして何か弱みを握られてる父さんは番契約を解消する事ができないって。
俺は勿論そんな噂なんて信じていなかったけど『火のない所には煙は立たぬ』とも言うし、とにかく本当の事を知りたいと思った。
でも、こんな事両親に訊けやしない。だって絶対に悲しませてしまうから。
だから俺は両親ではなく父さんの秘書をしている平岡さんに相談したんだ。相談とも言えない気持ちをぶつけただけのものだったかもしれないけど、泣きながら本当の事が知りたいって訴えた。
平岡さんは父さんの古くからの友人で母さんとも仲良しで、俺の事も小さい頃から可愛がってくれる母さんに似た雰囲気の人。
平岡さんは最後まで黙って聞いてくれて、話し終わると母さんがいつもしてくれるみたいにぎゅっと抱きしめて背中を優しくトントンしてくれた。それでも涙は止まらなくて。
「奏君、これはお父さんの秘書としてではなくお父さんとお母さんの友人として言わせてもらうね。イケメンでお金持ちで優しくて完璧超人で――そんな及川君がモテないはずがない。本当呆れるくらいモテモテなんだよ。だけど及川君には薫さんしかいないから、誰に誘惑されたって見向きもしない。だからフラれた腹いせに変な噂を流されてしまった。多くの人は悲しい事に自分より劣ると思っている人間に負けたとは思いたくなくて、他人を貶めて自分を優位に見せる事で心の安定を図るんだ。薫さんがそいつらに劣るなんて事は絶対にないのにね。奏君のお母さんは本当に素敵な人だよ」
そう言って微笑む平岡さん。なんだか自分まで褒められたみたいで嬉しくて、くすぐったくて、俺の涙はいつの間にか止まっていた。
「そんな奴らの流す噂なんて真実であるはずがない。僕と及川君が知り合ったのは大学生の頃だけど、その頃にはもう及川君の心には薫さんだけだった。傍に居られなかった間もずっとずっと大事に想っていたよ。薫さんだってそうさ。愛し合っているから二人は番になったし、奏君が生まれた。これ以上の証拠が必要かい?奏君が思っているよりずーっと二人の愛は深いし、絆は強い。この噂の事だって当然二人は知ってるけど、全く気にしてないよ。だって全部嘘っぱちだって分かってるからね。――ただ、奏君がこの噂で心を痛めてると知ったらものすごく悲しむだろうね……。だからね、奏君も気にしないで笑っていてくれないかな?そうすれば変な噂だっていつか無くなる。それが今できる奏君の戦い。奏君は薫さんを王子さまと一緒に守る小さな騎士だ。そして僕はその従者。――まぁ、もしも薫さんに何か危害が及ぶような事があれば及川君も黙ってはいないだろうけど。僕だって黙っているつもりはないけどね」
そう言ってふふふと笑う平岡さんの目がぜんぜん笑っていなくて、幼心に敵に回してはいけない人だと思ったのをよく覚えている。
噂なんかより実は父さんや平岡さんの方がよっぽど怖いんじゃないかって思えた。
だけど同時に安心もしたんだ。母さんも俺も守られてるって。それに母さんも守られてるだけの弱い人じゃなくて気持ちがとても強い。それは父さんが傍にいるからだって。父さんだってきっと母さんが傍にいるから強いんだって。
昔も今も父さんも母さんもいつも笑顔だ。そして俺もそんな二人の傍で笑ってる。
知らないヤツが何言ったって何にも変わらないし、言いたいヤツには言わせておけって思えた。
そんな事があって、俺は父さんは勿論だけど母さんや平岡さんの強さにも憧れてる。心の強さと大きな身体と凛々しい眉も大好き。だから容姿が母さんに似ていて俺は嬉しいんだ。身体つきも似てくれたらもっともっと嬉しかったんだけど、いくら鍛えても細いまま。身長だってそんなに高くない。それを嘆くと父さんは、昔は今の俺よりもっとちっこくておまけに美人顔だからいつまでも幼く見られて悔しい思いを何度もしてたって。だけど母さんに認めて貰えるように、母さんを守れるようにって俺よりもっともっと早くから身体を鍛えて、成果が出始めたのは高校生くらいだったって。
今の父さんが強くて恰好よく見えるのは沢山努力した結果だって事は大きくなった今なら分かる。どんな努力も全ては母さんに繋がってるわけだけど。正直よく知らない偉人さんなんかよりずっとずっと尊敬してる。
だから俺も努力をする人でいたいんだ。毎日筋トレして、苦手な牛乳も頑張って飲んで、いつか父さんのように母さんのように強くなるんだ。そして、将来出会う番を守るんだ。絶対に。
うちの両親は番うまでに長い年月がかかったらしい。それについても具体的な事は何ひとつ教えてはくれないけど、父さんの執念が勝ったっていつも父さんが自慢して、母さんはその度に顔を真っ赤にさせるんだ。
父さんが母さんの事を愛してるのは勿論だけど、母さんだって父さんの事をものすごく愛してる。
ふたりは常にいちゃいちゃしてる。最初は俺がいるから母さんは照れてるんだけど父さんがすぐにふたりの世界に引っ張り込んじゃうから見ているこっちが恥ずかしくなって席を外すんだ。
俺はまだ高校生で恋愛経験もないし、誰かを愛すとか正直よく分からない。だけど父さんたちを見ていると素直に羨ましいって思うんだ。父さんたちのようにお互いを想う気持ちが『愛』だと言うなら俺は誰か――――いや、俺の番を愛したい。強く願い、努力を続けていればきっと会える。
俺の番、自分の命を差し出しても惜しくないと思える相手。
いつか絶対に――――。
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