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キスを集めるキミと スキを編むボクと

4 キミの想いを知る ①

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 あれから日奈稀はただ僕の方を物言いたげに見つめるだけで、何かを言ってくる事も近寄ってくる事もなかった。僕の方も色々と限界だったから今の距離感は正直言って助かっていた。もしも日奈稀が素知らぬ顔でいつも通りゼロ距離できていたら今度こそ僕の心は壊れてしまっていたかもしれない――。

 誤解を解かなきゃだとか言いたい事や訊きたい事が沢山あるのに頭の中がぐちゃぐちゃで整理ができないのだ。何か話すにしてももう少し時間が欲しい。

 キスの事……は知らない。傍に居ないんだから見る事もないし、知りたくもないから人が来るだろう休み時間になると僕はそっと教室から離れた。そしてその後を追うように名取くんが来てくれて一緒にゲームをして、自ずと名取くんと一緒に居る事が増えた。

 名取くんはすごくいい人で、ゲームも本当に好きみたいだし僕よりも断然上手だ。のせるのも上手で、その時ばかりは日奈稀の事を忘れてただゲームを楽しむ事ができた。

 だけど背後に誰かの気配を感じるとびくりと肩が震えてしまい、途端に現実に引き戻されてしまう。
 日奈稀の事、キスの事。
 背中にいつも感じていた温もりはないのに。
 
「――豊田くん、トラウマになってへんか?」

「トラ……ウマ――?」

「まぁあれだけ続くとなぁ? 僕が転校してくる前もずっとやったんやろ? それだけ嫌やったって事やろ。好いた相手が他のやつとキスするのなん僕やったらはったおすで。豊田くんも我慢せんと言うたったらよかったのに。言わんと心の中の事なんて誰も分からへんよ?」

 慰めるように、諭すように言う言葉がぐさりと胸に刺さった。

 そう、だよね。思えば僕は自分の気持ちを日奈稀に言った事はなかった。
 日奈稀が王子さまになってもこの『スキ』に変わりはなかったのに、花冠を編めたら告白しようだなんて、実際の花を使ったものじゃないからいつ編み上がるかなんて僕の気持ち次第だった。それなのに何年も何年もまだ完成しないのだからと誤魔化し続けた。

 それに僕は日奈稀の気持ちを分かってはいないのかもしれない。
 突然始めた大勢とのキスだって、僕がキスを断ったから当てつけだなんて、日奈稀はそういう事をする人間じゃないのに。きっと別に理由があったはずなんだ。

 最初に冒険に誘った時だって何度も断られたけど、僕は諦めなかった。
 そりゃあ告白して受け入れてもらえなかったら諦めざるを得ないんだろうけど、僕はまだ何もしていないじゃないか。それなのに僕よりも可愛い子たちとキスをしていたらいつか日奈稀は『スキ』を見つけてしまうんだ、と諦めてしまっていた。
 どうせダメなら一回でもキスをして、なんて、それも諦めだ。

 僕は元々冒険物語が好きで、新しい事が好きで、何にでもひよったりなんかしなかった。

 「パンっ」っと僕は勢いよく両手で自分の頬を叩いた。気合を入れたのだ。

「ちょっ!? いきなりやな……。でも、ええ顔しとる」

 そう言ってサムズアップする名取くん。僕も同じようにしようとしていきなり誰かから腕を取られ、強引に抱き込まれた。

 逃がさないというようにぎゅっと。

「――ひな……き?」

「――て、ゆるさ……な、い」

「え?」

 何を許さない? 日奈稀の身体は怒りに燃えているのかいつもより大分体温が高いように思う。

「――日奈稀? 何……?」

「俺、から……直は離れちゃダメ、だ。直は俺の傍にいなくちゃダメ、だ。ずっとずっと俺と一緒に居なきゃダメなんだっ。だからこんな目にあうんだっ」

 と赤くなってしまっている僕の頬をそっと撫でられ、触れられた所が僅かに痛んで眉間に皺を寄せた。

 ――名取くんに殴られたって勘違いしてる?




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