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そうして俺は千歳くんの気持ちが自分にない事を分かっても離れる事はできなくて、自分の気持ちに蓋をしてみっともなくもバイトを続けていた。
特に変わった事もなく二週間が過ぎた頃、店のドアベルが『カランカラン』と明るく鳴った。俺は久しぶりのお客さんを笑顔で出迎えようとして、固まった。
「いらっしゃいま――せ……」
その人はキラキラと光る金髪にエメラルドの瞳をしていた。ただ立っているだけなのにぱっと空気が変わって、その人の周りには沢山の花が咲いて見えた。
世界が違うというのはこういう事かと思える程整った顔の高貴な――まるで王子さまのような人だった。
田舎町の焼き菓子店に突然訪れた王子さまに驚き固まっていると、その人の視線が彷徨い何かを見つけたのか視線がそこで止まって、そこへ……千歳くんの方にずんずんと歩いて行き――抱きしめた。
ええ?!
「チト、ゲンキだった?」
「わ、元気だから離せよ」
王子さまの口からはカタコトの日本語が飛び出して、身に纏っていた高貴な空気は拡散し代わりにふわふわとのんびりした空気に包まれた。
そんな空気の中いつまでもふたりの熱い抱擁は続き、俺はやっとの事で我に返り大声を出した。
「――何してるんだっ!!」
俺の剣幕にきょとんとする男。そしてすぐににやりと笑った、ように見えた。
そして、店内を見回し、
「ふーん。チト、それでボクにどしてもアイタイ言ったハこういうコト?」
「ばっ。俺は会いたいだなんてっ!」
「またまたぁ? ゴケンソンを?」
「いやそれ使い方間違ってるから。はぁ……。まぁご覧の通りお客さんが来ない」
「Oh! ソレハソレハ……」
いつまでも俺の存在を無視して続けるふたりの会話に胸がざわざわして、強引に会話に割って入った。
「千歳くん、この人は――?」
「――あ……。えーと名前はルイといってフランスで知り合ったんだ――」
フランスで? 俺の知らない千歳くんを知ってるって事?
久しぶりの再会に抱き合って? 俺と再会した時は目も合わせてくれなかったのに?
俺と千歳くんの距離がどんどん広がっていき、代わりにルイと千歳くんの距離がどんどん近づいているように感じた。
俺が今まで耐えられたのは千歳くんの一番傍にいるのが自分だって思っていたからだった。
ルイの耳にキラリと光る千歳くんと似たピアスを見つけ、ひゅっと喉が鳴る。
お揃いのピアス……?
千歳くんはフランスでルイと恋人になったって事――?
フランスでふたりが甘い関係を築いてる間、俺はひとりで寂しく待ってたって事?
は、何だそれ。俺は確かに千歳くんに告白したはずだ。
やっぱり千歳くんは優しいからはっきり言えなかっただけで、俺みたいなガキは最初から相手にもされてなかったんだ。特別に想われていない事はこないだで分かったけど、でもさあんまりじゃないか?
信じていたものがガラガラと音を立てて崩れていく気がした。
それでも……それでも嫌いになれないんだから、どうしようもない。
俺はわざとらしく、「そ、そういえばレポートで忙しくなるんだった……。今日も資料貸してくれるやつと会う約束してて――ごめん、千歳くん、今日はもう上がっていいかな? それとしばらく……休ませて?」
俺はふたりを前に冷静でいられる気がしなくて、千歳くんの返事も聞かずにそのまま家に逃げるようにして帰った。
「紫央? おい――っ?!」
焦った千歳くんの声だけが追いかけるけど、俺は全力でそれを振り切って逃げたんだ。
特に変わった事もなく二週間が過ぎた頃、店のドアベルが『カランカラン』と明るく鳴った。俺は久しぶりのお客さんを笑顔で出迎えようとして、固まった。
「いらっしゃいま――せ……」
その人はキラキラと光る金髪にエメラルドの瞳をしていた。ただ立っているだけなのにぱっと空気が変わって、その人の周りには沢山の花が咲いて見えた。
世界が違うというのはこういう事かと思える程整った顔の高貴な――まるで王子さまのような人だった。
田舎町の焼き菓子店に突然訪れた王子さまに驚き固まっていると、その人の視線が彷徨い何かを見つけたのか視線がそこで止まって、そこへ……千歳くんの方にずんずんと歩いて行き――抱きしめた。
ええ?!
「チト、ゲンキだった?」
「わ、元気だから離せよ」
王子さまの口からはカタコトの日本語が飛び出して、身に纏っていた高貴な空気は拡散し代わりにふわふわとのんびりした空気に包まれた。
そんな空気の中いつまでもふたりの熱い抱擁は続き、俺はやっとの事で我に返り大声を出した。
「――何してるんだっ!!」
俺の剣幕にきょとんとする男。そしてすぐににやりと笑った、ように見えた。
そして、店内を見回し、
「ふーん。チト、それでボクにどしてもアイタイ言ったハこういうコト?」
「ばっ。俺は会いたいだなんてっ!」
「またまたぁ? ゴケンソンを?」
「いやそれ使い方間違ってるから。はぁ……。まぁご覧の通りお客さんが来ない」
「Oh! ソレハソレハ……」
いつまでも俺の存在を無視して続けるふたりの会話に胸がざわざわして、強引に会話に割って入った。
「千歳くん、この人は――?」
「――あ……。えーと名前はルイといってフランスで知り合ったんだ――」
フランスで? 俺の知らない千歳くんを知ってるって事?
久しぶりの再会に抱き合って? 俺と再会した時は目も合わせてくれなかったのに?
俺と千歳くんの距離がどんどん広がっていき、代わりにルイと千歳くんの距離がどんどん近づいているように感じた。
俺が今まで耐えられたのは千歳くんの一番傍にいるのが自分だって思っていたからだった。
ルイの耳にキラリと光る千歳くんと似たピアスを見つけ、ひゅっと喉が鳴る。
お揃いのピアス……?
千歳くんはフランスでルイと恋人になったって事――?
フランスでふたりが甘い関係を築いてる間、俺はひとりで寂しく待ってたって事?
は、何だそれ。俺は確かに千歳くんに告白したはずだ。
やっぱり千歳くんは優しいからはっきり言えなかっただけで、俺みたいなガキは最初から相手にもされてなかったんだ。特別に想われていない事はこないだで分かったけど、でもさあんまりじゃないか?
信じていたものがガラガラと音を立てて崩れていく気がした。
それでも……それでも嫌いになれないんだから、どうしようもない。
俺はわざとらしく、「そ、そういえばレポートで忙しくなるんだった……。今日も資料貸してくれるやつと会う約束してて――ごめん、千歳くん、今日はもう上がっていいかな? それとしばらく……休ませて?」
俺はふたりを前に冷静でいられる気がしなくて、千歳くんの返事も聞かずにそのまま家に逃げるようにして帰った。
「紫央? おい――っ?!」
焦った千歳くんの声だけが追いかけるけど、俺は全力でそれを振り切って逃げたんだ。
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