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3 勘違い

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「俺の恋人になりますか?」

 何度も頭の中でリフレインする彼の言葉。
 俺は夢中で何度も何度も頭を縦に振り続けていた。
 そこにチャラメンがやってきて、彼は俺を後ろに隠すようにして守ってくれた。俺は彼の後ろで黙って俯いていた。チャラメンが怖くて――というわけではなく、チャラメンから庇ってくれた事や彼と恋人になれた事が嬉しくて、どうしようもなくにやけてしまう顔を隠す為だった。

 チャラメンは俺と彼の様子を見て何か言いたそうにしていたが、彼のひと睨みで盛大に舌打ちをしただけで、ひとりで帰って行った――。
 こんな事を優しい彼にさせてしまった事に胸が痛んだが、彼と知り合いどころか恋人になれた事が死ぬほど嬉しかった。

 彼と恋人になれた!


*****

 彼の名前は広瀬 涼ひろせ りょうくん。高校二年生の17才。
 涼くんは名乗ってくれたのだから俺の方も名乗るのが筋ではあるけど、本名なんて名乗れるはずがない。今の俺は僕で、太郎ではなくゼンなのだ。だから『ゼン』とだけ名乗った。それ以上涼くんは深くは訊かなかったし、「ゼンさん」と呼ぼうとしたので「ゼン」と呼び捨てにしてくれるように頼んだ。が、呼び捨ては涼くんには難しいようだった。
 僕は16才という事になっているのに、涼くんはなぜか敬語を使う。まぁ涼くんは真面目な性格だし、たとえ年下であっても敬語を使うのかもしれない。


 涼くんからの愛を得て、無敵状態にでもなったかのように舞い上がってしまっていた。何にでも幸せを感じてしまうほどふわふわとして疲れなんか一切感じない。
 元々ゼンの姿でコンビニに行くようになってからは太郎で行く事は減ってはいたが、付き合い始めてからは太郎の姿でコンビニへ行く事を一切止め、一度家に帰ってゼンに変身してからコンビニに行くという非常に面倒くさい事を続けていた。
 そんな事をする一番の理由は恋人として涼くんに会いたいというのもあるけど、連絡先を交換して一ヶ月が過ぎても涼くんからの連絡が一度もない事に不安を感じていたからだ。
 俺の方から連絡をすればいいのかもだけど、俺は毎日コンビニに涼くんに会いに行っている。だからできれば一番最初の連絡は涼くんの方からして欲しいのだ。
 コンビニで会えば涼くんとよく目が合うようになったけどすぐ逸らされてしまうし、涼くんの方から話しかけてはくれなかった。だから未だに苺チョコを買い続けているんだ。話題作りみたいな――? ちっとも役に立っていないけど。

 えっと……? 俺たちちゃんと付き合ってるんだよな……?

 愛が育っていくはずが、不安ばかりがどんどん大きくなっていく。
 チャラメンの方も相変わらずゼンにちょっかいをかけようとしてくるし、ものすごく鬱陶しい。そういう時は涼くんは牽制じみた睨みをチャラメンに向けてくれるけど、それだけだ。

 あれ? 本当におかしいぞ? 俺たちコンビニで会うだけで完結してしまっている。これって本当に付き合ってるって言えるのか?
 いやいや待て待て、涼くんは真面目なだけじゃなく、きっと照れ屋さんなんだ。だから自分から誘えないだけなんだ。ここは意地を張らず、涼くんが誘えないなら俺が誘えばいい。俺だって慣れてないし恥ずかしいけど、こんな姿をして16才だって偽っていても実際は34才のいい大人だ。デートに誘うくらいなんて事はない。
 ドキドキと煩い心臓が口から飛び出てしまうんじゃないかってくらい緊張しながら涼くんに声をかけてみた。

「あの……。きょ……今日バイト終わったら、一緒に、帰りませんかっ……?」

 まずは一緒に帰る、これだって立派なデートのはずだ。
 下から見上げ涼くんの返事を待つ――間もなく即座に、

「いや、待たないで下さい」

 はっきりとした拒絶。涼くんの返事にひゅっと喉が鳴った。
 そ、そっかぁ……これではっきりした。こないだの恋人云々はただチャラメンから助けてくれただけなんだ。調子に乗って名前教えてもらって連絡先ゲットーって浮かれてさ、だけど自分は『ゼン』ってだけで他の事は一切教えず――。それでもそれ以上訊かれなかったのは単に俺に興味がなかった――から……? 本当は付き合っていなかった――から?

「ごめ……なさぃ……」

 それだけ言うのがやっとだった。俺は泣き顔を見られないように俯き走ってコンビニを後にした。

 無敵状態には時間制限があるって事をその時初めて思い出していた
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