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2 お菓子を愛する訳 ①
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大学で女の子から手作りクッキーを貰った。確かグループワークで一度だけ一緒になった子だった。物静かな子で言葉を交わしたのはひと言ふた言だったと記憶している。
俺は焼き菓子店でバイトもしているし、構内でもよく千歳くんのお菓子を食べている。その姿を見て俺が甘い物が好きだと知ったのだろう。よくこういう風にお菓子を貰う事がある。お菓子に罪はないし全部を受け取る事にしているわけだけど、ただ同じ受け取るにしてもそれに特別な意味を持たせないように軽い感じで受け取るようにしていた。
大切な想いを誤魔化して悪いけど、できれば告白はして欲しくない。
俺は千歳くん以外の気持ちを受け取るつもりはないから、傷ついて欲しくないのだ。その代わり、貰ったお菓子は全部自分で大切に食べている。
そんな自己満で、罪滅ぼしのような事をしてみても彼女たちに出来るだけ告白をさせないのも、されても受け入れないのも変わらない。
彼女たちの想いは俺が千歳くんに対する想いと同じなんだ。誤魔化され宙ぶらりんの俺もまた千歳くんと同じ事をしている? だとしたら俺は、
「どうすれば良いのかな……」
そんな俺の呟きは誰の耳にも届かずに風に消えていった。
これすらただの偽善者の呟きにしか思えなかった。どこでこんなに拗れてしまったんだろうか。
貰ったばかりの綺麗にラッピングされた袋を開け、入っていたクッキーを一枚取り出す。
どこも焦げておらず、形も綺麗なクッキー。パクリと食べて咀嚼するとサクサクというクッキーを砕く音がして、俺の心を昔の思い出へと飛ばした。
*****
今から10年程前、当時中学生だった千歳くんがクッキーをくれた。というか俺が無理矢理貰った。
学校の家庭科の授業で作ったそうだ。俯き泣きそうな顔の千歳くん。いつもの年上の余裕のような、俺を包み込む優しい笑顔はそこにはなかった。
何がそんなに悲しいの? ひとりでこっそり食べるつもりだった? それとも俺じゃない誰かにあげるつもりだった?
俺は少しだけムっとして包みを開けるとよく分からない物がごちゃっと入っていて驚いた。匂いからしてお菓子のはずなのに――?
ぱちぱちと瞬きをして、よく見るとやっぱりクッキーのようだ。
だけどいつもおやつに食べる物とは明らかに違っていた。所々焦げていて割れている物も多かった。
ああそうか、と思った。千歳くんはこれを俺に見せたくなかったんだ。
千歳くんは俺より7つも年上で、何だって上手にこなす。俺はいつだってそんな千歳くんの事を「すごいすごい!」って言って尊敬の眼差しで見ていた。
だから――。
俺は一番焦げていそうなクッキーをあえて選び口の中に入れた。
それを見た千歳くんが慌てて両手を差し出して吐くように言った。
俺は頭をぶんぶんと左右に振って、咀嚼を続けた。
いつもより苦く、いつもより硬いクッキー。
そして飲み込むと今度は比較的焦げが少ない物を一枚取り出し千歳くんの口の中に放り込んだ。
「おいしいね。ちとくんのおかし、いっしょに食べるとすごくおいしいね」
そう言ってにこにこと笑えば千歳くんは真っ赤な顔で「うん!」って言ったんだ。
俺ね、その時千歳くんの事を好きになったんだと思う。それまでも大好きなお兄さん、だとは思っていた。だけど年も離れていて、千歳くんが俺と一緒にいない時に何をしていたって気にならなかったし、この先もずっと一緒にいたいだなんて事は思っていなかった。
俺の両親の事もあって大人は忙しいものだと分かっていた。年上の千歳くんが先に大人になる事も分かっていた。
だから一緒にいられるのは今だけだって思っていたんだ。
ただのお隣りのお兄さんだったならそれでも良かった。
だけどその日、千歳くんは『お隣りのお兄さん』から『可愛い俺の大好きな人』に変わったんだ。
俺は焼き菓子店でバイトもしているし、構内でもよく千歳くんのお菓子を食べている。その姿を見て俺が甘い物が好きだと知ったのだろう。よくこういう風にお菓子を貰う事がある。お菓子に罪はないし全部を受け取る事にしているわけだけど、ただ同じ受け取るにしてもそれに特別な意味を持たせないように軽い感じで受け取るようにしていた。
大切な想いを誤魔化して悪いけど、できれば告白はして欲しくない。
俺は千歳くん以外の気持ちを受け取るつもりはないから、傷ついて欲しくないのだ。その代わり、貰ったお菓子は全部自分で大切に食べている。
そんな自己満で、罪滅ぼしのような事をしてみても彼女たちに出来るだけ告白をさせないのも、されても受け入れないのも変わらない。
彼女たちの想いは俺が千歳くんに対する想いと同じなんだ。誤魔化され宙ぶらりんの俺もまた千歳くんと同じ事をしている? だとしたら俺は、
「どうすれば良いのかな……」
そんな俺の呟きは誰の耳にも届かずに風に消えていった。
これすらただの偽善者の呟きにしか思えなかった。どこでこんなに拗れてしまったんだろうか。
貰ったばかりの綺麗にラッピングされた袋を開け、入っていたクッキーを一枚取り出す。
どこも焦げておらず、形も綺麗なクッキー。パクリと食べて咀嚼するとサクサクというクッキーを砕く音がして、俺の心を昔の思い出へと飛ばした。
*****
今から10年程前、当時中学生だった千歳くんがクッキーをくれた。というか俺が無理矢理貰った。
学校の家庭科の授業で作ったそうだ。俯き泣きそうな顔の千歳くん。いつもの年上の余裕のような、俺を包み込む優しい笑顔はそこにはなかった。
何がそんなに悲しいの? ひとりでこっそり食べるつもりだった? それとも俺じゃない誰かにあげるつもりだった?
俺は少しだけムっとして包みを開けるとよく分からない物がごちゃっと入っていて驚いた。匂いからしてお菓子のはずなのに――?
ぱちぱちと瞬きをして、よく見るとやっぱりクッキーのようだ。
だけどいつもおやつに食べる物とは明らかに違っていた。所々焦げていて割れている物も多かった。
ああそうか、と思った。千歳くんはこれを俺に見せたくなかったんだ。
千歳くんは俺より7つも年上で、何だって上手にこなす。俺はいつだってそんな千歳くんの事を「すごいすごい!」って言って尊敬の眼差しで見ていた。
だから――。
俺は一番焦げていそうなクッキーをあえて選び口の中に入れた。
それを見た千歳くんが慌てて両手を差し出して吐くように言った。
俺は頭をぶんぶんと左右に振って、咀嚼を続けた。
いつもより苦く、いつもより硬いクッキー。
そして飲み込むと今度は比較的焦げが少ない物を一枚取り出し千歳くんの口の中に放り込んだ。
「おいしいね。ちとくんのおかし、いっしょに食べるとすごくおいしいね」
そう言ってにこにこと笑えば千歳くんは真っ赤な顔で「うん!」って言ったんだ。
俺ね、その時千歳くんの事を好きになったんだと思う。それまでも大好きなお兄さん、だとは思っていた。だけど年も離れていて、千歳くんが俺と一緒にいない時に何をしていたって気にならなかったし、この先もずっと一緒にいたいだなんて事は思っていなかった。
俺の両親の事もあって大人は忙しいものだと分かっていた。年上の千歳くんが先に大人になる事も分かっていた。
だから一緒にいられるのは今だけだって思っていたんだ。
ただのお隣りのお兄さんだったならそれでも良かった。
だけどその日、千歳くんは『お隣りのお兄さん』から『可愛い俺の大好きな人』に変わったんだ。
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