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運命さんこんばんは、ありがとう
4ー③
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航に肩を抱かれ歩く道は、まるで雲の上を歩いているようにふわふわとして心許なかった。だから航に身を寄せているのは仕方がないのだとした。そうしながらも僅かばかりの理性が働いて、これ以上は──と別れの言葉を口にしようとしてうまく言葉が出てこない。それはそうだろう、玲斗の本心はまだ一緒にいたかったのだから。
「……」
一方航の方は勢いづいて連れ出してみたはいいが、玲斗の様子はヒートに酷似しているものの少し違うような気もしてきていた。そしてあの場では連れ出すことばかりに気を取られてしまい、玲斗の意思を確認していなかったことにも気がついた。であれば、どうするべきか──どちらにしてもまずは一旦落ち着こう。
「──少しそこで休もうか」
航はちょうど目についた公園のベンチに玲斗を座らせ、自分が着ていた上着をかけた。そして「すぐに戻るから」と言い残し、玲斗の為に水を求めてその場を離れた。
冷たい水ならば喉を潤すのにもいいし、飲まずとも身体にあてるだけでも気持ちが良くなるはず。それから色々と確認すればいい。
*****
玲斗を包むようにかけられた航の上着を抱きしめ呟く。
「──ダメ、なのに……」
その呟きは夜の闇へと消えた航の背を追って、追いつくことなく消えていった──。
自販機がすぐ近くになかったのか、耳を澄ましてみても航の気配すら感じられない。このまま立ち去ってしまえばまだ間に合う。そう思うのに玲斗はその場を動けなかった。こないだとは違い少ないとはいえ『運命』と言葉を交わし、会ったばかりの玲斗の為に面倒だと思うのに水を求めて自販機を探してくれている。心配そうに玲斗を覗き込む航の瞳を思い出し胸がギュっとして、狂ってしまった方位磁石の針のように玲斗の心もぐるぐるとして定まらなくなる。
『運命』なのだから結ばれて当然だ。でも『運命』には番がいる。
だから? 自分と出会う前に『番』と出会っただけのこと、自分と結ばれる方が『運命』にとってもその『番』にとっても幸せなのだ。そんな自分勝手な考えを玲斗の心の針が指す。
そんなとき、背後に誰かの気配を感じ玲斗は振り向いた。視線の先には『運命』ではなく、恐らくαだろう若い男が玲斗のことを品定めでもするように厭らしい視線を向けていた。
「なんだぁ? えらい綺麗な子だな。こんなとこでひとりでなにしてんの? 具合でも悪くなっちゃった? 俺が休める場所に連れていってやろうか?」
言っていることは航とそうは変わらないのに、目的が違うのは明らかだった。お陰で玲斗は急速に頭が冷えていくのを感じた。
また失敗するところだった──。
玲斗は自分の愚かな考えを恥じ、男を無視して俯いた。こういう人間への対処法としては無視することが一番であるが、今の場合は違う。玲斗はこの場から動かないのだから男の怒りを煽るだけになってしまう。案の定男は苛立ち、強硬手段に出ようとした。玲斗にとってこの程度の相手はどうということはないのだが、男に腕を掴まれたことで航の上着が滑り落ち、玲斗の全神経は上着へと向けられ容易く男に抱き寄せられそうになった。
──が、すんでのところで「なにしてるっ!?」という航の怒号が聞こえ、男の動きが止まった。
「……」
一方航の方は勢いづいて連れ出してみたはいいが、玲斗の様子はヒートに酷似しているものの少し違うような気もしてきていた。そしてあの場では連れ出すことばかりに気を取られてしまい、玲斗の意思を確認していなかったことにも気がついた。であれば、どうするべきか──どちらにしてもまずは一旦落ち着こう。
「──少しそこで休もうか」
航はちょうど目についた公園のベンチに玲斗を座らせ、自分が着ていた上着をかけた。そして「すぐに戻るから」と言い残し、玲斗の為に水を求めてその場を離れた。
冷たい水ならば喉を潤すのにもいいし、飲まずとも身体にあてるだけでも気持ちが良くなるはず。それから色々と確認すればいい。
*****
玲斗を包むようにかけられた航の上着を抱きしめ呟く。
「──ダメ、なのに……」
その呟きは夜の闇へと消えた航の背を追って、追いつくことなく消えていった──。
自販機がすぐ近くになかったのか、耳を澄ましてみても航の気配すら感じられない。このまま立ち去ってしまえばまだ間に合う。そう思うのに玲斗はその場を動けなかった。こないだとは違い少ないとはいえ『運命』と言葉を交わし、会ったばかりの玲斗の為に面倒だと思うのに水を求めて自販機を探してくれている。心配そうに玲斗を覗き込む航の瞳を思い出し胸がギュっとして、狂ってしまった方位磁石の針のように玲斗の心もぐるぐるとして定まらなくなる。
『運命』なのだから結ばれて当然だ。でも『運命』には番がいる。
だから? 自分と出会う前に『番』と出会っただけのこと、自分と結ばれる方が『運命』にとってもその『番』にとっても幸せなのだ。そんな自分勝手な考えを玲斗の心の針が指す。
そんなとき、背後に誰かの気配を感じ玲斗は振り向いた。視線の先には『運命』ではなく、恐らくαだろう若い男が玲斗のことを品定めでもするように厭らしい視線を向けていた。
「なんだぁ? えらい綺麗な子だな。こんなとこでひとりでなにしてんの? 具合でも悪くなっちゃった? 俺が休める場所に連れていってやろうか?」
言っていることは航とそうは変わらないのに、目的が違うのは明らかだった。お陰で玲斗は急速に頭が冷えていくのを感じた。
また失敗するところだった──。
玲斗は自分の愚かな考えを恥じ、男を無視して俯いた。こういう人間への対処法としては無視することが一番であるが、今の場合は違う。玲斗はこの場から動かないのだから男の怒りを煽るだけになってしまう。案の定男は苛立ち、強硬手段に出ようとした。玲斗にとってこの程度の相手はどうということはないのだが、男に腕を掴まれたことで航の上着が滑り落ち、玲斗の全神経は上着へと向けられ容易く男に抱き寄せられそうになった。
──が、すんでのところで「なにしてるっ!?」という航の怒号が聞こえ、男の動きが止まった。
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