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6 最後の賭け

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 なけなしの勇気を出した結果、涼くんがバイトちゃんと仲良く商品を棚に並べているのを見てしまった。

 そうなる事を望んでいたはずだった。柄にもなく説教じみた事までして……涼くんの隣りにはあの子のような『本物』がいいに決まってる。
 良かったと思わなくてはいけない。
 涼くんが幸せならそれでいい。本当は俺が涼くんの事を幸せにしたかったけど、俺じゃあ役不足だったって事だ。どんなに着飾って作り上げてみたって本物には敵わない。

 恋の終わりはこんなものかとうそぶいて、空っぽになってしまった心を何かで埋めてしまおうと部屋の隅に積み上げられた苺チョコを手に取った。口の中にひとつ、またひとつと放り込む。
 甘いはずなのにしょっぱくて、「ちっとも美味しくなんかない」と呟いた。


 それから数日が過ぎ、明日はクリスマスイブ。本当なら涼くんと恋人になって初めてのクリスマスだから絶対に一緒に過ごしたいと思っていた。
 壁に掛けられたカレンダーをぼんやりと見つめていると、チリンという音がした。スマホにメッセージが届いたのだ。どうせ会社の誰かが送ったクリスマス会のお知らせだろうと画面を見ると、涼くんからのメッセージだった。だけどそれはいつもとは違って、『会いたい』という初めての恋人らしい内容だった。

 最初からこのメッセージが来ていたなら何かが違っていたかもしれない。だけど――。

 折角終わらせようとした恋心が「まだもう少し」と。
 何度もう終わったのだと自分に言い聞かせてみても、『会いたい』という言葉が涼くんの声で何度も囁く。

 この恋を完全に終わらせる為に俺は『賭け』に出てみる事にした。
 
 太郎とゼンでそれぞれ別の場所に涼くんを呼び出す――――。


*****

 ゼンとして初めてメッセージを送る。

 『お返事できなくてごめんなさい。24日お話があります。19時に〇〇公園に来て下さい♡ ゼン』

 送信ボタンをタップし、今度は手紙を書く。

 『突然の事ですみません。24日お話したい事があります。よかったら19時にxx公園に来て下さい。待ってます。  小染 太郎』

 俺は手紙を書き上げたその足でコンビニに行き、涼くんを探した。いきなり明日会いたいと言われてももう他に約束があるかもしれないし、涼くんのシフトを知っているわけではないのでいない可能性もあった。もしいなかったら俺の賭けはその時点で負けだ。
 先にバイトちゃんを見つけ足が竦むがその隣りに涼くんを見つけ、もう彼の姿しか見えない。
 これで最後にするから、許して――。無理矢理涼くんに手紙を握らせて驚き固まる涼くんを残し、逃げるようにその場から離れた。
 


 決戦は明日の12月24日。恋人たちのクリスマス。
 初めての恋を終わらせるのに相応しい――日。
 
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