ご機嫌なα

ハリネズミ

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分からない気持ち

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「あ…、美園くん、帰って来た…よ」

「へ?あ…しぐれ!」

「芦崎くん来てくれてたの?ごめんねぇ。先輩に呼ばれてたの」

「――先輩…?」

「うん。あのね僕宮城みやぎ先輩と番いになる事に決めたの。今まで通ってくれてありがとう」

そう言ってしぐれはにっこりと微笑んだ。

「そっか――。幸せになれよ?」

自然とそんな言葉が出た。本心だった。
さて用事も済んだ事だし自分の教室に戻る前に花井にも挨拶を、と思うが姿が見えない。少し残念に思いながらもしぐれの元を後にした。

自分でもびっくりするくらいなんともなかった。
辛くも悲しくもない。

何だろうな?
人にはよく『ご機嫌なα』だって言われてる。
腹が立ってもすぐに忘れちゃうし割と毎日楽しく生きている。
自分でももしかして俺はαじゃなくてβなんじゃ?って思う事もある。
一般的なαみたいに孤独も感じていなけりゃ死ぬほどΩを求めているわけじゃなかった。
そりゃあ癒して欲しいし番は欲しい、と思う。

俺はαだから番探しは真剣に取り組んでいる風に見せている。
いくらご機嫌なαであってもαである以上そうしないといけないような気がして。
だけど他のαと違って俺の心はいつも穏やかだ。
だから朱緒の傍にいてやれたっていうのもある。
普通ならいくら友人の事が心配でも自分の番探しを優先させる。それは薄情とかそういう事ではなく、遺伝子に刻まれたものだから仕方のない事だ。
俺は他のαのように切羽詰まっていなかったから、だから今もしぐれが別の人を番に選んだと聞いてもそっかくらいにしか思わない。
まぁでも他の子探さないといけないのは確かなんだけど。
どうもピンとこないんだよな。

そんな事を考えながら渡り廊下から少し外れた場所で、ぼんやりと遠くを眺め午後の授業サボるかなーと考えていると、視線の先でちょこちょこと動き回り何かをしている花井を見つけた。
ぱあっと心が華やぐ。

ここは校舎を繋げる渡り廊下で、雨が凌げる程度の屋根が申し訳程度についているだけで外と一体化していた。

何してるんだろ?上履きが少し土で汚れてしまっている。
何かを必死に探してる?
気になって花井に声をかけてみる事にした。

「なぁ」

花井はびっくりしたようで「ひゃ!?」なんて可愛い声をあげて飛び上がった。

「――あ、ごめん。何か探してるのか?」

「え?あ…芦崎…くん。えっと…大事に…して、た…ペン…なくし…ちゃって…」

きょどきょどと視線を彷徨わせる花井。

「どんなペン?」

「えっと…僕、探す、から…あの…」

「いいからいいから。二人で探した方が早いって」

にかっと笑って見せると花井は顔を真っ赤にさせ俯いたままぼそぼそと話した。

「猫がついた…の」

「りょうかーい」

さっきも言ったように廊下を外れると外で土もあれば草木も生えている。
手入れはされているはずなのに草の背が高くなっていて、落としたのがそこなら見つけるのは困難だろう。
とりあえず草を掻き分け探してみる。
すると草の青臭い匂いに交じってふわりといい匂いがした。
さっき嗅いだ花井のシャンプーの匂いだ。
すんすんと鼻を鳴らし匂いの元を探す。
すると猫がついたペンが落ちていた。

こんなに匂いってつくものなのか??
疑問に思うが俺はご機嫌なαだから細かい事は気にしない。
ペンを拾い上げシャツの裾で綺麗に拭く。

「花井、あったぞー」

掲げて見せたペンを見て花井の表情がぱっと輝いた。
どきんと心臓が跳ねた。
あ、れ?何で?

「あり…がとう……」

ペンを受け取った花井は大事そうに胸に抱きしめた。
そんなに大事な物だったんだな。見つかった本当によかった。

「―――よかったな。じゃあ…俺教室戻るわ」

「あ…、うん」

そう言ったもののその場を去りがたく、次に会う約束とまでは言えないけど

、な?」

と言うと花井もそれに応えてくれた。

「うん。……」

後ろ髪を引かれる思いでゆっくりとその場を離れた。

俺は何故か花井と一緒にいると胸がどきどきした。
もっと色々な事を話したいし、ずっと一緒にいたいと思った。

そう思うのにその時の俺にはこの気持ちに名前を付けてしまう事が少しだけ、怖かった。
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