俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
27 / 87
俺のかわいい幼馴染さま

幼馴染さま 番外編2 それは道端に咲く名も知らぬ花のように(1)

しおりを挟む
山田 凛やまだ りんです。よろしくお願いします」

そうぶっきらぼうに挨拶したのは、先日数日で辞めていったアシスタントの代わりに来た青年だ。

山田 凛と名乗る青年の容姿はとりたてて美人だとか可愛いとかいうものではなく平凡で、ガリガリのひょろっとした感じのΩ青年だった。笑顔であったなら少しは違ったかもしれないが、どちらかといえば不機嫌といった感じでともすれば怒っているようにも見えた。
道隆は気づかれないように小さく溜め息を吐いた。

「俺は三条 道隆さんじょう みちたか。チーフしてる。凛には俺のアシスタントしてもらうから、よろしうたのむ」

道隆の方もにこりともせず事務的に挨拶を返すだけだった。


桜花おうかの従兄弟、三条 道隆は広告代理店に勤めていた。
道隆ほどの上位のαにしては低い地位であるが、チーフとしてバリバリ働いていた。
本当はそれ以上の出世も望めたが、当の道隆がそれを拒んだのだ。現場で働く事が好きだったからだ。
なんなら下っ端でも良かったが、道隆が上位のαという事もあり会社がそれを認めなかったのだ。
だからチーフという今の立場は両者の妥協の末の結果なのだ。

道隆は決して冷たい人間ではないし、二次性での差別もしない。だから凛がΩだからといって下に見るつもりもない。さっきの溜め息も凛がΩだからではなかった。
道隆は自分につくアシスタントに対して必要以上に期待していない。正確には期待しないようになった。
なぜなら道隆についたアシスタントはすぐに辞めていくからだ。
長くて一ヶ月、短くて三日。原因は分からない。あまりに続くものだから自分に原因があるのかと悩んだ事もあったが、どうもそうではないようだった。
道隆は丁寧に仕事を教えていたし、高圧的な態度もとっていない。よりよい関係づくりの為、プライベートで食事に誘ったりしてなんとか打ち解けようとした事もあった。
アシスタントといえばいわば仕事上のパートナーだ。道隆にとって人生を共にする『番』とはまた違う意味で大切にしたいと思っていた。だからできうる限りの事はやった。が、その全ては空振りに終わっていた。
いくら丁寧に教えても仕事は全く覚えないし、すぐに辞めていく。そんな事が続くといくら道隆でも段々期待する事自体間違っているのではないか? と、思うようになっていた。
だから凛に対して必要以上に興味もないし、今度はいつまでもつのか……と消極的な目で見る事しかできなかった。それ故の溜め息であった。

無駄に終わると分かっていても道隆は手抜きをする事なく丁寧に仕事を教えた。自分の損得勘定で手を抜いたりはしない。やる事はやる。それが相手に対する最低限の礼儀であり、社会人として当たり前の事である。そう考える人間だった。

だが、今回はいつもとは違っていた。凛の態度が違うのだ。道隆の説明を終始真面目に聞いており、ひとつも聞き逃さないようにとメモまで取っていた。
今まで道隆のアシスタントについた人間はΩばかりではない。βやαもいたが、こんな事は初めてだった。
凛の様子に「おや?」と、道隆の胸に予感めいたモノが生まれた。

その後、相変わらずの無表情ではあったが凛の態度はいつだって真摯だ。
笑顔こそ見せないが仕事が好きだという事が嫌というほど伝わって来た。どんなに小さな仕事も嫌な顔ひとつ見せず丁寧に行っている。
そうして一週間が過ぎる頃、道隆はある事に気が付いた。
仕事が上手くいくと凛の口角が少しだけ上がるのだ。他の人間が見てもきっと無表情のままに見えるだろう。道隆でなければ気づかないような小さな変化だ。
その変化を初めて見つけた時、道隆はびっくりし過ぎて手に持っていた書類を落としてしまった。
慌てて拾い集め、はっとして凛の方を見るといつもの無表情に戻っていてとても残念に思った。
道隆は、『もっと笑えばいいのに』と仕事には関係ない事を思っている自分に驚いた。
パートナーといい関係を築きたい想いは今でもあるが、番のように甘い関係を望んでいるわけではないのだ。それなのにもっと自分に笑顔を見せて欲しいと考えてしまう自分はどこかおかしいのではないか、と思った。
だけどすぐに、仕事上の繋がりであってもいい関係を築くのに笑顔はあるに越した事はないと思い直した。だから凛に笑って欲しいと思う事はなにも間違ってはいないのだ、と。

やがて、道隆の最初の予感めいたモノは『今度のアシスタントはいつもとは違う』と確信に変わっていった。


プライベートでは長年好きだった桜花をあと一歩というところで横から奪われたばかりだった。
せめて仕事では信頼のおけるパートナーが欲しかった。
今までの事から難しいと思えたが、凛であればもしかしたら……と思い始めていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。 引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。 二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に 転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。 初のアルファの後輩は初日に遅刻。 やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。 転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。 オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。 途中主人公がちょっと不憫です。 性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

激重感情の矢印は俺

NANiMO
BL
幼馴染みに好きな人がいると聞いて10年。 まさかその相手が自分だなんて思うはずなく。 ___ 短編BL練習作品

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

処理中です...