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俺のかわいい婚約者さま
婚約者さま 番外編2 誓い
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楓君と初めてのヒートを過ごして、無事『番』になる事が出来た俺たちは二人して父さんに挨拶に来ていた。
事後報告になってしまったけど、父さんなら諸手を挙げて喜んでくれると思っていた。
8年前楓君との事があってから表立って結婚相手を探す事をしなくなっていたけど、ずっと心配してくれていたのを知っている。だから一度はダメになってしまったけど、想い合った相手と番う事が出来たのだから何の問題もないと思っていた。
なのに、目の前にいる父さんは静かに怒っていた。こんなに怒っている父さんは初めて見る。
8年前、俺が楓君との婚約を勝手に解消した時だって怒ったりせずにただ俺の事を抱きしめてくれただけだった。
父さんの放つαの威圧で部屋の温度が急激に下がっていくのが分かった。窓ガラスがビリビリと震えている。
流石は財閥の頂点にいるαといったところか。
楓君は実父とはいえαの威圧に怯える俺を、さりげなく自分のフェロモンで包み込み安心させようとしてくれた。自分も相当辛いはずなのに俺の事を一番に考えてくれる……。
「父……さん……っ!」
俺が言えば何とかなるとこの時の俺はまだ甘い考えを持っていて、言い募ろうとするのを楓君は手で制し、一歩前に出て土下座をした。
形だけではないきちんと心の籠ったものだ。
「楓……君!?」
俺は楓君の突然の土下座に驚き動けなくて、ただ頭を床に擦り付けんばかりの楓君の事を見つめる事しかできなかった。
「及川さん、8年前婚約を破棄させてしまったのは私の至らなさが招いた結果です。そしてまたこのような形で及川さんの前に立つ事をお許し下さい。勝手ばかりしているのですからお怒りはごもっともです。しかしながら私は薫さんの事を心の底から愛しています。その気持ちは今までもこれから先も変わる事はありません。あの時の自分はまだ幼く弱かった……。だから少しの間だけ離れる事に……しました。今も薫さんを幸せにするだけの力が本当にあるのかと言われれば、ないのかもしれません。ですがもう……自分の幼さを理由に諦めたくはないんです。もう1秒たりとも薫さんと離れていたくない。自分がたとえ死ぬ事になっても薫さんの事を守り愛し抜き、生涯をかけて幸せにしますから、どうか傍で見守ってはいただけないでしょうか」
真剣な楓君の言葉に、こうなる事はある程度予想していたのだと分かった。
俺の方が年上なのになんて甘い考えだったんだ。
楓君が俺の前に再び現れるには相当な覚悟をしていたに違いないのに、俺は再び楓君に会う事ができて、番になる事ができて、ただただ幸せを感じていただけだった。父さんの気持ちや楓君の気持ちを分かろうともせずに――――。
俺も急いで楓君の横で土下座をした。
「父さんっお願いします。8年前の事だって悪いのは俺なんです。楓君を愛していたのに……自分から手を離してしまった……。何度もその事を後悔しました――。もう二度と後悔なんてしたくないっ楓君なしの人生なんて考えられないんです……っ。楓君は俺を幸せにする力があるとは言えないって言ったけど、俺は自分の幸せを人任せにするつもりはありません。それに、俺だって楓君を幸せにしたいんです。今度こそ二人で幸せになります。だからお願いします! 俺たちの事を見ていて下さい! 何年かかっても俺たちが幸せだって証明してみせるから!」
父さんは俺たち二人の様子を目を細めて黙って見ていた。
短くはない沈黙の後、父さんが徐に口を開いた。
「許す――――とはまだ言えない。楓君、キミはこれから私だけではなく周りにも認めてもらわなくてはいけない。薫と結婚するという事はそういう事だ。キミも言っていたように若いからなどとそういった理由で甘やかしてはくれないよ。分かっているね?」
「はい! 必ず認めていただけるよう頑張ります!! 薫さんの夫として決して薫さんに恥をかかせたりしません!」
楓君の決意に父さんはいつもの優しい顔になり、一度だけ頷いた。
「――この8年、キミは随分と頑張っていたね……。失礼ながらキミの動向を見させてもらっていたんだが……キミが――いや余計な事だね。財閥のトップに立つ人間としてはこれからも厳しい事を言うつもりだが、薫の父親としては……これだけは言わせて欲しい。――――薫を諦めないでくれてありがとう……」
「――――っ!!」
父さんは俺たちに立つように促し、楓君と硬い握手を交わした。
父さんは楓君の事を信じてずっと見守ってくれていたんだね。
俺は楓君の事も自分の事すらも信じる事ができなくて、ただ悲しんでいただけだったのに。
過去は取り戻す事はできないけれど、これから先の事なら何だってできる。
俺たちはここからが本当の始まり。
楓君にだけ辛い思いをさせるつもりはない。
今度こそ俺だって楓君の為に、俺たち二人の為に一緒に頑張るんだ。
もう弱い自分でなんかいたくない。何があっても楓君の事を諦めたくはないんだ。
キミを信じ、キミを支え、死ぬまでキミを愛し抜く。
そんな想いを込めて楓君の方を見ると楓君も俺の方を見ていて、俺を見つめるその瞳から同じ想いだと分かった。
俺たちは夫夫で唯一無二の番。もう二度と離さない。
二人で幸せになろう。
俺たちは互いの瞳を見つめたままこの『誓い』を胸に頷きあった。
-おわり-
事後報告になってしまったけど、父さんなら諸手を挙げて喜んでくれると思っていた。
8年前楓君との事があってから表立って結婚相手を探す事をしなくなっていたけど、ずっと心配してくれていたのを知っている。だから一度はダメになってしまったけど、想い合った相手と番う事が出来たのだから何の問題もないと思っていた。
なのに、目の前にいる父さんは静かに怒っていた。こんなに怒っている父さんは初めて見る。
8年前、俺が楓君との婚約を勝手に解消した時だって怒ったりせずにただ俺の事を抱きしめてくれただけだった。
父さんの放つαの威圧で部屋の温度が急激に下がっていくのが分かった。窓ガラスがビリビリと震えている。
流石は財閥の頂点にいるαといったところか。
楓君は実父とはいえαの威圧に怯える俺を、さりげなく自分のフェロモンで包み込み安心させようとしてくれた。自分も相当辛いはずなのに俺の事を一番に考えてくれる……。
「父……さん……っ!」
俺が言えば何とかなるとこの時の俺はまだ甘い考えを持っていて、言い募ろうとするのを楓君は手で制し、一歩前に出て土下座をした。
形だけではないきちんと心の籠ったものだ。
「楓……君!?」
俺は楓君の突然の土下座に驚き動けなくて、ただ頭を床に擦り付けんばかりの楓君の事を見つめる事しかできなかった。
「及川さん、8年前婚約を破棄させてしまったのは私の至らなさが招いた結果です。そしてまたこのような形で及川さんの前に立つ事をお許し下さい。勝手ばかりしているのですからお怒りはごもっともです。しかしながら私は薫さんの事を心の底から愛しています。その気持ちは今までもこれから先も変わる事はありません。あの時の自分はまだ幼く弱かった……。だから少しの間だけ離れる事に……しました。今も薫さんを幸せにするだけの力が本当にあるのかと言われれば、ないのかもしれません。ですがもう……自分の幼さを理由に諦めたくはないんです。もう1秒たりとも薫さんと離れていたくない。自分がたとえ死ぬ事になっても薫さんの事を守り愛し抜き、生涯をかけて幸せにしますから、どうか傍で見守ってはいただけないでしょうか」
真剣な楓君の言葉に、こうなる事はある程度予想していたのだと分かった。
俺の方が年上なのになんて甘い考えだったんだ。
楓君が俺の前に再び現れるには相当な覚悟をしていたに違いないのに、俺は再び楓君に会う事ができて、番になる事ができて、ただただ幸せを感じていただけだった。父さんの気持ちや楓君の気持ちを分かろうともせずに――――。
俺も急いで楓君の横で土下座をした。
「父さんっお願いします。8年前の事だって悪いのは俺なんです。楓君を愛していたのに……自分から手を離してしまった……。何度もその事を後悔しました――。もう二度と後悔なんてしたくないっ楓君なしの人生なんて考えられないんです……っ。楓君は俺を幸せにする力があるとは言えないって言ったけど、俺は自分の幸せを人任せにするつもりはありません。それに、俺だって楓君を幸せにしたいんです。今度こそ二人で幸せになります。だからお願いします! 俺たちの事を見ていて下さい! 何年かかっても俺たちが幸せだって証明してみせるから!」
父さんは俺たち二人の様子を目を細めて黙って見ていた。
短くはない沈黙の後、父さんが徐に口を開いた。
「許す――――とはまだ言えない。楓君、キミはこれから私だけではなく周りにも認めてもらわなくてはいけない。薫と結婚するという事はそういう事だ。キミも言っていたように若いからなどとそういった理由で甘やかしてはくれないよ。分かっているね?」
「はい! 必ず認めていただけるよう頑張ります!! 薫さんの夫として決して薫さんに恥をかかせたりしません!」
楓君の決意に父さんはいつもの優しい顔になり、一度だけ頷いた。
「――この8年、キミは随分と頑張っていたね……。失礼ながらキミの動向を見させてもらっていたんだが……キミが――いや余計な事だね。財閥のトップに立つ人間としてはこれからも厳しい事を言うつもりだが、薫の父親としては……これだけは言わせて欲しい。――――薫を諦めないでくれてありがとう……」
「――――っ!!」
父さんは俺たちに立つように促し、楓君と硬い握手を交わした。
父さんは楓君の事を信じてずっと見守ってくれていたんだね。
俺は楓君の事も自分の事すらも信じる事ができなくて、ただ悲しんでいただけだったのに。
過去は取り戻す事はできないけれど、これから先の事なら何だってできる。
俺たちはここからが本当の始まり。
楓君にだけ辛い思いをさせるつもりはない。
今度こそ俺だって楓君の為に、俺たち二人の為に一緒に頑張るんだ。
もう弱い自分でなんかいたくない。何があっても楓君の事を諦めたくはないんだ。
キミを信じ、キミを支え、死ぬまでキミを愛し抜く。
そんな想いを込めて楓君の方を見ると楓君も俺の方を見ていて、俺を見つめるその瞳から同じ想いだと分かった。
俺たちは夫夫で唯一無二の番。もう二度と離さない。
二人で幸せになろう。
俺たちは互いの瞳を見つめたままこの『誓い』を胸に頷きあった。
-おわり-
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