俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
10 / 87
俺のかわいい婚約者さま

10 @楓 2(1)

しおりを挟む
長い長い空白の時を経て、めでたく番になった愛しい人は俺の腕の中でとても静かな寝息を立てて眠っている。
項に残るぼこぼこになってしまった番の印である噛み跡さえ可愛く見える。
そっと噛み跡を撫でてみる。その刺激で身じろぐあなたに笑みが零れる。

あなたを作るすべてが愛おしい。



傍にあなたがいない寂しさを抱きながら必死で頑張った8年間。
あなたはどうしていましたか……?

大学を卒業した日、それは待ちに待った日。
8年ぶりに見るあなたは桜の花びらが舞う中、大きな身体を少しでも小さく見せるために背中を丸めベンチにちょこんと座っていた。
その姿を瞳が捉えた瞬間、俺の灰色だった世界が鮮やかに色づきキラキラと輝きだしたんだ。

かわいい僕のクマしゃん。
かわいい俺の―――――。

すぐに捕まえて番って、誰の目からも見えないように隠してしまいたかった。
もう一刻も離れている事なんかできやしない。
俺の愛しい人―――。

愛しい人に吸い寄せられるように近づいて行ったが、ふとある考えが頭を過ぎり立ち止まった。
この8年間ずっと考えていた事だった。

俺はあなたに会えないでいる間もあなたの事だけをずっとずっと想い続けて来た。
――――だけど薫さんは……?

伸ばした手を振り払われてしまうかもしれない。

ぎゅっと心臓が締め付けられたかのように痛い。

まだ薫さんが誰のモノにもなっていない事は知っていた。
社会的にトップクラスの家の動向は良くも悪くもニュースになりやすく、把握しやすかった。
どんなに小さな記事も全て集めてスクラップブックに貼ってある。だからこの8年もの間、会わなくても堪えられた。
でもそれは薫さんの外側で、薫さんの内側、気持ちまでは分からなかった。
ここまできて怖気づいてしまい一歩も動けなくなってしまった。

時間だけが無駄に過ぎていく。そうしているうちに突然現れたαが俺の薫さんの両手を握ったのが見えた。
もう後先の事なんて考えられなかった。
気づいた時にはそのαの手を叩いていた。

「この人は俺のだから。勝手にくどいてんじゃねーよ」

そして聞こえて来た薫さんの震える声。

「――――かえで……君?」

8年ぶりの突然の俺の出現に、驚き見開かれた薫さんの瞳に俺はどう映ったのか。
不安で押しつぶされそうになりながら、それでも必死に言葉を紡ぐ。

「薫さん、遅くなってすみません」

薫さんは立ち上がり俺に手を伸ばそうとして止まった。
迷っているような戸惑っているようなそんな様子だけど、あなたも俺と同じ気持ちでいてくれたのだと分かり安堵と共に愛しさが募ってくすりと笑った。
おいでと両手を広げると薫さんは蕩けた表情のまま俺の腕の中にぽすんとその身体を預けた。
ぎゅっと抱きしめる。
やっと……やっとだ。

幸せを噛みしめていると途端にぶわりと甘い香りが辺りに広がった。
ああ、薫さんの香りだ。俺だけの――。

目の前のαなんかに嗅がせたくなくて、俺のフェロモンで薫さんを包み込む。

「あ……、あ、あぁ……っ」

俺のフェロモンで薫さんの発情が進んでしまったようで、その表情は蕩けきっていて焦点は合わず、開きっぱなしの口からは光る物が垂れて来ていた。

ああ、いけない。俺のフェロモンにあてられて薫さんの発情が進んでしまった。
二人きりの時ならいいがこんな他のαがいる場所でなんて……。薫さんの色っぽい顔を見ていいのは俺だけだ。
フェロモンを抑えなくては、そう思うのに自分のフェロモンに反応する薫さんが愛おしくて嬉しくて抑える事ができない。

「大丈夫。ちょっとだけ我慢して下さいね」

そう言うと自分の着ていた上着を脱ぎ薫さんを他のαの目から隠すように包み込むとお姫様のように大事に抱きかかえた。
そして未だ呆けたままになっていたαに向って威圧を使う。
びくりと震え俺を窺うようにするα。

「そこの人、薫さんのヒート休暇と番休暇代わりに出しておいて」

名も知らぬαはこくこくと必死に頷いていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。 引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。 二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に 転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。 初のアルファの後輩は初日に遅刻。 やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。 転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。 オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。 途中主人公がちょっと不憫です。 性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

激重感情の矢印は俺

NANiMO
BL
幼馴染みに好きな人がいると聞いて10年。 まさかその相手が自分だなんて思うはずなく。 ___ 短編BL練習作品

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

処理中です...