12 / 87
俺のかわいい婚約者さま
12 2(3)
しおりを挟む
暫く愛しい番の無防備に眠る姿を見ていたが、啼かされて赤く染まった目元や触ると滑らかな肌触りの白い肌に咲くおびただしい数の赤い薔薇。
そんな番の淫猥な姿に死ぬほど交わり欲を吐き出しきったはずなのに、再び中心が熱を集めつつある事に気づき自分の貪欲さに苦笑する。
流石にこれ以上疲れて眠っている薫さんをどうこうするのは躊躇われて、シャワーを浴びる為に傍を離れた。
シャワーを浴び漸く熱も治まり浴室から出てくると、ピンポーンと一度だけ来客を告げるベルが鳴った。
インターフォンのモニターを確認するが誰もない。
不思議に思って手早くガウンを纏い玄関の扉を開け辺りを窺ってみた。
しかしそこにはすでに人の姿はなく、大きなクマのぬいぐるみとその腕の中で幸せそうに眠る天使。そしてその周りには沢山の可愛い花が飾り付けてあるちょっと大きめのオブジェがあるだけだった。
カードもなく、差出人が分かるような物は何もなかったが花の香りに交じって僅かに昔嗅いだことがある懐かしい香りを感じた。
そういえばあいつは華道の家元の息子だったな――――。
4年程前に幼馴染みのΩの子に押し切られる形で結婚して、仲睦まじい番になったと風の噂で聞いている。
懐かしさに目を細めるが、すぐにそれを振り払うようにぎゅっと一度だけ強く目を瞑る。
それからオブジェを部屋の中に運び込んでいると、薫さんが目覚めていたようでシーツを身体に巻き付け恥ずかしそうな声で訊ねてきた。
「それ、どうしたの?」
「贈り物みたいです」
俺はそれだけを伝えた。他に言える言葉が見つからなかったのだ。
「へぇ。可愛いね。熊と天使だね。まるで俺たちみたいだ。誰からの贈り物なのかな?」
薫さんの質問にすぐには答える事ができなかった。
だけど……薫さんが変に思う。ちゃんと答えなきゃ……。もう誤解やすれ違いは嫌なんだ。
「―――― 一条……一条遥から、です」
「一条……」
それっきり黙ってしまった薫さん。やっぱり遥の事が許せないんだ!
俺たちが8年もの間離れ離れになる原因を作ったヤツだ。許せなくて当然だ。
「薫さんが見たくもないと言うならこれはすぐに捨てます!!」
食い気味にそう言って部屋に運び入れたばかりのオブジェを再び外に持ち出そうとして、薫さんに慌てて止められた。
「ううん。嬉しいよ。俺たちの事を祝ってくれてるんだろう?」
「でも……薫さんの事、傷つけた……」
感情がぐちゃぐちゃになって涙が零れそうになる。
「一条君に傷つけられただなんて思ってないよ。あれは俺が弱かっただけだ。楓君の事を信じられなかった俺の弱い心が悪かったせい。キミのおうちの事だって経済的に困ってなんかいないって調べればすぐに分かったんだ。だから、だからね。あの事でキミたち二人が仲たがいをしているのなら……仲直りしてくれないかな?」
薫さんの立派な眉がへにょりと垂れる。
「…………」
でも……だけど、それでも俺は……。
俺は薫さんに「はい」も「いいえ」も言う事ができず、ぐっと握りしめた手のひらに爪が食い込んで血が滲むが痛みなんか感じなかった。
黙り込む俺に聞こえて来た薫さんの優しい声。
「あ、あれは仔猫かな?熊と天使だけじゃなかったんだね。仔猫は翡翠だったりして。あは、まさかね」
そう言ってふふと笑う薫さん。
俺の瞳から涙がぽろりと零れた。
「楓君……?」
一度だけ、あの雨の日の出来事を遥に話した事があった。
覚えているはずもない友だちとの些細な会話だった。
それなのに、あいつは覚えていてくれたんだな……。
「――――翡翠です……。16年前の雨の日に俺たちは出会っていました」
「え……。あ、あの子……が」
俺の言葉に少しだけ遠い目をし、思い出したのか目を見開き驚いている。
「楓君、――――おいで?」
そう言って微笑みながら両手を広げる薫さん。
俺は吸い寄せられるように薫さんの元へ行き、薫さんにいたわるようにぎゅっと抱きしめられた。
「楓君はずっと覚えてくれたんだね。楓君の事いっぱいいっぱい傷つけちゃってたね。ごめんね」
「――っ……っ」
俺は声もなく泣いた。
8年前に自ら終わらせてしまった友情が今もそこに確かにあるのを感じた。
ずっとずっと俺もあいつの事が気になっていた。
今でも薫さんを傷つけた事は許せないけれど、俺だってあいつの事をいっぱい傷つけた。
それなのにあいつはずっと俺の事を友人だと……大切な幼馴染みだと思ってくれていたんだな。
薫さんの言うように俺だけが意地をはっていてはダメだ。
俺はもうあの頃のように子どもではない。感情のままに人を傷つけて平気でいてはいけないんだ。
8年ぶりに会いに行こう。そしてお互いの8年分の出来事を笑って話すんだ。
お互いの大切で愛しい番の惚気も添えて。
-おわり-
そんな番の淫猥な姿に死ぬほど交わり欲を吐き出しきったはずなのに、再び中心が熱を集めつつある事に気づき自分の貪欲さに苦笑する。
流石にこれ以上疲れて眠っている薫さんをどうこうするのは躊躇われて、シャワーを浴びる為に傍を離れた。
シャワーを浴び漸く熱も治まり浴室から出てくると、ピンポーンと一度だけ来客を告げるベルが鳴った。
インターフォンのモニターを確認するが誰もない。
不思議に思って手早くガウンを纏い玄関の扉を開け辺りを窺ってみた。
しかしそこにはすでに人の姿はなく、大きなクマのぬいぐるみとその腕の中で幸せそうに眠る天使。そしてその周りには沢山の可愛い花が飾り付けてあるちょっと大きめのオブジェがあるだけだった。
カードもなく、差出人が分かるような物は何もなかったが花の香りに交じって僅かに昔嗅いだことがある懐かしい香りを感じた。
そういえばあいつは華道の家元の息子だったな――――。
4年程前に幼馴染みのΩの子に押し切られる形で結婚して、仲睦まじい番になったと風の噂で聞いている。
懐かしさに目を細めるが、すぐにそれを振り払うようにぎゅっと一度だけ強く目を瞑る。
それからオブジェを部屋の中に運び込んでいると、薫さんが目覚めていたようでシーツを身体に巻き付け恥ずかしそうな声で訊ねてきた。
「それ、どうしたの?」
「贈り物みたいです」
俺はそれだけを伝えた。他に言える言葉が見つからなかったのだ。
「へぇ。可愛いね。熊と天使だね。まるで俺たちみたいだ。誰からの贈り物なのかな?」
薫さんの質問にすぐには答える事ができなかった。
だけど……薫さんが変に思う。ちゃんと答えなきゃ……。もう誤解やすれ違いは嫌なんだ。
「―――― 一条……一条遥から、です」
「一条……」
それっきり黙ってしまった薫さん。やっぱり遥の事が許せないんだ!
俺たちが8年もの間離れ離れになる原因を作ったヤツだ。許せなくて当然だ。
「薫さんが見たくもないと言うならこれはすぐに捨てます!!」
食い気味にそう言って部屋に運び入れたばかりのオブジェを再び外に持ち出そうとして、薫さんに慌てて止められた。
「ううん。嬉しいよ。俺たちの事を祝ってくれてるんだろう?」
「でも……薫さんの事、傷つけた……」
感情がぐちゃぐちゃになって涙が零れそうになる。
「一条君に傷つけられただなんて思ってないよ。あれは俺が弱かっただけだ。楓君の事を信じられなかった俺の弱い心が悪かったせい。キミのおうちの事だって経済的に困ってなんかいないって調べればすぐに分かったんだ。だから、だからね。あの事でキミたち二人が仲たがいをしているのなら……仲直りしてくれないかな?」
薫さんの立派な眉がへにょりと垂れる。
「…………」
でも……だけど、それでも俺は……。
俺は薫さんに「はい」も「いいえ」も言う事ができず、ぐっと握りしめた手のひらに爪が食い込んで血が滲むが痛みなんか感じなかった。
黙り込む俺に聞こえて来た薫さんの優しい声。
「あ、あれは仔猫かな?熊と天使だけじゃなかったんだね。仔猫は翡翠だったりして。あは、まさかね」
そう言ってふふと笑う薫さん。
俺の瞳から涙がぽろりと零れた。
「楓君……?」
一度だけ、あの雨の日の出来事を遥に話した事があった。
覚えているはずもない友だちとの些細な会話だった。
それなのに、あいつは覚えていてくれたんだな……。
「――――翡翠です……。16年前の雨の日に俺たちは出会っていました」
「え……。あ、あの子……が」
俺の言葉に少しだけ遠い目をし、思い出したのか目を見開き驚いている。
「楓君、――――おいで?」
そう言って微笑みながら両手を広げる薫さん。
俺は吸い寄せられるように薫さんの元へ行き、薫さんにいたわるようにぎゅっと抱きしめられた。
「楓君はずっと覚えてくれたんだね。楓君の事いっぱいいっぱい傷つけちゃってたね。ごめんね」
「――っ……っ」
俺は声もなく泣いた。
8年前に自ら終わらせてしまった友情が今もそこに確かにあるのを感じた。
ずっとずっと俺もあいつの事が気になっていた。
今でも薫さんを傷つけた事は許せないけれど、俺だってあいつの事をいっぱい傷つけた。
それなのにあいつはずっと俺の事を友人だと……大切な幼馴染みだと思ってくれていたんだな。
薫さんの言うように俺だけが意地をはっていてはダメだ。
俺はもうあの頃のように子どもではない。感情のままに人を傷つけて平気でいてはいけないんだ。
8年ぶりに会いに行こう。そしてお互いの8年分の出来事を笑って話すんだ。
お互いの大切で愛しい番の惚気も添えて。
-おわり-
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
目が覚めたら異世界で魔法使いだった。
いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。
《書き下ろしつき同人誌販売中》
貴方の事を心から愛していました。ありがとう。
天海みつき
BL
穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。
――混じり込んだ××と共に。
オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。
追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?
ぽんちゃん
BL
日本から異世界に落っこちた流星。
その時に助けてくれた美丈夫に、三年間片思いをしていた。
学園の卒業を目前に控え、商会を営む両親に頼み込み、婚活パーティーを開いてもらうことを決意した。
二十八でも独身のシュヴァリエ様に会うためだ。
お話出来るだけでも満足だと思っていたのに、カップル希望に流星の名前を書いてくれていて……!?
公爵家の嫡男であるシュヴァリエ様との身分差に悩む流星。
一方、シュヴァリエは、生涯独り身だと幼い頃より結婚は諦めていた。
大商会の美人で有名な息子であり、密かな想い人からのアプローチに、戸惑いの連続。
公爵夫人の座が欲しくて擦り寄って来ていると思っていたが、会話が噛み合わない。
天然なのだと思っていたが、なにかがおかしいと気付く。
容姿にコンプレックスを持つ人々が、異世界人に愛される物語。
女性は三割に満たない世界。
同性婚が当たり前。
美人な異世界人は妊娠できます。
ご都合主義。
前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます
当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は……
「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」
天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。
* * * * * * * * *
母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。
○注意◯
・基本コメディ時折シリアス。
・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。
・最初は恋愛要素が少なめ。
・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。
・本来の役割を見失ったルビ。
・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。
エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。
2020/09/05
内容紹介及びタグを一部修正しました。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる