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俺のかわいい婚約者さま
4 8年前の雨の日に
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8年前のあの日、その日は朝から雨が降っていた。
俺の身体は大きく、普通の傘では覆いきれずはみ出てしまった部分を冷たい雨が容赦なく濡らした。
いつもなら自分用の大きな傘を使っているのだが、今日は大学の帰りに寄ったコンビニで買い物をしている間に間違って持って行かれてしまったのか、確かに店の前の傘立てにさしておいたはずの傘が無くなっていた。仕方なくもう一度店内に戻りビニール傘を買った。
傘をさし、小さく溜め息を吐く。
8年前、俺は20歳で大学に通っていた。
俺の二次性判定は確かに『Ω』であるが、本来なら思春期を迎える頃からあるはずのものが20歳になった今もない。Ωには当然あるはずの『発情期』だ。
本当にΩなのかと疑わしいくらいにヒートもなければフェロモンも極僅かにしか香らなかった。
病院で何度検査をしてみても身体に異常はみつからず、ただ様子をみるほかなくて不安で仕方がなかった。
そんな俺に誰かが言った『ポンコツΩ』。その言葉に酷く傷つけられたが事実であるので文句も言えず、俯き黙る事しかできなかった。
2年程前から父さんがお見合い写真を方々に配っているが一度もいい返事を貰った事がない。
段々父さんの顔に焦りが見え始め、その事も合わせて俺の心に暗く影を落としていた。
容姿は厳つく体格も熊のようにゴツイ。それだけでも微妙なのにΩとしても不完全であるとすると俺の価値はどこにあるんだろう?ついそんな事を考えてしまう。『価値』だなんて言い方、本当は好きではないのに。
雨の日はつい気持ちが弱くなってそんな事ばかり考えてしまう。
こんな日は早く帰ってお風呂で温まって、温かいホットココアでも飲みながら翡翠と遊ぼう。そう考え少しだけ気持ちが軽くなる。
早く帰ろうと足を速めようとしてどこからか声が聞こえて来た。
雨の音にかき消されてしまいそうなくらい小さく幼い声。
俺は立ち止まり声のする方を見た。
「猫しゃん猫しゃん、お元気になって……?」
降りしきる雨の中、傘もささずに小さな子どもが段ボールの前で蹲っているのを見つけた。
俺は一瞬躊躇ったがすぐに駆け寄るとその子に傘をさしかけた。
躊躇ってしまったのは小さな子どもに自分の見た目は怖がらせてしまうと思ったからだ。
「どうしたの……?傘もささないで、風邪をひいてしまうよ?」
子どもは特に怖がる様子もみせず、その大きな瞳に涙をいっぱい溜めていた。
その子は小さな身体で仔猫を抱きしめ温めようとしているようだった。
だが、その子自身もずぶ濡れであり、このままでは仔猫は死んでしまいその子も風邪をひいてしまうと容易に想像ができた。
俺は雨の日はいつも持ち歩いていた少し大きめのタオルを鞄から取り出し、その子を包み込むと仔猫を受け取り自身の懐へと入れた。
ずぶ濡れの仔猫の水を吸って服もぐっしょりと濡れてしまい、その冷たさにぶるりと震えるがそんな事は今は気にしてなんかいられない。
なんとしてもその子も仔猫も助けたい、そう思った。
「猫しゃん大丈夫?」
「大丈夫だよ。この子は僕が病院に連れていくからね。先生に診てもらおう。キミはおうちの人が心配するから帰りなさい」
大きな手でその子の頭をゆっくりと撫でた。
すると安心したのかすりりと小さく頭を擦り付けるようにして、ゆっくりと目を閉じた。
もう限界だったのだろう。俺に大丈夫だと言われて緊張の糸が切れてしまったようだった。
それから間もなくしてその子の家の人が探しに来たので眠ってしまっていたその子を任せ、その子に別れを告げる事なく俺たちは別れた。
俺は急いで動物病院に仔猫を連れて行き、仔猫はひどく衰弱しているものの適切な治療を受ければすぐに健康になると言われほっと安心したのだった。
それからその仔猫は『翡翠』と名付けられ、今では及川家の主のように振舞っている。
あの日のあの子と一匹との出会いは、俺にとって気が重くなるだけだった雨の日を少しだけ素敵な日へと変えてくれた。
あの子は今どうしているだろう――――。
俺の身体は大きく、普通の傘では覆いきれずはみ出てしまった部分を冷たい雨が容赦なく濡らした。
いつもなら自分用の大きな傘を使っているのだが、今日は大学の帰りに寄ったコンビニで買い物をしている間に間違って持って行かれてしまったのか、確かに店の前の傘立てにさしておいたはずの傘が無くなっていた。仕方なくもう一度店内に戻りビニール傘を買った。
傘をさし、小さく溜め息を吐く。
8年前、俺は20歳で大学に通っていた。
俺の二次性判定は確かに『Ω』であるが、本来なら思春期を迎える頃からあるはずのものが20歳になった今もない。Ωには当然あるはずの『発情期』だ。
本当にΩなのかと疑わしいくらいにヒートもなければフェロモンも極僅かにしか香らなかった。
病院で何度検査をしてみても身体に異常はみつからず、ただ様子をみるほかなくて不安で仕方がなかった。
そんな俺に誰かが言った『ポンコツΩ』。その言葉に酷く傷つけられたが事実であるので文句も言えず、俯き黙る事しかできなかった。
2年程前から父さんがお見合い写真を方々に配っているが一度もいい返事を貰った事がない。
段々父さんの顔に焦りが見え始め、その事も合わせて俺の心に暗く影を落としていた。
容姿は厳つく体格も熊のようにゴツイ。それだけでも微妙なのにΩとしても不完全であるとすると俺の価値はどこにあるんだろう?ついそんな事を考えてしまう。『価値』だなんて言い方、本当は好きではないのに。
雨の日はつい気持ちが弱くなってそんな事ばかり考えてしまう。
こんな日は早く帰ってお風呂で温まって、温かいホットココアでも飲みながら翡翠と遊ぼう。そう考え少しだけ気持ちが軽くなる。
早く帰ろうと足を速めようとしてどこからか声が聞こえて来た。
雨の音にかき消されてしまいそうなくらい小さく幼い声。
俺は立ち止まり声のする方を見た。
「猫しゃん猫しゃん、お元気になって……?」
降りしきる雨の中、傘もささずに小さな子どもが段ボールの前で蹲っているのを見つけた。
俺は一瞬躊躇ったがすぐに駆け寄るとその子に傘をさしかけた。
躊躇ってしまったのは小さな子どもに自分の見た目は怖がらせてしまうと思ったからだ。
「どうしたの……?傘もささないで、風邪をひいてしまうよ?」
子どもは特に怖がる様子もみせず、その大きな瞳に涙をいっぱい溜めていた。
その子は小さな身体で仔猫を抱きしめ温めようとしているようだった。
だが、その子自身もずぶ濡れであり、このままでは仔猫は死んでしまいその子も風邪をひいてしまうと容易に想像ができた。
俺は雨の日はいつも持ち歩いていた少し大きめのタオルを鞄から取り出し、その子を包み込むと仔猫を受け取り自身の懐へと入れた。
ずぶ濡れの仔猫の水を吸って服もぐっしょりと濡れてしまい、その冷たさにぶるりと震えるがそんな事は今は気にしてなんかいられない。
なんとしてもその子も仔猫も助けたい、そう思った。
「猫しゃん大丈夫?」
「大丈夫だよ。この子は僕が病院に連れていくからね。先生に診てもらおう。キミはおうちの人が心配するから帰りなさい」
大きな手でその子の頭をゆっくりと撫でた。
すると安心したのかすりりと小さく頭を擦り付けるようにして、ゆっくりと目を閉じた。
もう限界だったのだろう。俺に大丈夫だと言われて緊張の糸が切れてしまったようだった。
それから間もなくしてその子の家の人が探しに来たので眠ってしまっていたその子を任せ、その子に別れを告げる事なく俺たちは別れた。
俺は急いで動物病院に仔猫を連れて行き、仔猫はひどく衰弱しているものの適切な治療を受ければすぐに健康になると言われほっと安心したのだった。
それからその仔猫は『翡翠』と名付けられ、今では及川家の主のように振舞っている。
あの日のあの子と一匹との出会いは、俺にとって気が重くなるだけだった雨の日を少しだけ素敵な日へと変えてくれた。
あの子は今どうしているだろう――――。
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