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③ @乾 大輝
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初日すぐに園田はミスをしてしまったが、まだ挽回は可能だと思い僕はなにも言わなかった。これで追い出してしまうには惜しいと思ったのだ。
その後園田は何度も美晴に声をかけては撃沈していた。無視されるということはないが、笑顔で対応しているように見えて両者の間にははっきりとした分厚い壁が見えた。それから作戦を変えたのか話しかけるのは挨拶だけにとどめ、美晴の周りをうろちょろしてはこっそりメモをとっていた。
本人はいたって真面目な様子でバレていないと思っているようだったが、「バレてるから」と笑いが込み上げてきたが、美晴に危害を加える様子はなかったので僕の方もなにも言わず様子をみることにした。
そして一週間が過ぎ二週間が過ぎる頃、変化が起こった。夕食後、美晴がリビングで勉強を始めたのだ。
ここにふたりで住むようになって、僕以外の誰かがいる状況で夕食後に自分の部屋から出てくることは無かったことだったから、美晴も園田に対してなにかしら感じているのかもしれない。
僕は内心驚いて、リビングへは入らず影からこっそりふたりの様子を見ていた。
すると驚くことに美晴は勉強を教えてもらい笑顔まで見せているじゃないか。キラキラと園田を見つめる目にあの頃を思い出し、思わず口元が緩んだ。
それからは穏やかな日々が過ぎて、僕も少しだけ安心して眠れるようになっていた。
――――そしてなにが起こったのか、美晴と園田とふたりともが自分の部屋に閉じ籠るという困ったことになっていた。両者とも僕が声をかけてもノックをしても返事もしないから仕方なく軽食を部屋の前に置き様子を見ていた。
何の変化もないまま数日が過ぎ、美晴は部屋の前に置かれたごはんを回収してちゃんと食べてくれたが園田は手付かずのまま残されていた。
この状況に僕は内心がっかりしていた。
そして腹が立っていた。あれだけ期待させたくせになんだよって――。
だから強硬手段に出て、園田の部屋に無理矢理突入してその時のことを尋ね、「俺は――美晴を傷つけた……」という返事に胸がギュッとなった。
やはりこの男もダメだったのか、と嫌味のように伝えた美晴の現状に園田はひどく驚き、心配して見せた。
この男は今までの人とは違う? 確信に変えたくて突っ込んだ質問をした。
そうして思ったのは、『園田は救世主になり得る』ということ。
だけどこのままではダメだと思い、僕は美晴がどうして火傷を負ってしまったのか、どうしてふたりでここに住んでいるのか、どうして『一日一回褒めるだけの簡単なお仕事です。』を始めたのかについても話した。
話して、晒して、フラッシュバックを起こし息ができなくなって――なにかが唇に触れた。
吹き込まれた息にすぐに呼吸できるようになったけど、混乱していた僕にはなにがなんだか分からなかった。ただ自分の罪を告白し、懺悔したかった。懺悔して許してもらいたかった。この男であればそうできると思ったのだ。
許されたその先に救いはあると思っていたから――。
*****
唇に触れたなにか――、後からあれは園田の唇だったのだと気づいた。
だけど呼吸ができなくなった僕への人工呼吸的な意味しかないものだろう。
その後もなぜか抱きしめられていたけど、それも特別な意味なんてないはずだ。
美晴と違って僕には人から好かれる要素なんてありはしない。
だって僕は人を不幸にするダメな人間なのだから――。
それでも僕の唇に園田の唇が、――あの腕に抱きしめられたのだと思うとなんだか顔が合わせづらくて、園田のことを避けてしまった。
頭を掻きながら気まずそうに去って行くあなたの後ろ姿を見ると胸がチクリと痛むのはどうしてだろう。
もしもこれが恋、なのだとしたら……。
想いを振り払うように頭を振る。
――僕にそんな資格なんてない。
*****
それから美晴は涼雨という少年のお陰で本当の笑顔を取り戻したのだと園田から聞いた。
僕が心から願っていたことだった。だから嬉しいはずなのに、なぜか心は空っぽで満たされない。
僕はどうしたらいい?
美晴があの頃みたいに笑ってくれたらすべてが元通りになると思っていた。
僕と美晴と両親と、みんなで笑いあえると思っていた。
だけど――――。
僕が先頭に立ち、すべてのことから美晴を守ってるつもりで繋いでいた手をいきなり離されて、僕は前にも後ろにも行けずその場から動けなくなってしまった。
僕は目標を失い迷子になってしまった。
僕はなにも許されていないから。
僕はひとりで、……どうしたらいい?
その後園田は何度も美晴に声をかけては撃沈していた。無視されるということはないが、笑顔で対応しているように見えて両者の間にははっきりとした分厚い壁が見えた。それから作戦を変えたのか話しかけるのは挨拶だけにとどめ、美晴の周りをうろちょろしてはこっそりメモをとっていた。
本人はいたって真面目な様子でバレていないと思っているようだったが、「バレてるから」と笑いが込み上げてきたが、美晴に危害を加える様子はなかったので僕の方もなにも言わず様子をみることにした。
そして一週間が過ぎ二週間が過ぎる頃、変化が起こった。夕食後、美晴がリビングで勉強を始めたのだ。
ここにふたりで住むようになって、僕以外の誰かがいる状況で夕食後に自分の部屋から出てくることは無かったことだったから、美晴も園田に対してなにかしら感じているのかもしれない。
僕は内心驚いて、リビングへは入らず影からこっそりふたりの様子を見ていた。
すると驚くことに美晴は勉強を教えてもらい笑顔まで見せているじゃないか。キラキラと園田を見つめる目にあの頃を思い出し、思わず口元が緩んだ。
それからは穏やかな日々が過ぎて、僕も少しだけ安心して眠れるようになっていた。
――――そしてなにが起こったのか、美晴と園田とふたりともが自分の部屋に閉じ籠るという困ったことになっていた。両者とも僕が声をかけてもノックをしても返事もしないから仕方なく軽食を部屋の前に置き様子を見ていた。
何の変化もないまま数日が過ぎ、美晴は部屋の前に置かれたごはんを回収してちゃんと食べてくれたが園田は手付かずのまま残されていた。
この状況に僕は内心がっかりしていた。
そして腹が立っていた。あれだけ期待させたくせになんだよって――。
だから強硬手段に出て、園田の部屋に無理矢理突入してその時のことを尋ね、「俺は――美晴を傷つけた……」という返事に胸がギュッとなった。
やはりこの男もダメだったのか、と嫌味のように伝えた美晴の現状に園田はひどく驚き、心配して見せた。
この男は今までの人とは違う? 確信に変えたくて突っ込んだ質問をした。
そうして思ったのは、『園田は救世主になり得る』ということ。
だけどこのままではダメだと思い、僕は美晴がどうして火傷を負ってしまったのか、どうしてふたりでここに住んでいるのか、どうして『一日一回褒めるだけの簡単なお仕事です。』を始めたのかについても話した。
話して、晒して、フラッシュバックを起こし息ができなくなって――なにかが唇に触れた。
吹き込まれた息にすぐに呼吸できるようになったけど、混乱していた僕にはなにがなんだか分からなかった。ただ自分の罪を告白し、懺悔したかった。懺悔して許してもらいたかった。この男であればそうできると思ったのだ。
許されたその先に救いはあると思っていたから――。
*****
唇に触れたなにか――、後からあれは園田の唇だったのだと気づいた。
だけど呼吸ができなくなった僕への人工呼吸的な意味しかないものだろう。
その後もなぜか抱きしめられていたけど、それも特別な意味なんてないはずだ。
美晴と違って僕には人から好かれる要素なんてありはしない。
だって僕は人を不幸にするダメな人間なのだから――。
それでも僕の唇に園田の唇が、――あの腕に抱きしめられたのだと思うとなんだか顔が合わせづらくて、園田のことを避けてしまった。
頭を掻きながら気まずそうに去って行くあなたの後ろ姿を見ると胸がチクリと痛むのはどうしてだろう。
もしもこれが恋、なのだとしたら……。
想いを振り払うように頭を振る。
――僕にそんな資格なんてない。
*****
それから美晴は涼雨という少年のお陰で本当の笑顔を取り戻したのだと園田から聞いた。
僕が心から願っていたことだった。だから嬉しいはずなのに、なぜか心は空っぽで満たされない。
僕はどうしたらいい?
美晴があの頃みたいに笑ってくれたらすべてが元通りになると思っていた。
僕と美晴と両親と、みんなで笑いあえると思っていた。
だけど――――。
僕が先頭に立ち、すべてのことから美晴を守ってるつもりで繋いでいた手をいきなり離されて、僕は前にも後ろにも行けずその場から動けなくなってしまった。
僕は目標を失い迷子になってしまった。
僕はなにも許されていないから。
僕はひとりで、……どうしたらいい?
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