18 / 87
俺のかわいい婚約者さま
婚約者さま 番外編6 デートをしよう。
しおりを挟む
奏が生まれて父さんのデレデレっぷりがひどい。所謂爺バ〇というやつで、俺たち以上に奏を可愛がっていた。
産後の体調も落ち着いた頃、父さんが楓君とデートにでも行ってきなさいと奏を預かってくれた。
俺と満足に触れ合えない楓君がそろそろ限界に近かった事が分かっての提案なのだろう。
本当父さんには頭が上がらない。
俺たちは父さんの優しさに甘える事にして、朝早くからお弁当を持って動物園に来ていた。俺たちが婚約者だった頃一緒にきた動物園だ。
どこへ行こうかという話になった時、二人同時に出た言葉は「動物園」だった。
俺たちは思わず顔を会わせて笑った。きっと楓君も同じ想いなんだ。
「楓君、まずどこに行こうか?」
「熊を見たいです」
熊……あの時も熊を見に行ったね。手を繋いではしゃぐキミ。キラキラの瞳で熊の事を見ていた。
そして俺が質問をしたんだ。
「楓君、熊は……好きかい……?」
あの頃不安でいっぱいだった。キミのまっすぐな気持ちをそのまま受け取る事ができなくて、いつも不安で不安で――――。あの頃向けられていた奇異の目はもうない。ただ楓君の美しさをうっとりとみつめる人はいるけれど。
「熊ですか? 勿論好きですよ。大きくて抱きしめると温かそうですよね。えいっ」
あの時と同じ、いたずらっ子のように瞳を輝かせて俺に抱き着く楓君。
何年経ってもキミはキミのままで、可愛い天使で、恰好いい俺の番。
逞しい腕でしっかりと抱き込まれる。
キミの腕の中は世界で一番安心できる場所。
「楓君、大好き。昔も今も――」
「俺も薫さんの事が世界で一番大好きです。勿論昔も今も、これから先も――」
そう言って笑顔を見せたのに、すぐに少しだけ寂しそうな顔をした。
「どうしたの?」
「――――もっと色々な場所で薫さんとデートしたかった、です……」
少しだけ涙を浮かべながらそんな事を言う。俺もそれにつられてじわりと涙が浮かぶ。
俺たちが離れてしまっていた8年という年月は決して短くはない。
その時間を共に過ごせなかった事は楓君にとって俺が思っていた以上に大きな傷になってしまっているようだ。
俺にとっても楓君と共に過ごせたかもしれなかった8年という失ってしまった時間は、心を抉るような傷になってしまっている。
だけど、過去の事をいくら悔やんでも悲しんでももう戻らないんだからしょうがないじゃないか。
代わりに俺たちには未来がある。
二人で……今じゃ奏という子どもまで授かって、大切なものが増えたこれからの時間。
だからね、楓君。
「ふふ。いいじゃない。これからずーっと一緒でしょう? 何度だってどこへだって行けるよ。二人でも、奏を連れて三人でも。沢山沢山デートをしよう?」
俺たちのこれからの事を想うと笑顔でしかいられない。
「――――――はい……っ!」
俺たちは涙を拭い、笑顔で互いを見つめた。
晴れた日だって雨の日だって、どんな日でもデートをしよう。
俺たちはこれからずーっとずっと一緒だよ。
-おわり-
産後の体調も落ち着いた頃、父さんが楓君とデートにでも行ってきなさいと奏を預かってくれた。
俺と満足に触れ合えない楓君がそろそろ限界に近かった事が分かっての提案なのだろう。
本当父さんには頭が上がらない。
俺たちは父さんの優しさに甘える事にして、朝早くからお弁当を持って動物園に来ていた。俺たちが婚約者だった頃一緒にきた動物園だ。
どこへ行こうかという話になった時、二人同時に出た言葉は「動物園」だった。
俺たちは思わず顔を会わせて笑った。きっと楓君も同じ想いなんだ。
「楓君、まずどこに行こうか?」
「熊を見たいです」
熊……あの時も熊を見に行ったね。手を繋いではしゃぐキミ。キラキラの瞳で熊の事を見ていた。
そして俺が質問をしたんだ。
「楓君、熊は……好きかい……?」
あの頃不安でいっぱいだった。キミのまっすぐな気持ちをそのまま受け取る事ができなくて、いつも不安で不安で――――。あの頃向けられていた奇異の目はもうない。ただ楓君の美しさをうっとりとみつめる人はいるけれど。
「熊ですか? 勿論好きですよ。大きくて抱きしめると温かそうですよね。えいっ」
あの時と同じ、いたずらっ子のように瞳を輝かせて俺に抱き着く楓君。
何年経ってもキミはキミのままで、可愛い天使で、恰好いい俺の番。
逞しい腕でしっかりと抱き込まれる。
キミの腕の中は世界で一番安心できる場所。
「楓君、大好き。昔も今も――」
「俺も薫さんの事が世界で一番大好きです。勿論昔も今も、これから先も――」
そう言って笑顔を見せたのに、すぐに少しだけ寂しそうな顔をした。
「どうしたの?」
「――――もっと色々な場所で薫さんとデートしたかった、です……」
少しだけ涙を浮かべながらそんな事を言う。俺もそれにつられてじわりと涙が浮かぶ。
俺たちが離れてしまっていた8年という年月は決して短くはない。
その時間を共に過ごせなかった事は楓君にとって俺が思っていた以上に大きな傷になってしまっているようだ。
俺にとっても楓君と共に過ごせたかもしれなかった8年という失ってしまった時間は、心を抉るような傷になってしまっている。
だけど、過去の事をいくら悔やんでも悲しんでももう戻らないんだからしょうがないじゃないか。
代わりに俺たちには未来がある。
二人で……今じゃ奏という子どもまで授かって、大切なものが増えたこれからの時間。
だからね、楓君。
「ふふ。いいじゃない。これからずーっと一緒でしょう? 何度だってどこへだって行けるよ。二人でも、奏を連れて三人でも。沢山沢山デートをしよう?」
俺たちのこれからの事を想うと笑顔でしかいられない。
「――――――はい……っ!」
俺たちは涙を拭い、笑顔で互いを見つめた。
晴れた日だって雨の日だって、どんな日でもデートをしよう。
俺たちはこれからずーっとずっと一緒だよ。
-おわり-
0
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。


たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
表紙絵
⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる