14 / 23
8 クリスマスの夜に ①
しおりを挟む
ぴちゃぴちゃといやらしく響く水音。
部屋に入るなり深い、貪るような口づけを交わした。気持ちが通じ合ってすぐ、だなんて早急過ぎるかなと思わなくもないが今日は恋人たちのクリスマスイブだ。お互いの気持ちを確かめ合った今、もう何も遠慮する事はないのだ。
*****
公園で気持ちが通じ合った後、涼くんは一度家に帰りたいと言った。
一度? もう遅いし彼は高校生だし今日はこのままお別れだと思っていたから少しびっくりして訊き返してしまった。そうしたら涼くんは恥ずかしそうに少しだけ頬を赤く染めて、
「恋人なんですから――えっと……クリスマスは一緒に――居たい、です」
頭では『恋人たちのクリスマス』と言いながらその言葉の意味をちゃんとは理解していなかった。涼くんから言われてぼわりと顔が真っ赤に染まる。
「あの……俺、太郎さんさえ良ければ……恋人らしい事、したい……です」
したい、何を?なんて野暮な事は訊かない。
普段は無口だった涼くんが一生懸命こんな俺と一緒に居たいと言ってくれた。恋人らしい事をしたいって言ってくれた。
恥ずかしいけど嬉しくて、嬉しすぎてたまらない。
そしてハッとする。
「――あ、俺……ゼンに……」
ゼンになって少しでも彼にお似合いの自分でいたい――。
なのに涼くんは眉間の皺をより深めた。
「――それはナシにしませんか? 俺はあなたがどちらでも好きだけど、あなたは太郎さんで、ゼンさんはあなたの一面にすぎません。だから初めてはあなたのままがいい――――」
そして微笑んだんだ。
俺は言葉もなくて。
涼くんは本当に素の俺の事を好きなんだと言ってくれているようで――。
涼くんは俺が自分の事を怖がらずちゃんと見てくれたって言ってくれたけど、涼くんの方こそ俺の事をちゃんと見てくれていたんだ。
ほにゃりと笑うと涼くんは少し慌てたように、
「やっぱり帰るの止めにします。ちょっと一回家に連絡だけ入れさせてください」
少し早口にそう言って、いそいそとスマホをポケットから取り出した。
聞こえてくる涼くんの少しぶっきらぼうな感じもするけど、いつもより少しだけ高い穏やかな声。
涼くんは素ではこんな感じでしゃべるんだ。
涼くんの通話が終わると俺たちは無言で手を繋ぎ、少しだけ早足になって俺の家へと向かった。
少し前から降り始めた雪がふわりふわりと俺たちの周りを舞っている。頬に当たって冷たいはずなのに少しも冷たくなくて。
涼くんとふたり、ちっとも寒くなんかなかった。
部屋に入るなり深い、貪るような口づけを交わした。気持ちが通じ合ってすぐ、だなんて早急過ぎるかなと思わなくもないが今日は恋人たちのクリスマスイブだ。お互いの気持ちを確かめ合った今、もう何も遠慮する事はないのだ。
*****
公園で気持ちが通じ合った後、涼くんは一度家に帰りたいと言った。
一度? もう遅いし彼は高校生だし今日はこのままお別れだと思っていたから少しびっくりして訊き返してしまった。そうしたら涼くんは恥ずかしそうに少しだけ頬を赤く染めて、
「恋人なんですから――えっと……クリスマスは一緒に――居たい、です」
頭では『恋人たちのクリスマス』と言いながらその言葉の意味をちゃんとは理解していなかった。涼くんから言われてぼわりと顔が真っ赤に染まる。
「あの……俺、太郎さんさえ良ければ……恋人らしい事、したい……です」
したい、何を?なんて野暮な事は訊かない。
普段は無口だった涼くんが一生懸命こんな俺と一緒に居たいと言ってくれた。恋人らしい事をしたいって言ってくれた。
恥ずかしいけど嬉しくて、嬉しすぎてたまらない。
そしてハッとする。
「――あ、俺……ゼンに……」
ゼンになって少しでも彼にお似合いの自分でいたい――。
なのに涼くんは眉間の皺をより深めた。
「――それはナシにしませんか? 俺はあなたがどちらでも好きだけど、あなたは太郎さんで、ゼンさんはあなたの一面にすぎません。だから初めてはあなたのままがいい――――」
そして微笑んだんだ。
俺は言葉もなくて。
涼くんは本当に素の俺の事を好きなんだと言ってくれているようで――。
涼くんは俺が自分の事を怖がらずちゃんと見てくれたって言ってくれたけど、涼くんの方こそ俺の事をちゃんと見てくれていたんだ。
ほにゃりと笑うと涼くんは少し慌てたように、
「やっぱり帰るの止めにします。ちょっと一回家に連絡だけ入れさせてください」
少し早口にそう言って、いそいそとスマホをポケットから取り出した。
聞こえてくる涼くんの少しぶっきらぼうな感じもするけど、いつもより少しだけ高い穏やかな声。
涼くんは素ではこんな感じでしゃべるんだ。
涼くんの通話が終わると俺たちは無言で手を繋ぎ、少しだけ早足になって俺の家へと向かった。
少し前から降り始めた雪がふわりふわりと俺たちの周りを舞っている。頬に当たって冷たいはずなのに少しも冷たくなくて。
涼くんとふたり、ちっとも寒くなんかなかった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。

BL短編まとめ(甘い話多め)
白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。
主に10000文字前後のお話が多いです。
性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。
性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。
(※性的描写のないものは各話上部に書いています)
もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。
その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。
【不定期更新】
※性的描写を含む話には「※」がついています。
※投稿日時が前後する場合もあります。
※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
■追記
R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます)
誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる