俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
5 / 87
俺のかわいい婚約者さま

5 @楓 1

しおりを挟む
「楓!お前婚約者ができたって本当かっ!?」

そう叫びながら教室に飛び込んで来たのは僕の幼馴染みである一条 遥いちじょう はるかだ。
遥の家は華道の家元をしているが、本人は花を活ける事にまったく興味はないらしくかじった程度で辞めてしまった。
――――というのは建前で、本当は自分にセンスがない事を誰よりも分かっていて諦めた、と言った方が正しいのかもしれない。遥は花が好きだ。花を活ける事も好きだったはずだ。だからこそ自分では大好きな花たちを活かしきれない事に絶望し、華道家になる道を諦めた。
そして、花を活ける事はできなくても他の事で花と一生付き合っていけるように将来は美しく活けられた花を宣伝する仕事に就きたいと、内緒話をするみたいにこっそり教えてくれたのを覚えている。
僕は子ども心に自分にはない『大切なもの』を見つけた友人の事を羨ましく、そして誇らしく思った。

その時の事を最近よく思い出す。
あの時はなかった『大切なもの』は、今の僕にはある。薫さんだ。
僕があの時遥に感じた想いを遥も同じように僕に感じてくれるだろうか?
僕と薫さん、そして遥で時々は会って遊ぶのもいいかもしれない。
勿論薫さんがいいと言ってくれればだけど。
その時の事を想像して、ふふふと小さく笑う。

「あ、うん。情報早いね。流石遥ちゃん」

僕がそう言ってにっこりと微笑むと反対に遥はくしゃりと顔を歪ませた。

「――な……っ!お前は俺と結婚するんだろう……っ!?」

まだそんな事を言っているのかと、僕は大げさに肩をすくめて溜め息を吐いてみせた。

「何言ってるの。僕も遥もαでしょう?それに僕は薫さんの事だと思ってる。他の誰かと結婚するなんて考えられないよ。薫さんと番になって結婚して―――― 一生傍にいるんだ」

今すぐにでも薫さんと番いたいけど、流石にそれは無理だからせめて高校を卒業するくらいまでは我慢しなくちゃいけない。薫さんのお父様もそうおっしゃっていたし――。
でも僕はすでにも待っているから…あと4年もだなんて長いなぁ……。だけど我慢しなくっちゃ。今の子どもの僕では薫さんの事を守れないし、薫さんに恥ずかしい思いをさせてしまっている。僕は気づかないフリをしているけど、デートしてる時の周囲の僕たちを見る目は奇異なものを見る目ばかりだ。何でもう少し早く僕は生まれてこなかったのか……。
僕は薫さんの事が本当に大好き。
に僕は薫さんと初めて出会った。大きくて温かい小さい頃好きだったクマのぬいぐるみのような人。

遥は華道家になる事を諦めて、他の道で花と共にある事を選んだ。
だけど僕は他の道を探す事も薫さんを諦める事もできない。
だからもう少しだけ我慢しよう――あの人との未来の為に。

僕がそんな事を考えていると遥は机をバンと叩き、「俺は、認めないからなっ!」という捨て台詞を残し教室を出て行ってしまった。

「おーい。これから授業が始まるぞー?」

なんてのんきな言葉を遥の背中に投げかける。
僕だって分かってる。遥が僕の事を昔から好きだって事。
だけど、多分だけど違うんだよ。遥の想いを否定するつもりはないけど、僕が薫さんに向ける想いと遥が僕に向ける想いは似ているようで少し違う。
だから僕は遥がどんなであれ遥の事を幼馴染みとして、友だちとして大事に思っているから、だから遥の想いを見て見ぬフリをするんだ。

小さくなっていく幼馴染みの後ろ姿に少しだけ胸が痛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。 引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。 二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に 転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。 初のアルファの後輩は初日に遅刻。 やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。 転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。 オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。 途中主人公がちょっと不憫です。 性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

激重感情の矢印は俺

NANiMO
BL
幼馴染みに好きな人がいると聞いて10年。 まさかその相手が自分だなんて思うはずなく。 ___ 短編BL練習作品

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...