恋の賞味期限はいつですか?

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
6 / 15

しおりを挟む
 いつものように講義が終わるとすぐに大学から千歳くんの店に直行した。お隣りとはいえ家に寄る僅かな時間も惜しいのだ。

 今の状況に納得してるわけでもつらくないわけでもないけど、千歳くんがお菓子を作る姿を見るのは好きだった。本当に楽しそうに作ってるんだ。そんな千歳くんを見られて幸せじゃないはずがない。

 そりゃあお菓子ばかりじゃなくて少しは俺の方も見てよって思うけど、手を伸ばせば届く距離に千歳くんはいるのだ。
 俺は少なくとも彼女たちよりは恵まれている。傍にいる事はできるのだ。たとえ長年放置されたとしても俺は今千歳くんの傍にいる。誰よりも近くに。
 今はそれだけで満足しなくては。


 店のドアを開けるとなにやら深刻そうな、誰かと通話する千歳くんの声が聞こえてきた。

「――いや、だから……それは……っ。だけど……。――わかった……。待ってる、から」

 すぐに俺に気づいて千歳くんはバツの悪そうな顔をして、慌てて通話を終えた。
 俺は千歳くんのその様子に眉を顰めた。

 ――え? 何?

 隠し事なんて沢山されていると思う。それは仕方のない事だって思ってる。だけどこれは何だか胸がざわざわとして落ち着かない。
 実は時々見かけた誰かと通話する姿。いつもどこか焦ったような声で、それでいて時々顔を真っ赤にさせたりして、通話の相手が仕事関係でも普通の友だちでもないんだと思わせた。

 待ってるって何? その人と会うって事? 何で? 何の用で?
 その人は誰――?

 千歳くんの耳に光るピアスがやけにキラキラと自己主張しているように見えて、俺の知らない千歳くんに胸がぎゅっとなる。

 ある『答え』がそこに見える気がするが、そんなのは認められなくて俺は一度だけぎゅっと目を瞑り自分に都合の悪い事は全部なかった事にした。


*****

「紫央、ちょっとこっちに」

 呼ばれて行けば、千歳くんの手が目前に迫ってきて口元についていた何かを取った。

「まったくまたお菓子食ったんだろうー。着替える時に顔も洗ってこいよ?」

「――あ……」

「ん? どうした?」

「――貰ったんだ」

 ドキドキといつもより早い鼓動。少しだけ手が震えてしまうのは罪悪感からなのかなんなのか。

「へぇ。――誰に?」

 こういうのダメだって分かってる。だけど――。

「大学で……女の子に」

「――へ? そ……そうなんだ……。やっぱ紫央はモテるな」

 驚いた顔をしたのにすぐに何でもない事のように笑う千歳くん。
 そんな風に笑う千歳くんは――嫌い。

 やっぱり俺の事幼馴染で、弟……くらいにしか思ってない……?
 告白した時返事を先送りしたのは、はっきりと断って俺を傷つけないように?

 俺はずるいやり方で千歳くんの気持ちを試そうとした。
 そして見事に玉砕したわけだ。

 千歳くんは俺に特別な感情なんて抱いていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

とある辺境伯の恋患い

リミル
BL
鉄仮面な辺境伯(42)×能天気マイペースな男爵家四男(17) イディオス男爵の四男であるジゼルは、家族や周りから蝶よ花よと愛されて育ってきた我儘令息だ。 上の兄達は独立したが、我儘放題のジゼルに両親は手を焼いていた。 自立するよう促され、是が非でも働きたくないジゼルは貴族達に婚姻の文を送りまくる。唯一、ジゼルを迎え入れると返答したのは、辺境伯のルシアスだった。 色よい返事がくるとは思いもしなかったジゼルは、婚約を破談にさせようととんでもない我儘をぶつけるが、ルシアスは嬉々としてそれを受け入れるばかりで──。

俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ
BL
『俺のかわいい婚約者さま』 及川薫28歳は、見た目がごつくお見合い相手さえみつからない熊のような容姿の男性Ωである。 「薫!お前に婚約者ができたぞ!」 いくらお見合い話を打診してみても見合いの席にすら着く事もできなかったこの10年。なのに婚約者ができた? 混乱状態のままの薫の元に現れたのは――14歳の天使だった。 🌸かわいい〇〇さまシリーズ🌸纏めていきます。 『俺のかわいい婚約者さま』『俺のかわいい幼馴染さま』 『僕のかわいいこぐまさま』『もう少しだけ待っていて』 『俺のかわいい婚約者さま・続』

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話

こぶじ
BL
聡明な魔女だった祖母を亡くした後も、孤独な少年ハバトはひとり森の中で慎ましく暮らしていた。ある日、魔女を探し訪ねてきた美貌の青年セブの治療を、祖母に代わってハバトが引き受ける。優しさにあふれたセブにハバトは次第に心惹かれていくが、ハバトは“自分が男”だということをいつまでもセブに言えないままでいた。このままでも、セブのそばにいられるならばそれでいいと思っていたからだ。しかし、功を立て英雄と呼ばれるようになったセブに求婚され、ハバトは喜びからついその求婚を受け入れてしまう。冷静になったハバトは絶望した。 “きっと、求婚した相手が醜い男だとわかれば、自分はセブに酷く嫌われてしまうだろう” そう考えた臆病で世間知らずなハバトは、愛おしくて堪らない英雄から逃げることを決めた。 【堅物な美貌の英雄セブ×不憫で世間知らずな少年ハバト】 ※セブは普段堅物で実直攻めですが、本質は執着ヤンデレ攻めです。 ※受け攻め共に、徹頭徹尾一途です。 ※主要人物が死ぬことはありませんが、流血表現があります。 ※本番行為までは至りませんが、受けがモブに襲われる表現があります。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...