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番外編 扉を開けようよ
1 SUNAO
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今僕らはこの新しい物語における最大級とも言える大きな扉の前に立っていて、扉の向こうには新しい世界が待っている。
それはひとりでは開けられない扉で、ふたりで開けなければならない扉だ。
めでたく両想いになった今、普通はそのまま勢いに乗って開けてしまうものなのかもしれない。だけど「じゃあ開けよう」って言える程お気楽な扉でもなくて、僕は扉の前でどうするべきか頭を悩ませていた。
*****
僕と日奈稀は小学三年生からの付き合いだ。僕が日奈稀を冒険に誘って始まった関係で、それから僕らは沢山たくさん冒険をした。全部が特別で、全部が楽しかった。
ある事がきっかけで冒険を止めてからも僕らはいつも一緒に居たけどいつも不安だった。僕らの始まりは『冒険』だったからいつか必ず終わりがくると思っていたからだ。不安でふあんでどうしようもなくて、いつかくる終わりに怯えて周りが見えなくなっていた。
その結果お互いに好きなのに拗らせまくって、しなくてもいい遠回りをしてしまった。それで自分たちも傷ついたし、周りにも沢山迷惑をかけた。
中でも名取くんには本当に申し訳ない事をしたと思う。
僕と日奈稀の気持ちが通じ合った翌日、ふたりそろって名取くんにお詫びに行った。日奈稀は少しだけ不満そうにしていたけれど誤解があったとはいえ、日奈稀が突き飛ばしてしまった事は100%こちらが悪いのだから謝らないなんて選択肢はない。
名取くんは本当にいい人で、土下座する勢いで頭を下げて謝る僕らを慌てて止めてくれた。
それから普通に名取くんの方から僕らに声をかけてくれて、一緒にゲームをしたりするようになった。
日奈稀は相変わらず僕にべったりで、ゲーム中の後ろから抱きしめるのも止めていない。時々名取くんが日奈稀の事を揶揄ったりしているけど、日奈稀もそれに少しだけ楽し気に応じているので、いい関係になれたのだと思う。
僕らを拗れさせた最大の原因である他の人とのキス……は、もうしていない。
不思議な事にあれから一度も声をかけてくる人は居なかった。日奈稀が何かしたのかと思ったけど、違うのだと言う。勿論誰かが現れたら断るつもりではいたらしいけど、とりあえず僕はホッとした。
それでもあれはもうないと分かっていても誰かが近づいてくるだけで僅かに身体が強張ってしまうのだけど、もう僕らは煩いくらいの鼓動が自分だけのものじゃないって知っているから、お互いの気持ちを疑ったりはしない。
大丈夫だと後ろから抱きしめてくれる日奈稀の頭にすりりと頬を寄せ応えた。
*****
あれから何度もキスをした。唇を合わせるだけのキスだけじゃなくて、もっと深いキスだってした。好きだからキスをして、そしてまた好きになる。
沢山のキスを集めてスキを編み続けている。
――だけどひとつだけ問題があった。
その問題というのは、最初に言った大きな扉に関する事だ。
他の人が聞くと「は?」って思うかもしれないけど――、僕は真剣に悩んでいる。
日奈稀が…………色っぽいのだ。
何の問題が? と思うかもしれないけど、大問題なのだ。
と言うのも、『色っぽい』→『抱かれる側』という事になるのではないかと思うからだ。
でも僕も、その……抱かれる側がいい……。自分が日奈稀を抱いている姿なんて想像できない。
あくまでもこれはイメージであって、本当は違うのかもしれないから本人に訊けばいいんだろうけど、やっぱりちょっと恥ずかしくて勇気が出ない。
だけどふたりで扉を開く為には確かめなくては――――。
僕はもうお互いを傷つけあうような遠回りはしたくない。
それはひとりでは開けられない扉で、ふたりで開けなければならない扉だ。
めでたく両想いになった今、普通はそのまま勢いに乗って開けてしまうものなのかもしれない。だけど「じゃあ開けよう」って言える程お気楽な扉でもなくて、僕は扉の前でどうするべきか頭を悩ませていた。
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僕と日奈稀は小学三年生からの付き合いだ。僕が日奈稀を冒険に誘って始まった関係で、それから僕らは沢山たくさん冒険をした。全部が特別で、全部が楽しかった。
ある事がきっかけで冒険を止めてからも僕らはいつも一緒に居たけどいつも不安だった。僕らの始まりは『冒険』だったからいつか必ず終わりがくると思っていたからだ。不安でふあんでどうしようもなくて、いつかくる終わりに怯えて周りが見えなくなっていた。
その結果お互いに好きなのに拗らせまくって、しなくてもいい遠回りをしてしまった。それで自分たちも傷ついたし、周りにも沢山迷惑をかけた。
中でも名取くんには本当に申し訳ない事をしたと思う。
僕と日奈稀の気持ちが通じ合った翌日、ふたりそろって名取くんにお詫びに行った。日奈稀は少しだけ不満そうにしていたけれど誤解があったとはいえ、日奈稀が突き飛ばしてしまった事は100%こちらが悪いのだから謝らないなんて選択肢はない。
名取くんは本当にいい人で、土下座する勢いで頭を下げて謝る僕らを慌てて止めてくれた。
それから普通に名取くんの方から僕らに声をかけてくれて、一緒にゲームをしたりするようになった。
日奈稀は相変わらず僕にべったりで、ゲーム中の後ろから抱きしめるのも止めていない。時々名取くんが日奈稀の事を揶揄ったりしているけど、日奈稀もそれに少しだけ楽し気に応じているので、いい関係になれたのだと思う。
僕らを拗れさせた最大の原因である他の人とのキス……は、もうしていない。
不思議な事にあれから一度も声をかけてくる人は居なかった。日奈稀が何かしたのかと思ったけど、違うのだと言う。勿論誰かが現れたら断るつもりではいたらしいけど、とりあえず僕はホッとした。
それでもあれはもうないと分かっていても誰かが近づいてくるだけで僅かに身体が強張ってしまうのだけど、もう僕らは煩いくらいの鼓動が自分だけのものじゃないって知っているから、お互いの気持ちを疑ったりはしない。
大丈夫だと後ろから抱きしめてくれる日奈稀の頭にすりりと頬を寄せ応えた。
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あれから何度もキスをした。唇を合わせるだけのキスだけじゃなくて、もっと深いキスだってした。好きだからキスをして、そしてまた好きになる。
沢山のキスを集めてスキを編み続けている。
――だけどひとつだけ問題があった。
その問題というのは、最初に言った大きな扉に関する事だ。
他の人が聞くと「は?」って思うかもしれないけど――、僕は真剣に悩んでいる。
日奈稀が…………色っぽいのだ。
何の問題が? と思うかもしれないけど、大問題なのだ。
と言うのも、『色っぽい』→『抱かれる側』という事になるのではないかと思うからだ。
でも僕も、その……抱かれる側がいい……。自分が日奈稀を抱いている姿なんて想像できない。
あくまでもこれはイメージであって、本当は違うのかもしれないから本人に訊けばいいんだろうけど、やっぱりちょっと恥ずかしくて勇気が出ない。
だけどふたりで扉を開く為には確かめなくては――――。
僕はもうお互いを傷つけあうような遠回りはしたくない。
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