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8 クリスマスの夜に ①

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 ぴちゃぴちゃといやらしく響く水音。
 部屋に入るなり深い、貪るような口づけを交わした。気持ちが通じ合ってすぐ、だなんて早急過ぎるかなと思わなくもないが今日は恋人たちのクリスマスイブだ。お互いの気持ちを確かめ合った今、もう何も遠慮する事はないのだ。


*****

 公園で気持ちが通じ合った後、涼くんは一度家に帰りたいと言った。
 一度? もう遅いし彼は高校生だし今日はこのままお別れだと思っていたから少しびっくりして訊き返してしまった。そうしたら涼くんは恥ずかしそうに少しだけ頬を赤く染めて、

「恋人なんですから――えっと……クリスマスは一緒に――居たい、です」

 頭では『恋人たちのクリスマス』と言いながらその言葉の意味をちゃんとは理解していなかった。涼くんから言われてぼわりと顔が真っ赤に染まる。

「あの……俺、太郎さんさえ良ければ……恋人らしい事、したい……です」

 したい、何を?なんて野暮な事は訊かない。
 普段は無口だった涼くんが一生懸命こんな俺と一緒に居たいと言ってくれた。恋人らしい事をしたいって言ってくれた。
 恥ずかしいけど嬉しくて、嬉しすぎてたまらない。

 そしてハッとする。

「――あ、俺……ゼンに……」

 ゼンになって少しでも彼にお似合いの自分でいたい――。
 なのに涼くんは眉間の皺をより深めた。

「――それはナシにしませんか? 俺はあなたがどちらでも好きだけど、あなたは太郎さんで、ゼンさんはあなたの一面にすぎません。だから初めてはあなたのままがいい――――」

 そして微笑んだんだ。

 俺は言葉もなくて。
 涼くんは本当に素の俺の事を好きなんだと言ってくれているようで――。

 涼くんは俺が自分の事を怖がらずちゃんと見てくれたって言ってくれたけど、涼くんの方こそ俺の事をちゃんと見てくれていたんだ。
 ほにゃりと笑うと涼くんは少し慌てたように、

「やっぱり帰るの止めにします。ちょっと一回家に連絡だけ入れさせてください」

 少し早口にそう言って、いそいそとスマホをポケットから取り出した。
 聞こえてくる涼くんの少しぶっきらぼうな感じもするけど、いつもより少しだけ高い穏やかな声。
 涼くんは素ではこんな感じでしゃべるんだ。

 涼くんの通話が終わると俺たちは無言で手を繋ぎ、少しだけ早足になって俺の家へと向かった。

 少し前から降り始めた雪がふわりふわりと俺たちの周りを舞っている。頬に当たって冷たいはずなのに少しも冷たくなくて。

 涼くんとふたり、ちっとも寒くなんかなかった。
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